うつくしい、空だった。
晴れているのに、さぁっと雫が落ちてアスファルトの匂いがした。
折りたたみ傘を出そうとコンビニの軒先に入った。
刹那。
聞きなれた音と、雨をすりぬけるような声。
開くドア、油の香り、車へ走る人。
弾かれたように目を向けた先には、笑顔で働く姿。
だれかのえがおが、声が、世界を。
動かしている。
そう体感したぼくもまた。
だれかに支えられているんだ。
「通り雨」
ぼくがきみを。
きみがかれを。
かれがあの子を。
あの子が。
みつめる、みつめられる、ふりかえる、瞬く、だれもが。
同じ世界で、同じ時に、ぼくたちは。
入り組んだ窓から別の方向を見ている。
それぞれ誰かを、なにかを。
大切に、想いながら。
「ジャングルジム」
何となく開けた引き出しの、奥底に眠る箱。
自分だけの、タイムカプセル。
そっとひらいて、閉じ込めた想い出を手繰る。
いつもなかよくしてくれてありがとう。
これからもよろしくね。
だいすきだよ。
つたない文字が綴るあいのあることば。
なんとなく、だったはずなのに。
想い出はあたたかな雫となり、頬を伝った。
つらくても、苦しくても。
輝いた日々が道標となるから。
いつまでも、たいせつで。
忘れないよ。
「声が聞こえる」
古い紙の匂い、まばらに座る人達。
半分ほど空いた窓からは、グラウンドで部活動にはげむ声が聞こえていた。
わたしは、この独特の世界が好きだ。
ぺら、ぺら、とページをめくりながらまた目の前の話に溶け込む。
その瞬間。
やわらかな風に揺れるカーテン。
ひらり、と机に舞い降りた紅葉。
瞳を向けた、そとのせかい。
汗を流し走るクラスメイト。
いつもふざけているくせに、なんで。
一生懸命な姿をぼんやり見送り、届いた紅を静かにみつめた。
「秋恋」
ゆめだとわかっている。明晰夢だ。
けれど。
無理だと知っている。嫌でも明日は来るし、拒んでも日々は去る。
だけど、ぼくは。
いまだけでいいから。
「時間よ止まれ」