#まだ知らない君
僕は、ひとの気持ちが分からない
ただ、膨大な観察結果から欲しいであろう回答、は予想出来る。
なのに。
君はそのどれにも当て嵌まらない。
「寒いね。」
「…カイロ有るけど要る、?」
「ううん。一緒に帰れるのが嬉しいから良いんだっ。」
変だ。絶対そんな事ない。
思わず手をとったら、氷みたいに冷たかった。
僕は大慌てでカイロを握らせる。
「冷た過ぎる…っ」
人間の指ってこんなに冷たくなるのか、
女の子って冷えたら駄目なんじゃないのかっ、?!
「ははっ。優しいっ。」
それでも楽しそうに笑うから。
僕は、役に立たない観測結果より、
今度からカイロを余計に用意しようと思った。
SNSの一角に、優しい世界が有る。
姪の誕生日を祝ったり、子供の面白いエピソードを爆笑しながら見守る様な世界が。
それを眺めて飽きた様な声が言う。
「嗚呼、知らない世界。」
しかし、嘆いているわけではない。
嘆いているのは恐らく今の私よりずっと小さい私で。
あの頃、泣き喚く程に欲しかったものはコレかと、今になって液晶越しに目にして何か思うものがある。
それが何なのか解明したい。
"ひとは見たことのないものは、欲しくはならない"
そうだろうとも。
ならば、余計にそうだろうな。
私達は賢過ぎた。
ありとあらゆるものを学びとした。
私達は目が良過ぎた。
文字が読める様になるとその意図まで理解しようとした。
私達は、故にあまりにも自由だった。
ひとには見えないものを何処までも見た。
この指で紙を捲り、この手でペンを握った。
この耳であらゆる音を聞き、些細な変化で感情すら読み解いた。
あまりにも色々なものが見えた。
私達は見た。
優しい温かい世界を、この指でこの耳で見た。
現実に有るかもしれない世界。
文字の中の世界、想像の中の世界から、限り無く存在すると思われる"理想の現実"を見てしまった。
見てしまったからには欲しくなる。
欲しくなるが与えられるものは、別のもの。
恐らく、おもちゃが欲しいと思ったがくれたのは文鎮だった。
そのくらいのがっかりなら私達は笑っただろう。
がっかりはしても、理解は出来た筈だ。
膨れっ面をしてもそれが愛だと言うことを私達は理解できる。
もし、私達に私達が見た"欲しいもの"が与えられたなら。
きっと向かう所敵なしだっただろう。
だから彼らは奪う。
奪わなければ彼らの何かを私達が奪ってしまう、と危惧したからだ。
恐れたのか、恨まれたのか憎まれたのかは知らない。
ただ、与えられなかった事だけは知っている。
愛が欲しいと子供が言う。
愛とは文鎮である、と親は言ったのかも知れない。
残念ながら小さい私達は愛が具体的な何を示すのかを知らない。
もし知っていたなら、と思わずにはいられない。
ハグをしておいで、と囁いてあげられただろう。
抱っこを強請るといいよ、とコソコソ話をしたり。
あどけないくちで、きゅうけいしませんか、と言ってみたらどうかな、など色々と吹き込んだだろう。
そうして色々なことを操って来ただろう、と予想が付く。
幼いながらに聡い頭へ、経験値が付いたならきっと天才と呼ばれたに違いない。
親思いの可愛い子になれかも知れない。
まぁ、しかし舐め腐った子供になっていた可能性もちと有るな。
鼻っ柱は早く折った方が良い。
あまり煽てると流石の私達も木に登り天狗になって空を飛び、いずれ太陽に焼かれたかも知れない。
それはイヤだな。
恥はなるべく少ない方が嬉しい。後学の為にも。
さて、与えられなかったものを何時迄も嘆く私達ではない。
文字すら追えない目で、音が溢れていく耳でそれでも何かを拾いたいと思って手を動かして、耳をそばだてる。
何か見たい
何か聞きたい
何か胸が痛いものを
例えば、井戸の中の蛙が見る空の深さの様に。
この目でこの耳でしか見えない何か、大事なものを。
それを探す事も愛で
それを見つけて大事に仕舞っておく事も愛で
突いてみるのも愛、弾いてみるのも愛。
曇天の空に価値が無いなんて、井戸の中の蛙は思わない。
きっと、あの色が向こうの色に変われば雨が降る。
あの雲の向こうに空がある。
空はどんなでこんなに高い、と曇天でも空を見る。
馬鹿だな、と笑う蛙も居るかも知れない。
恐らく私達は笑わない。
空を想う蛙の気持ちをきっと他の何より知ってる。
今の私達は、ある特定の条件下でのみ、本領を発揮するいきものになってしまった。
残念ながら誰かが当たり前の様に持っているものを、私達は自分で探さなくてはならない。
小さい時から持っていた皆のそれとは違って、どうにも歪で後から拾い集めた小さなカケラ達では中々に上手く嵌まらない。
これが上手く嵌った時にこそ、私達は存分にこの目と耳を行使する。
若干、手と足が鈍臭い所が有る。
なにぶん、賢いのは頭だけで筋肉は怠惰を極めている。
脳が筋肉でなくて助かった。
私達は極上のインクと極上の音色でファンファーレを謳う。
「Catch me if you can, I’ll give you a head start.」
そのぐらいしなければ、
私達から、私達が幼い頃に欲しかったアレを取り上げるくらいの暴挙に出なければ。
あなたがたは、敵わないとその足りない頭で考えたのだろう?
