「大丈夫。心配いらないわ」
さすが高名な霊能者は、言葉にまでパワーがあるものだ。さっきまで私を苛んでいた不安は、彼女のひとことを聞いただけで、すっと溶けるように消えていった。
私の向かいには、着物姿のふっくらとした中年女性が座っている。彼女は柔和にほほえんで、言葉を続けた。
「『一週間くらい前から何かに取り憑かれているみたいだ』とおっしゃっていたけれど……これは、あなたに悪さをするものではありません」
「と、言いますと……」
「あなたを護っているのよ。彼女……そう、女性なのだけれど……こう言っているわ。『遠く離れた彼岸からも、あなたをずっとずっと見ているよ』って。よかったわね」
そんな風に、私のことを気にかけてくれる人がいたなんて。思いがけないことに、心が温かくなった。
「それは、いったい誰なんでしょうか?」
霊能者は、優しい声で答えた。
「あなたの、『お母さん』だと言っているわ」
鳥肌が立った。
「あの……母はまだ生きていて、今も一緒に住んでますが」
『安心と不安』
1/25/2024, 2:54:02 PM