トモさん

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7/29/2025, 10:22:23 PM

夏送り

誰しもが ゆびをもっていること
しけったマッチを擦り 筒先に火をつけ 
火花の果てしなく溢れでること

梢におもたく 水銀をまとった葉の
終わらないはずの季節を見送り
他人の呼吸をのどに滾らせながら
夏と夏のつなぎ目に
人差しゆびを引っ掛けて

鎖をひとつ編むには 
今日を終わらせることが必要だから
折れたマッチを積み上げた
黄色いそらのくらさに ゆびを突き立て
ころがった光の礫を よる、と呼んだ

(タイミング)

7/28/2025, 10:21:44 PM

虹の底

そこには 
セロファン紙のように薄い玉ねぎの皮が
いつまでも舞って 
尽きない光であるかのように
たったひとつの色を生もうとするのに
ひるがえるたび 屈折した光は
なないろの飛沫となり 
見えない目に蜻蛉を散らす

手さぐりで くちに感じる色だけを
音たてて啜りつつ
玉ねぎの皮の 雲母となって
いつかの風へ消えてゆくのを
黒土に埋もれたからだが
ずっと見ていた

7/27/2025, 10:22:52 PM

朝列車

濁るむらさきの都会を発車し 
海街までの40分
トタン屋根にすずしく反射しながら 列車は
夜からのうすやみのなかを 
みずを溜めるように 淡々とすすむ

車内には 顔のない太ももたちが
紺色の座席へしっとりと横たわり
揺れやまない灰色の空を呼吸し
待ちつづけている 
いつか眼のひらくことを

抜け落ちた歯が床に転がる
濡れまとった朱色の ふりこぼすまま
灰の空を軋ませ ひかりのすじが
長方形のうすやみをふちどり

なぞる指先を待たずに
ひとつの朝が生まれでていった




(テーマ: オアシス)

7/26/2025, 5:04:26 AM

袖を切る

切り落とした腕にまとった 袖はひかりを広げて
見失ったからだを探して 黄土色の川面をわたり
とこにいけば温もりにたどり着くのか

うかぶ木の葉の赤さと しずむハンカチは微熱の夜の
あなたの胸もとに覗いた とおい日の残照

蕗の筒を覗くように 
すぼまった袖さきに目をあてると
温もりのかたまりだけが 色もなく
輪郭をにじませて

あなただったころの匂いだけが 明るんで
目の前をはらはらと
今年はじめてのぼたん雪のように
片袖の ひかり千切れて 
あのとおい声のように この指をすり抜けてゆく