『星座』
ススキが揺れる夜の田んぼ道を歩きながら
空を見つめていた。
秋口だと言うのにまだ暑さが残っている。
「今年は本当に暑いよな」
先輩が手で仰ぎながら僕に話しかけてきた。
「本当に今年はずっと暑いですよね」
そこで会話は終わってしまった。
僕は自分のコミュニケーション能力の無さに
表情を暗くした。
それを先輩は見過ごさなかったようで
「知ってるか?あっちの方角見てみろ」
と空の方を指さした。
「ペガスス座とケフェウス座の間にうっすらとギザギザの星たちがあるだろ?」
「そうですね…目をこらすと見えますね」
「あれ、とかげ座って言うんだってさ。どんなに薄くても星と星で集まれば88星座として名前残せるんだ。凄いよな」
僕はとかげ座から目が離せずに返事をするのを忘れていた。
そんな僕の頭を雑に大きな手で撫でながら先輩は
「少し良い顔になったな!明日からまた頑張ろぜ!」
「はい、ありがとうございます!」
先輩の言葉と知識で僕は勇気づけられてまた明日へと
時間を進めた。
『踊りませんか?』
ホールは静寂に包まれていた。
2人の武装した戦士が見つめ合っていた。
片方の戦士の方から籠った女性の声が聞こえた。
「私と踊りませんか?」
片方の戦士の方からは男性の鼻で笑う音が聞こえた。
「死の舞踏会でも開くのか?」
お互い顔は見えて居ないが、笑っているのが感じ取れる。
どことなくカタンと音がしたと同時に2人の戦士は
お互いに向かって武器を構え走り出していた。
お互いの武器は大きな音を立て、
手から離れることは無かったが2人は体勢を崩した。
しかし一瞬で立直し、また武器を向けた。
その様子はまるでどちらかが死ぬまで終わることの無い
踊りだった。
『巡り会えたら』
何度も夢に出てくるあの女性。
何処かで見た事ある気がするが顔もぼんやりしか見えず、
名前なんて以ての外で思い出せるはずもない。
ただ夢で僕のそばに居てくれる。
ただの話やちょっとした愚痴。
どんな話もにっこりと笑顔で聞いてくれる女性に
僕はいつか巡り会えるのだろうか?
もし巡り会えたらどんな事を話せば良いのだろうか…
会いたいようなそうでは無いような
難しい気持ちを抱いてしまった。
『奇跡をもう一度』
私は願った、ただ家族みんなで温かいご飯を食べながら
今日の事について話して笑っている時間が
もう一度欲しかったと。
兄弟と手を繋ぎ買い物に行くなど、兄弟が居る人なら
多くの人が経験した、兄弟だけでの買い物。
その時間がもう一度欲しかった。
私達人類は今、目の前に大きな神獣たちの遊びに付き合わされ何人の人が命を落とすだろう。
昨日まで平和だったあの奇跡をもう一度…私は懇願する。
『たそがれ』
数年と同じ業務を繰り返し、上司には怒られ部下の尻拭いにあちらこちらに頭を下げそんな日々を繰り返していた。
気がついたら中堅と呼ばれるくらいまで働いていた。
しかし、自分がそんなスキルを持っているとは思えない。
私は溜息1つ吐き今日の業務を終わらせると、気がついたら屋上に来ていた。
命を絶つ為ではない。ただこの場所から観る黄昏空が好きなんだ。ビルの隙間から黄昏色の夕日が差し一日の疲れが浄化される様な感覚になる。
右手に持っている缶コーヒーをゆっくり飲みながら見つめていた。この時期はもう寒くなり日が落ちるのも早くなる。黄昏空も見えなくなる季節が来てしまうのかと少し寂しい思いがあるが、またこの黄昏空を見る為に頑張ろうと心に思い、缶コーヒーを飲み干し、今日の日課を終え帰宅した。