鶯になりたかった鳩

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11/6/2023, 12:40:00 PM

二度寝から目が覚めて 少し気だるい日曜の午後

何か口に入れる必要があるはずさ 重い足を動かす

近くのスーパーにある ちらし寿司でも買おう



外に出ると 空が灰色に染まっている

目を凝らすと 微かに水滴がみえた

雨音はきこえない

だから 傘はいらないだろうと判断して歩き始めた

濡れながら歩いていると 

ふと 

亡くなった愛犬の小さな歩幅を思い出した



目当てのちらし寿司は売り切れていたし

それなりに服は濡れたけれど

しとしとと降り続ける雨は 嫌いじゃなくて

隣にあった 2割引のカツ丼を手に取った

11/4/2023, 3:36:18 PM

アーケード商店街を少し抜けた先に

3軒の古本屋が 点在している

その一つが 終わりを迎えるという記事をみた


大学の頃は足繁く通い 

(今では月に数度訪れる程度だったけれど)

くたびれた本たちの背表紙と睨めっこをし

不思議なコレクションを増やしていった

本屋では見たこともない本が そこにはあった


その日 店の親父さんのもとに

馴染みの人らが 次々にやってきていた

聞こえてくる会話の中から 病が 理由と知った


三島由紀夫の選集や いつ読むかわからないエッセイ

官能的な文学に 多分知らない詩人の詩集を買う

閉店セールで 安かった

くたびれた紙袋に入れてもらった

哀愁漂う、くたびれた紙袋から出てきた本たちは

本棚に入らず 床の上に積み重なっている

10/18/2023, 1:01:39 PM

金木犀の香りがふと香る。

もうそんな時期かと思って、ふと上を向くと、
鉛筆みたいな白い飛行機と半透明の細切れの雲が
澄んだ青い空のキャンバスに
さりげなく描かれているようにみえた。


「そろそろ衣替えしなきゃな」なんて思うけど、
土日のための服の量なんて、たかが知れている。
とっておきの服は、きっと今年も出番がないだろう。

それに、セーターやコートはまだ早い。
だから服たちは、クリーニング屋の袋のままで 
世界が寒くなるのを待っているのだ。

「今年ももう終わるね」なんて笑う君に
「まだイチョウすら落ちてないよ」と言い返すのは
いささか冷たいだろうか。

「夜中に鳴く虫は、なぜ四季がわかるのかしら」
と真剣な眼差しで語る君に
「遺伝的なプログラムさ」と言い返すのは
いささか味気ないだろうか。

そんなことを思いながら僕は、再び歩き始めた。

10/15/2023, 10:31:29 AM

逃げることはできない 
暑い陽射しの下
誰もが必死に走るリレーにて

それほど仲よくない友よ
鋭い眼差しの君が向かってきた

バトンを渡すために ただ駆け抜ける
そこには何かが宿っているようだった
その力強さに 思わず鳥肌が立った



一瞬だけ、結ばれる瞬間



裸足の僕はグラウンドの砂を蹴り
痛みなど気にせずただ走った
ただゴールを目指すために


地面を蹴る感覚に覆われて
少し下手くそなアナウンスも
叫ぶ応援団の声も
聞こえなくなった

ただ前を走る背中を追いかけて

10/12/2023, 12:44:47 PM

夕立がやってきて 靴下までびっしょりな

下校時間の 帰り道

傘なんてなくて なぜか走りたくなって 

足が速くなる靴の力を試したくなって

ランドセルをしっかりと背負い込み

ダッシュした

雨が 目に 入ってくる


排水溝のあみあみは

驚くほど滑り

ぼくは こけてしまった

顔に傷はつかなかったけど 

ぼくを守ろうとした手は少しすりむけていた

しばらく起き上がることができず

雨と、 汚い泥水が流れる音だけに包まれた


なぜ走りたくなったのかは

今ではわからない

そんな気は 起こらない今のぼく

傘という弱さを手にしたからなのか

大人になったからなのかは

わからない

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