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6/28/2024, 8:37:47 AM

 そのゲームは、エンディングを迎えた。
 
 最近よくある、異世界転生ファンタジー且つ学園モノ、さらに悪役令嬢モノの乙女ゲーム、そのヒロインである悪役令嬢に私は生まれ変わった。そう気付いたのは定番のタイミング、幼少期だ。あまりの絶望感に、これ、ヒロインなのか悪役令嬢なのか分からんな……と現実逃避をした記憶が残っている。
 絶望した理由、それはこのゲームはバッドエンドが多く、かなり高難易度ということで有名だったからだ。この悪役令嬢のヒロインはすぐ牢獄行きになる。さらに、選択をちょっとミスっただけでしぬ。マンボウの方がまだ生命力があるのではないだろうか。一応、公爵令嬢なのに。何でそんなにポンポンと牢獄に入れられてしまうのか。
 そんな死にゲーを推しのためにやり込みまくった私は、現実となってしまったゲームの知識をフル回転させ、なんとかゲーム内でエンディングだった時間まで辿り着いたのだ。いわゆる逆ハーレムエンド。別になりたくて逆ハーエンドを目指したわけではなく、このエンドが1番平和なものだったからだ。
 エンディングを迎えた学校で、今日も攻略対象者たちが私に近づこうと必死になっていた。
 私は生き残ることが1番の目的であり、申し訳ないけれど攻略対象者たちに興味はない。勝つことの無い駆け引きをしている攻略対象者たちを見守るという、ゲームの殺伐さはどこいった?という気持ちになる平和な時間だ。もう行っていいだろうか。
 不毛な争いをしている輪からそっと外れ、図書館へと向かう。本を読みに行きたかったのに呼び止められ、さらに放置されていたのだ。あの人たち、実は私に興味ないでしょう……。

 図書館へ入ると、目の前にはたくさんの本が広がる。本は良い、この世界の色々なことを知ることができる。ゲームには学園しか出てこないが、学園の外にはまだまだ世界が繋がっていると実感ができる。公爵令嬢という身分ではあまり遠出が出来ず、自分の家の領地くらいしか行ったことはないが、せっかく異世界に生まれ変わったのだから、もっとこの世界を見てまわりたいのだ。
 ……もうゲームは終わったのだから、良いのではないか? 家出して、冒険者になって、色々な場所を旅するという密かな夢を目指しても。こんな死にゲーを頑張ったのだから、もう好きなことをしてもいいじゃないか。

「思い立ったが吉日! わたくし、冒険者になりますわー!」
 早速明日にでも家出をしよう! ファンタジー世界だけあって、魔法が存在しているし、私もそれなりに魔法を使えるのだから大丈夫だ。
 そしてまずは、今生で身についてしまったお嬢様言葉を直さないとね。


 
「ここではないどこか」
 



※相変わらず時間がなくて最後が雑で…。後で加筆
 

6/18/2024, 5:19:38 AM

「なあ、俺たちって将来、どうなってると思う?」

 教室の席で進路希望を記入するプリントを前に唸っている私に、隣の席の彼は声を掛けてきた。入学してから3年間同じクラスで、そこそこ仲のいいやつではある。しかし進路に悩みすぎてプリントを提出し損ねた私に、なんて質問をするんだ、と恨めしげに視線を向けた。
「ねえ、今、私が何やってるか分かる?」
「進路希望を書いてるな。真っ白だけど」
「そう! 真っ白だよ、真っ白! それなのに将来どうなってるかなんて分かんないじゃん!」
「そんな怒んなって、焦ってるのは分かったから。なんかやりたい事とかないの?」
「やりたいこと〜、って言われてもさぁ」
 やりたいこと、で考えると将来なりたいものはたくさん思い浮かぶ。漫画家、小説家、ピアニスト、作曲家、学校の先生もいいかな、後はその他諸々。しかしどれを取っても、その職業で生活ができるのか? という壁が乗り越えられない。仕事には安定した収入が付き物。悲しいかな、私のような安定志向の持ち主は、将来の選択肢がぐっと狭まるのだ。そうして、候補として生き残った選択肢の中に、私の「やりたいこと」はない。
「ないよ、やりたい事なんて。てか働きたくない」
「あ〜、お前らしいな。……あ、働きたくないなら進路希望は『お嫁さん』でどうよ?」
「いやいやいやいや……」
 悪戯が成功したとばかりにニヤついている彼に、若干呆れる。子供じゃないんだから、さすがにそれはないわ。それに今時、お嫁さんになったところで結局は働かないと収入厳しいでしょうが。いや、それより何より。
「ていうか、お嫁さんになるにしても、相手誰よ? 今まで彼氏とかいた事ないのに」
 今後パートナーができるなんて、我ながら自信がないんだけど。と非難の目をやつに向けると、途端に真剣な表情になる。
「う〜ん、俺?」
「いやいやいやいや……冗談やめてよ」
 そんなそぶりなかったじゃん。と若干本気で否定してしまった。焦った私を見た彼は、「あ〜、速攻でバレちった」と苦笑いしていた。変な話題になんとなく気恥ずかしくなって、無理矢理に話題を変えた。
「そういえば、あんたは進路希望に何書いたの?」
「俺、ミュージシャン! バンドやってみたら意外にハマっちゃってさぁ」
「はー?? 何でそんなの軽々しく書いてんの! 意味分かんないっ!」
 私はぐだぐだと悩んでいるってのに!



