『涙の理由』
「またね」
「うん、またね」
私はわかっていた。
このまたねがもう会うことの無いまたねだと。
サヨナラは言えなかった。
お互いに背を向けて歩き出した。
もう会えないとわかっていて最後の嘘をついた。
最後の悲しい嘘。
それを理解した時涙が止まらなかった。
最後ならもっと笑い合える嘘がつきたかった。
『ココロオドル』
普段何を見ても感情の1つ動く事無く
ただ日々を過ごしていた。
ある時、ふとテレビを見た。目的はなかった。
ただそこにはスポーツ中継が流れていた。
種目は男子バレー。
ただのボールの打ち合いだと思っていた。
しかし全然違った。
ボールの速さは僕の素人目には追えない。
それにサーブの威力はウケる人が
転ぶ程のパワーがこもっている。
アタックなんか一瞬何が起こったのか分からなくなる。
僕は気がつけばテレビに釘付けになっていた。
点を取られれば悔しがっていたし、
点が取れた一緒に喜んでいた。
ルールも詳しく知らないこんな僕でも
これだけ熱中できるんだ、
きっとルールを詳しく知ってる人は
もっと熱くなれるだろう。
僕はここしばらく無くしていた心の高鳴りを感じ
笑がこぼれていた。
『つかの間の休息』
「すみません先輩!発注枚数少なくしてしまって足りない部分が出てしまって…」
「他部署から応援もらって対応するから」
「すみません!」
「次からちゃんと確認して発注して。」
「先輩こっちも打ちミスが…」
「今行くから少し待ってて。」
そんなこんなで部下のミスや自分の仕事に追われ、
職場では鬼先輩等と影で呼ばれているのを私は知っていた。
私だって好きで注意している訳では無い。
注意するのだって体力を使うのだ。
ただ未然に防げるのであれば防ぎ、
防げないとしても最小被害で抑えたい。
それ故に部下たちに強く当たってしまっているのだ。
パワハラと訴えられても可笑しくないと頭を抱えてしまう。
お昼休み、私の昼食はおにぎり一つだ。
それと楽しみのココアだ。
おにぎりとココアの組み合わせが合うとは言わない。
おにぎりを食べ終わった後のココアの甘さが
私の全身をほぐしてくれるかのように染み渡る。
また午後から色んな問題が起こるのだろう。
だからこそのココアの糖分が私の仕事の糧になる。
さぁ、午後からの戦場へと向かおう。
『力を込めて』
元々何か作品を作る人とたまたま何かのきっかけで作る人
料理で例えるとして
料理人が素材や作り方の手順、切り方等力を込めて
作った味噌汁
素人がただその人の事を想って作った味も見た目も荒い
味噌汁
普段料理をしない人が作った味噌汁はとても褒められるだろう。
しかし、料理人が作った味噌汁は確かに味は良い。だが、
料理人が味噌汁を作ってもっと手の込んだ料理が出てくると
思い少なからず残念だと思う人が多いのが現実だろう。
僕はただズルいなと思った。
どちらの人も力を込めて作った味噌汁なのに料理人は残念だと言われる。
状況によっては褒められるとしてもそういう世界が僕は嫌だと思った。
『過ぎた日を思う』
お酒を飲みながら夜空を見ていた。
酔いも程よくまわり私の思考はボーッと過去を遡っていた。
「付き合ってください!」
「ごめんなさい、私好きな人いるの」
そう言って彼に背を向け告白を振ったあの日。
好きな人が居るなんて嘘だった。
後日彼は私の友達と付き合っていた。
彼の事を私の友達が好きだったのを知っていた。
あの時の私は私より友達と彼の方がお似合いだと
自分が引き下がり、友達に譲ったのだ。
今思えば馬鹿げたことをしたと思う。
それから告白された事なんて無く今この歳まで
1人で過ごしている。
あぁ、あの日をもっと自分の為に使っていれば
きっと今頃家庭円満な生活だったのかもしれないと
夜風に当たりながら私は思った。