残念だ、と書いて有難うと読んでもいい。
それをルビと言うんだが、あなたがたはご存知か。
私達は地道な努力を怠らない。
私達はたった一文字、この一音だけで何よりも素晴らしい世界を創り出す事が出来る。
私達は空の深さを知っている。
あの頃欲しかったものは、きっと今も欲しい。
けれどその渇望も絶望も感傷も何もかも、私達には世界を創る何か、へと昇華出来る。
それは才能だ。
それは希望だ。
あなた方には無いのでしょう
目が滑るあの寒気のする様な経験も、音が聞こえるのに何ひとつ理解出来ないあの恐怖の日々も。
私達はーー
「ある。」
「あるよ。」
「わたしも。」
「わかる。」
「捕まえられるものなら捕まえてみな、少しハンデをあげるよっ!」
私達とあなたがた、
この世界で一番輝いているのは誰か。
勝負をしよう。
___の為の10項目
1、治る病気である
2、根気強くしかし軽やかに付き合う病気である
3、幸いなことに金は掛からない。
4、幸いなことに人目につきにくい。
5、多少、変わったやつだと思われるだろうが、
まぁ今更で、皆変わり者である。
6、誰にでも、得意、不得意はある。
7、「人間」が死ぬことは大変なことである。
8、「人間」が生きて行くのは大変なことである。
9、「人間」が生きて行くには大変な世界である。
10、しかし、わたしは人間である。
ーーーーー
1、幸いなことだ
2、長く付き合って行く病気は幾つも有る。
これは特別な対応では無い。卑屈になった消去法でも無く、
実によく用いられる方法である。
3、治療費は掛からないな。収入もあまり無いが。
4、隠すのが上手いと見えるが、それが玉に瑕という奴だ。
完璧など無い。少し間抜けな方が愛嬌が有る。
5、人間味が有る、とも言うな。
6、得意、不得意のみで人間の価値は量れない。
7、なので死ぬ必要は無い
8、なにせこんな世の中だ
9、他人を家族を見てみろ、意外と悲壮な物を隠し込んでいる
10、それが人間である。
気味の悪い生き物だとは思わないか
自分の価値を他人の目で量らせる
馬鹿を言うな、君の価値はわたしが決める。
わたしが何者か知らないのか?
つくづく馬鹿だな
その何も見ていない瞳にキスをしたい
そのウソばかり吐く唇に舌でも潜り込ませれば、
本当の事を言うのか
毎日見ている鏡は何だ
前髪ばかり見ているからだ
ほら、見えるか
もっと遠くだ全体を見ろ
「わかるだろ。」
わたしは好きなんだ
「人間」が踠きながら生きて行く様を見るのが。
何時迄泥にへばり付いてる?
風呂でも沸かそうか?
沸かせば良いだろ君が。
私は無理だ。
だってほら、そうだろ。
「君がやらないなら僕にも出来ない。」
キスも出来ない
舌を突っ込んで喘がせることも、泥まみれの身体を熱い湯で流してもやれないが。
君は出来るだろ?