「ってことをさあ、高校生の時に今の旦那と話してたわけ。まさか本当に超人気バンドのギターボーカルになるなんてね」
「ちょっと先生、締め切り近いのにネーム真っ白だからって、現実逃避しないでくださいよ! ほらペン持って、手動かして、手!」
「はいはーい」


『未来』
 なんて、誰にも分からないんだよ

6/12/2024, 8:04:32 AM

 実家の家族に別れを告げ、ホームに滑り込んできた新幹線に乗り込む。予約していた自分の指定席に座ると、ちょうど時間になったのか、窓の外がぬるりと動き出した。席の窓から見える景色は、小さい頃から見慣れた街並みだ。少し先に見えるあの橋、よく通ったな。新幹線の線路の下を通るこの道路、おばあちゃんちに行くやつだ。そんな見慣れた景色が、新幹線が進むにつれて、見慣れない景色へと変わっていく。

 完全に見慣れない景色になると、まるで新幹線の窓枠で切り取られた異世界を覗き込んでいるかのような気持ちになる。目の前に広がる空と田んぼ、田んぼの上を柱で支えられ、螺旋のように伸びていく高速道路を、知らない人が乗る車やトラックが飛ばしながら走っていく。爽やかな自然の営みと無機質な人工物の混ざっていくこの光景は、地元でも今住んでいる街でもお目にかかることはないだろう。

 新幹線が少し進むと、川の横の小道を自転車で走る、制服を着た学生が見えた。自転車と新幹線という別々の乗り物で、知らない学生とすれ違っていく。雑談をしているのか、笑いながら、少しふらつきながら走っていく学生は、社会でくたびれた私にとっては懐かしい青春そのもので、とても眩しかった。

 降車予定の駅に近づくにつれ、だんだんと山や田んぼといった自然が少なくなってきた。家が並ぶ住宅街に突如突き刺さったかように空へ伸びる綺麗なビルは、新しくできたマンションだろうか。どんな人が住んで、どんな生活を送るのだろう。思いを馳せていると、今度は高いビルだらけになってきた。少し前までは見なかった行き交う人の群れが見える。そんな中、何度も聞いたメロディと共に、アナウンスが流れた。
「次は、〇〇、〇〇です。お降りのお客様は――」

 さて、異世界見学ツアーは終わった。荷物をまとめよう。席を立ちドアを抜け、ホームに出ると、ザワザワと人の話し声と駅のアナウンスが飛び交っていた。
 いつもの光景に、少し安心する。ここが私が今生きている街だ。

『街』
その人が見ている、生きている「世界」

6/11/2024, 8:27:47 AM

 カタカタとキーボードの上で指が踊る。ざわざわと話し声があちこちから飛んでくる会社のオフィスで、こんな資料、何のために作ってるんだと考えてため息が出た。気分転換に窓の外の空を見上げると、どこまでも青くて、高くて広い。俺はこんなに狭い会社に拘束されているのになぁと虚しくなった。だが、仕方ない。生活費のため、生きるためなのだ。気を取り直してデスク上のPCに視線を戻し、中途半端になっている資料作成を再開した。
「おーい、ちょっといい?」
「はーい」
 上司が俺を呼ぶ声が聞こえ、席を立つ。メモ帳を持ち、上司の机に向かう。
「昨日出してくれた資料、ここってどういう意味?」
「ああ、それはですね……」
 俺の説明に眉を寄せる上司に、ああ、これは残業確定だなと肩を落とす。幾度かのやり取りの末、案の定、資料は再作成となった。

