ウヰスキー トゥワイスアップで
樽の匂いがして 喉が消毒されてゆく
哀愁を誘う 黒くて白いピアノのあるバー
少しだけテンポの遅いバーテンダー
誰かが演奏する時は
少し遅れて ビー・ジー・エムの
音が消える
食べすぎた胃に注がれるalcohol
サックスの音色も 勘弁してと
グランドピアノは 開放されている
哀愁を誘うのは トゥワイスアップのせいだね
ロックにすべき 秋風のよふけ
相合傘ひとつ
些細な言い合いに関係なく雨は降り続く
大小でこぼこ 君の左肩が濡れている
雷雨の音が加速して 早まる足
雨粒はポリリズム その音だけが響く
土の匂い ふと香る洗濯物の香りは君
背中に汗 紫陽花に水滴
ふと思い出す プール開き前の掃除
コケに転んで 頭を打ったこと
相合傘 ひとつ 君はまだ傘の中
少しだけ傘を左に傾けた
明日世界が終わるなら
ネクタイなんか締めずに
とっておきのスニーカーの靴紐閉めて
10万キロ近い車に乗って
何回聴いたか分からないアルバムをかけよう
(そこはCDだとなお良い)
◇
隣には君がいて 少しだけ窓を開けると
車のエンジンがタイヤが頑張っている音がする
こないだ入れたガソリンは半分もあるさ
◇
行き先はどこでも良い
(海でも山でも喜んで。この車は四駆ではないけど)
だって僕らだけ神隠しに遭うかもしれないし
どこだって後悔するのがオチさ
(鮮やかな海は人気で混雑するだろう)
「いっそのこと家が落ち着くね」なんて笑い合おう
◇
世界が終わるより
僕らが終わる可能性が高いわけで
とりあえずネクタイ締めて すり減った踵で歩くよ
君に会える日まで
人生ゲームが最後まで勝てるか分からないこと
隣の家の晩ごはんの香りが僕の家の庭にも漂うこと
子供のころ遊んだ団地のシーソーの色が塗り変わっていたこと
君の家だと星がよく見えること
貰ったネクタイが思った以上の力をくれること
君と出逢ってから気がついた
君と出逢ってから気がつくことが増えた
なんでもない日常の なんでもないことに
宇宙にとって僕らが死にゆくことは
ちっぽけすぎて何の変化にもならない
だからこそ色んな目の前のことを
思い出に変えられるように
今日も1日を紡ぐ
新しい画用紙 雨の日のプール
苔の生えたジャングルジム
ドの音が出ないリコーダー
どこかへ行ったプリント
目の前がすべてだったあのころ
その楽園は 虚像か想い出か
足の速くなる靴は もう入らない
リコーダーの吹き方さえ 忘却の彼方