出来るならやってる、か。
じゃあまぁ、良いさ。別のことをしよう。
ところで、聞きたい事が有る。
「紅茶とコーヒーどっちの気分だ?」
ここでクスッと笑って答えてくれたなら私は、僕は救われる。
泥はあまりオススメしない。ベッドが良い、行こう。
大人しく布団を被せておやすみを言うのが、紳士。
大人しく布団を被せて側にくっ付いて眠るのを見たいのが、変わり者。
大人しく布団を被せながら一緒に寝ても良いかと断りを入れるなら、
僕も紳士かも知れない。
それがーー君の望みなら嬉しい。
そんな鬱々とした顔で眠らせるなら、悪いことをしたい。
「こんな僕は嫌いじゃ無いと、」
「_____は知っている。」
嗚呼、それでこそだ。
君は「人間」だ。
それも良い人間だ、踠き苦しんでキスの味も知っている。
愛おしくてお可愛いねぇ。
いい子だ。その意気だ。
もっと僕を欲しがれ。
#冬は一緒に
自分なりに精一杯やったと自負している
最中に、このままではきっと望む結果は得られないだろうと分かっていても。
努力する事には価値が有る、今年だけじゃない。
来年また挑めば良い。
その糧になる様に、望む結果を得られなくてもギリギリ指先が掠められる所まで距離を縮められる様、手を尽くした。
一番の敵は精神不安
例えるなら。
寒い中震える手でペンを握り続ける様なもの。
勿論、暖かい日もある。
だからこそ凍える様な日も。
かじかむ指は先端から痛みを伝え、背中をゾゾゾと冷たい風が舐め、身体の動きを鈍らせる。
それでも無視し、ペンを握りページを捲るが。
そんな事何時迄もは続けられない。
強張った手指は暖めないと使えない。
換えも利かない道具だ。
そんな寒々しい日ばかりでは無かった。
嵐の様に慌ただしい日も、しとしと雨降る穏やかな日も有った。
カラッと晴れた日なんかは勉強も捗った。
人より多いか少ないかは問題ではなく。
ただ、凍える日にはそれ用の対応をした。
それだけの事。
もしもっと晴れた日が続いたなら
嵐に見舞われたりしなければ
欲しい結果が得られたかも知れない。
あとほんの少しの所だった
欲しかった物が指先を掠めた感触すら有った
だが、結果は予想通り。
「寒い日が続いている、」
そう話してその意味が本当に理解出来る者は、
此処には居ない
何故か。
「寒い日が続いている、」
「暖房点けないからよ。」
ーーその通りだ。
貴女はよく寒い々と火に当たっている
「寒い日が続いている、」
「気のせいだろ、お前が寒がりなんだ」
ーーその様だ。
貴方は何故そんな薄着なんだ
今年も仕事に明け暮れる
遠い薬指の人にも同じ事を言う。
「寒い日が続いている、」
そのひとは言う。
「此処、あったかいよ」
暖房を点け若干の薄着でそんな事を言う
画像越しではどう見ても寒そうに見える
嗚呼、なるほど
次々添付される画像は、あちこちにカイロを貼り、コタツの様に暖かいらしい靴下を履き、薄着の下を捲ると腹巻きが有った
「温そうだ。」
お陰で、こちらも
かじかむ指が解けてきた様な気がする
側には居てやれもしないくせに、そんな事で助けられてばかり居る。
そうだ。
耳当てでも送ってやろう
ふわふわの茶色いのが良い
代わりに画像を一枚送って欲しい
ふわふわの茶色い耳当てをした姿を。
そしたらきっと寒い日も、乗り越えられる。
冬はまだ続く。
側には居られなくとも、
せめて冬の過ごし方を共有しても良いだろうか
「わかった、耳当てと自分の分のジャケットも買う。買うから、写真送ってくれるか」
何故バレた。
どうせ冬は寒いものだ、と疎かにしていた防寒具を新調する事になった。
自分の為に金を掛ける意味が分からないが、そう叱られると無視出来ない。
「晩飯は、」
飯もどうでもいい。
側に居てくれないと、作る楽しみすら見出せない。
「雑炊、でもいいか」
こんな寒い夜に強請られて、仕方なく台所に向かう。
画像越しで食えもしないのに、作って写真を撮ってやる。
それを見ながら今、のり弁を食っているらしい。
こちらは、食べる予定の無かった雑炊を食う。
「…うまい、」
自分の飯の味には自信が有る
それより自信有り気に画面の向こうからメッセージが飛んでくる。
どうでも良かった筈の飯が、身に沁みて美味い
暖かくなったか、とメッセージが聞いて来る。
「ああ。お陰で随分と温い。」
舌を火傷する程で、乗せた梅干しがその舌先にビリッと染みたが内緒にしておこう。
格好が着かないだろ。
#仲間
いいんですよ。
人をどれだけバカにしようと。
でもひとつ
気を付けて、と気遣いつつ
脅しを掛けるなら
書けば文学 よ。
「でしょみんなっ。?」
「うんうん。」
「良い題材ですよっ!」
「それで…アイツはナニにするの?」
「カワイソーな役が良いっ。」
「頭の足りない奴にしよう。」
「では代わりに、努力家なお姫様を用意しよう。」
「では私が、孤独な王子様を描こう!」
「はいはいっ!僕、悪の親玉創りますっ!」
あれよあれよと言う間に、
あなたは傀儡となって文字の中で憐れになる。
良いんですよ。知らなくて。
どうせ言ったって
お人形さんになってしまっては
"理解"出来ないでしょう?
良いんですよ。
役は幾つでも用意できますから。
存分に踊って見せてくださいね。