君とは違う人

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11/21/2023, 12:59:30 PM

パチッパチッ

火が燃える音が絶え間なく聞こえる
周りには膝から崩れ落ちて絶望する人や泣きじゃくる人がいる
僕もそんな中の一人

この炎の燃料は私の住んでいたアパート
中には思い出の写真や大事な本、洋服などが入っていたが
それよりパソコンと通帳が燃えてるのが不味い
再発行はめんどくさいし、パソコンは30万もしたのだ

唯一の救いと言えば、ポケットの中にスマホと財布があったことだ
何も考えず部屋を出たにしてはよくやったと自分を褒める

ケータイの充電は30パーセント程

とにかく今日の寝床を確保しなければならない
友人に電話をかける

「なぁ、今日家泊めてくんない? 今家が火事になっててさぁ」
とりあえず要件を淡々と伝えているが、内心は焦って仕方がない

「まじかよ!家ならいくらでも泊めてやるから早く来いよ」
優しい友人をもったものだ

「ありがとう、すぐ向かうから鍵開けて待っててくれ」
「了解!」

会話を終え、電話を切る
燃えている我が家を後にして友人宅に向かう

向かう途中で差し入れを買いにコンビニに寄った後
何故か先程の友人から電話が来た

「もしも…」
「なぁ!俺ん家も燃えたんだけど」

どういうことだ?
自分の周りでこんなに火事が起こることがあるのか

「とりあえず、大切なものだけ持ってすぐに逃げろ
財布とスマホは忘れずにな」

得たばかりの教訓を友人に伝える

「わかった!とにかく逃げるわ!」

電話が切れる
とにかく友人のもとへ急ぐ

到着した頃には先程見た光景があった
絶望した集団の中にいる友人に話しかける

「気持ちは分かるぞ」
精一杯の慰めの言葉をかける

「うるせえ」
彼には伝わらなかったらしい

「いいから立て、早く行くぞ」
「どこへ?」
「俺たちの寝床だよ、もう漫画喫茶でいいから行くぞ」

彼の手を引き、まだ火の強い彼の家を後にする
とにかく寝床に急がねば

「ちょっと近くの漫喫調べてくんね?」
友人との電話でスマホの電源が減ってきたので彼に頼む

「いや、俺のスマホもう充電なくって…」
彼のスマホは無用の長物になっていた

(これだからスマホ中毒は…)
そう思いながら仕方なく、自分のスマホで地図を見る

近くの漫喫は1キロ先
しかし複雑な道の先にあるみたいだ

家なき子2人組は寝床を求めて歩き始めた
時には真っ暗な道があったのでスマホの懐中電灯機能を使う

後200メートルになったところで充電は残り5パーセント
着いた頃には無くなっていそうだ

そんなこんなで最近できたらしい満喫にたどり着く

受付を済ませてさっさと寝よう
そう思った時受付の人が言葉を発した

「アプリの会員証はお持ちですか?」

2人は膝から崩れ落ちた

「「どうしろっちゅうねん…」」

結果僕たちの寝床は公園のベンチだった


11/19/2023, 2:20:22 PM

アロマキャンドルが置かれた小さなテーブルに皿を置く
キッチンでスープが煮込み終わるのを待つ

今は17時25分

バケットを切り、サラダを盛りつける
もうすぐできるムニエルを横目にメッセージを見る

彼女は18:00には来るらしい

作っておいたローストビーフを皿に分け
空いたフライパンで特製ソースを完成させる

今は17時45分

デザートが冷蔵庫にあることを確認して
鏡の前で髪と服を整える

17時53分、インターフォンがなった

照明を暗くしてキャンドルに火をつける
ポケットに小さなプレゼントを入れて扉を開ける

「寒かったでしょ、早く中に入って」

入れたばかりのハーブティーを手渡し
二人が席につく

楽しい食事も終わりが近づいてくる

彼女の好きなチーズケーキをテーブルに置き
美味しそうに食べる君をみる

時計を見るともうすぐ20時になるところだった

食後のコーヒーを手渡して
緊張しながら君の前で膝をついた

「君に大切な話があるんだ」

真剣な眼差しでポケットから指輪を取り出す
キャンドルの灯火は幸せな影を映し出していた

11/16/2023, 2:21:11 PM

あの人が消えてもう1年
恩人であり大切だったあの人

ある日机に1枚の手紙を置いて出ていった
「世界を見てくる」
手紙にはそれだけが書かれていた

あの人は突然飛んでもないことをするから
私はいつも振り回される

突然陶芸家をめざしたかと思ったら
ライブハウスで知らない人達とライブをしている

そんな気まぐれで10年前も1人きりだった私を拾ってくれた

そんなあの人を私は愛している
今頃世界の辺境にオーロラでも見に行っているんだろう
なんて思いながら気ままにあの人の帰りを待つのだ

さて、明日の食材でも買いに行こうか
あの人が明日帰ってきてもいいように少し多めに

ガチャ

扉を開けた瞬間私は腰を抜かした
私の知っているあの人が目の前にいる
私のよく知っているあの人が

「あなた、翼なんて生えてたかしら?」

あの人ははなればなれの間に天使にでもなったらしい

「いやー、世界には神様ってやつがいるもんなんだなぁ」

あの人のいった世界はどうやら私の知っている世界と違うらしい

11/12/2023, 11:54:01 AM

ちょっと高い所から見下ろしてみる
落ちたら怪我をしてしまうような高さだ
心の奥の恐怖心がいきなり叫び始める

(死ぬぞ!死ぬぞ!死ぬぞ!)

うるさい心に蓋をしてさらに周りを歩いてみる
近くにあるのは渓谷に跨る細い橋
僕は足を動かし続けた
恐怖心はさらに音量をあげる

(死にたいのか!?本当に死ぬぞ!!)

そんな声を無視して橋の真ん中に立つ
下には激流の川に大きな岩の塊たち
周りの音が聞こえないくらいの音がする

(飛び込むのか!?俺は幸せだ!!)

恐怖心が別の感覚に変わる
覚悟を決めて足を下に落とす

(サイコー!!!楽しいぞ!!!)

気付かぬ間に笑みがこぼれていた
さあ、あとは全身で落ちるだけ

「死にたくない」

ボソッと口から出た音が全てをかき消した
バカなことをやってないで橋を渡って帰ろう
僕は帰路に着いた

11/11/2023, 12:27:28 PM

彼には才能がなかった

幼少期から10年
ピアノも同じ年齢の人達の音には遠く及ばず

少年時代を費やした10年
野球もプロにはなれずただ草野球で少し強い程度の腕前で

仕事を始めて20年
デザイナーの仕事を始めても産み出すのは平凡なものばかり

仕事を辞めて20年
写真家を目指し旅に出ても、その写真には価値はなく

腰を悪くして30年
今更キャンバスに絵を描き、これは違うと何度も書き直す

そんな彼もこの世を去った
彼の葬式には草野球の仲間が集い哀しみ
皆が彼の自画像に手を合わせる
大好きだったショパンの曲と共に運ばれ
霊柩車は彼のデザインしたビル群を通り
世界中の景色の写真と共に火葬された

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