祖父が亡くなって もう何年経ったろうか
胸が締め付けられると言われた時
明日に病院行こうねと返した僕ら
◇
我が家の前には 救急車一台
見慣れた居間に 救急隊が二人
車で避けるだけのその車は
近くにあると、意外と大きいものだった
通れぬ車で大渋滞
敷地の中に入れろと 怒鳴る先頭の男
ボサボサの髪とパジャマで 蘇生中なんで、と返す
気づけば 全員がUターンして 消え去った
◇
手入れをする祖父がいたことで
我が家の庭には
秩序があった 四季があった
誰の生き死ににも関係なく 夏草は伸びる
誰にも知られずに ただ伸びていく
もうすぐ夏も終わる
僕は、あと何回墓参りに行けるだろうか
どんな金持ち 聖人悪人、
なんなら凡人俺だって、
必ずやってくる最後の記憶
あえて言うなら 命の死(オレ、オマエ、みんな)
今日か明日か分からんけれど
二度寝のつもりだったなんて言いたかないから
ルーチンどもに身を任せ 今日を削ってく
(削った先に温泉が出るか?宇宙の果てか?
なんて愚問すら浮かばぬ、今日、この頃)
俺を産んだ人 見つけた人 守ってくれた人
順番は分からんけれど 絶対な平等
ここにいるうちに 何をなす?
人事を尽くせ、天命をまて、
そんな夢物語を餌に、今日も削っていく
同じ音のアラームが叫ぶ! こんな文すら忘れてる
久々に飲もうか 食べようかと
父母の元へゆく
僕ら夫婦と 姉夫婦
久しぶり、なんて感想はなく
ただひたすらに 宴は深まっていく
笑顔の溢れる食卓に こぼれてしまったノンアルコールビール
姉には今年初めに赤ん坊が生まれ
その子は立ちあがろうと 這いつくばろうと
懸命に汗をかいていた
変わりゆくのは 僕らもで
みんな歳をとって
むかし4人で囲んだ白いテーブルは
多分、物置の中
フィルムカメラの残したアルバムの中、
今もいるキャラクターのパーク
そこで僕らは手を繋いでいた、少し不機嫌だった、
太陽を眩しがっていた、眠っていた
僕らの命と思い出は雷鳴と同じ
だから
遠雷の稲妻に、少し寒気がした
またひとつ 歳をとった
1万3000円のヘッドホンを買ってもらって
コンポにそれをさしこんだ日から
ちっとも変わらない 僕
でもあの日だけは 感動を解釈していた
髭は生えたし 声も低くなった
猫背になった背中には 遅れてやってくる筋肉痛
身体だけは どうも 劣化してるようだね
あの頃の僕が思う大人たちが
こんなに子供だとは 思わなかったな
だんだん短くなる君からの手紙
お互い要点を伝えるのが上手くなったのか
時間が 足りなくなったのか
そのうち happy birthday の
一言になるかもしれないけれど
きっとまだ続く旅のために 紡いでくれるかい
見飽きた通勤路は車の
ウインドウガラスが映し出すもの
毎朝会うバイクの男 今日はアンタが速いようだ
家を、出る、その数分の誤差なんて
神さまにとっちゃ 無いに等しいらしい
だからアンタとだいたい 並ぶ
冗長な赤 信号機
名も知らんアンタを 明日はこっちが抜き去る日
花見の主人公、それは葉が混じってしまうと
誰からも見られなくなるぞ
「来年見ればいいから」だって
落ちてる花びらは ただ踏まれるだけ、
酒のつまみは 枝の方の花びらだけ、
見返すことない 写真の中
来年も満開がさ、あるんなら
アンタも、まだ並んでいるか
冗長な赤 白線の内側で
誰だって死にゆくから 同じ風景をともにしたい
0と1で表現される 写真に残したい
だけど 信号を抜けた先の 仮面のせいで
それすらも忘れていくんだよ
忙殺の片隅に あるかい
バイクのアンタも そう思ってるかい