家路の足取り 今日も夜更けの真ん中にいた
もう何回目かは数えてはないけれど
同じような順番で 同じ声が唄っていた
「いつも」を構成する交差点
ハンドルの持ち方だけが雑になっていく
相変わらず誰かが漕ぐ車輪の、微かな反抗に出会う
くだらない信号機の少し上
おぼろげな月が飽きずに浮かんでいた
科学が、その満ち欠けを暴こうとも
ひと時の文学に、I love youとして使われようとも
人類の大きな一歩が、誰かのフェイクであろうとも
夜を告げる その役目を
僕の存在とは関係なしに 滞りなく続けるだろう
少し汚れた窓ガラスの向こうから
殆ど同時に見上げた気がしたけれど
見えたのは 単なる影
夜空に浮かんでるはずの月の影
曇天を体現する空は
雨上がりの静けさを最大限に露わにしていた
君の腕にある傘が その役割を終えて
小さくまとまっている
何でもない ただの帰り道
でも 僕らは随分と歳をとった
どう足掻いたって
君の誕生日を100回祝うことはできない
膨張と縮小を繰り返す宇宙からすれば
ちっぽけな僕らとその命
抵抗する僕らは傘をさしてエアコンをつけて
ただのニュースに一喜一憂している
手のひらにあるものを数えて一安心を繰り返す
祖父が亡くなって もう何年経ったろうか
胸が締め付けられると言われた時
明日に病院行こうねと返した僕ら
◇
我が家の前には 救急車一台
見慣れた居間に 救急隊が二人
車で避けるだけのその車は
近くにあると、意外と大きいものだった
通れぬ車で大渋滞
敷地の中に入れろと 怒鳴る先頭の男
ボサボサの髪とパジャマで 蘇生中なんで、と返す
気づけば 全員がUターンして 消え去った
◇
手入れをする祖父がいたことで
我が家の庭には
秩序があった 四季があった
誰の生き死ににも関係なく 夏草は伸びる
誰にも知られずに ただ伸びていく
もうすぐ夏も終わる
僕は、あと何回墓参りに行けるだろうか
どんな金持ち 聖人悪人、
なんなら凡人俺だって、
必ずやってくる最後の記憶
あえて言うなら 命の死(オレ、オマエ、みんな)
今日か明日か分からんけれど
二度寝のつもりだったなんて言いたかないから
ルーチンどもに身を任せ 今日を削ってく
(削った先に温泉が出るか?宇宙の果てか?
なんて愚問すら浮かばぬ、今日、この頃)
俺を産んだ人 見つけた人 守ってくれた人
順番は分からんけれど 絶対な平等
ここにいるうちに 何をなす?
人事を尽くせ、天命をまて、
そんな夢物語を餌に、今日も削っていく
同じ音のアラームが叫ぶ! こんな文すら忘れてる
久々に飲もうか 食べようかと
父母の元へゆく
僕ら夫婦と 姉夫婦
久しぶり、なんて感想はなく
ただひたすらに 宴は深まっていく
笑顔の溢れる食卓に こぼれてしまったノンアルコールビール
姉には今年初めに赤ん坊が生まれ
その子は立ちあがろうと 這いつくばろうと
懸命に汗をかいていた
変わりゆくのは 僕らもで
みんな歳をとって
むかし4人で囲んだ白いテーブルは
多分、物置の中
フィルムカメラの残したアルバムの中、
今もいるキャラクターのパーク
そこで僕らは手を繋いでいた、少し不機嫌だった、
太陽を眩しがっていた、眠っていた
僕らの命と思い出は雷鳴と同じ
だから
遠雷の稲妻に、少し寒気がした