 夜、ゾンビのように歩く疲れた顔の人々の横を、足早に通り抜けた。やっと会社という拘束から抜け出したという開放感に、回転が鈍くなっていた頭が動き出した。さあ、今からは俺だけの時間だ。何をしようか。そんなものは決まっている。
 見慣れた帰り道をさっさと通り過ぎ、家に到着した。そして風呂、ご飯、その他家事等の生きるための作業を片付け、そしてPCの電源を入れた。
 そこには、昨日まで描いていたイラストが広がっていた。ペンタブを手に取り、一心不乱に線を、色を重ねていく。
「やっっとできたぁ……!」
 ふう、と息を吐く。ぱっと時計をみると、いつのまにか日付が変わろうとしていた。今日中に完成できるだろうと頑張った甲斐があった。……資料作成がなければ、もっと早く完成していただろうに。
 早速、SNSに完成したイラストを投稿してみる。今回は自信作だ。少しくらい反応をもらえたらいいな。正直なところ、俺のイラストはあまり上手くない。SNSのフォロワーだって多くない、というか少ないし、反応だって2桁あるか無いか。でも、それで良いと思う。
 ピコン、とSNSの通知が鳴った。イラストをあげるたびにコメントをくれるフォロワーが1人いるのだが、そのフォロワーが今回もコメントをくれるのではないかといつも楽しみにしている。今の通知も、そのフォロワーのものだった。その内容は、今回も俺のイラストを褒めてくれるもの。嬉しくて、思わずニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべてしまった。
 さて、と満足した俺は、寝る準備をする。明日から何のイラストを描こうか。そう考えるだけで、明日の仕事も乗り切れるように感じた。

『やりたいこと』
生きる活力になる。


(時間がなくて最後雑になってしまったという言い訳)

4/16/2024, 5:12:49 AM

「結婚式を挙げることにしたの。よかったら来てね」

 そう言われて、職場の先輩から綺麗な白い封筒を受け取ったのは昼休みのことだった。先輩、彼氏いたのかとか、籍いつ入れたんだとか驚きつつ、絶対に行きますと微笑む。
 これ、あいつも受け取ったのだろうか。

 「あいつ」は、職場の同期であり、私の好きな人だ。そしてあいつが好きな人は、今しがた私に封筒を渡してくれた先輩だったはずだ。焦燥と僅かな歓喜が混ざった得体の知れない何かが、心の中に湧き出て踊り始める。そっとあいつの席の様子を伺うと、あいつは席に座って、茫然と私と同じ封筒を見ていた。
 こういうとき、何て声をかければいいのか分からないな。そっと近づいて、とりあえず思いついたことを言ってみる。

「ねえ」
「…………」
「今日、飲みに行こうよ。話くらいなら聞くからさ」
「…………いく」

 ちょっと涙声の返事が返ってきた。
 私たちは、何かあれば帰りに近くの居酒屋で愚痴り合うくらいには仲が良い。と思う。他にも同期はいるが、席があるフロアが違ったり、配属した部署が地方だったりであまり交流がない。私たちは運良く席が近かったのだ。配属された当時はすごく嬉しかった。
 仕事をさっさと片付けて、帰る準備をする。お先に失礼します! と、あいつが元気よく挨拶して部屋から出て行くのを見えた。……無理してるなぁ。
 カバンを持つと、今朝、例の封筒を渡してくれた先輩から声をかけられた。

「相変わらず仲いいね。今日も行くの?」
「へへ、まあ」
「そっか、いってらっしゃい」
「ありがとうございます。お先で〜す」

 先輩からの頑張れという視線をもらいつつ、会社を出る。先輩は私があいつのことが好きだと言うことを知っているのだ。というか、私が自分でバラした。恋愛に慣れない自分の精一杯の牽制のつもりだったのに、先輩には既に将来を誓った相手がいたなんて。ただ自分の好きな人を暴露しただけになってしまった。あーあ、馬鹿みたいだ。そういえば好きな人を告げた時も、なんともない様子で応援してるよ、って言ってくれた気がする。あの時からもう相手がいたのかもしれない。そう考えているうちに、いつもあいつと飲んでいる居酒屋についた。
 店員にテーブルに案内してもらうと、彼はビールを片手に、テーブルに突っ伏していた。

「おつかれ」
「…………マジ無理」
「だろうねー」

 私もとりあえず何か注文を……レモンサワーとかにしておこう。きっとこいつは限界まで飲むだろうから、私まで潰れるわけにはいかない。

「だってさ、結婚!?!? 彼氏いるんだ、とかもなかったのに!? 結婚ーーー!?」
「あれは私もびっくりした! でも最初から相手いたんだって、たぶん」
「俺、立ち直れないわ」

 頭を抱えるこいつに、なんとも言えない気持ちになる。この居酒屋では、愚痴の他にも、こいつが先輩をどのくらい好きかというのをさんざん聞かされた。他にもエレベーターで一緒になっただとか、頑張ってるねってお菓子を貰っただとかの他愛のない話まで。別に私だってお菓子貰ったしと言ってしまいそうなところを飲み込みながら話に付き合っていたっけ。
 想いに耽る私の目の前で、泣き言を言いながらビールを流し込むように飲んでは店員に注文し、またビールを流し込み、を繰り返し、だんだん呂律が回らなくなってきたこいつに、そして自分にも、なんだか哀れみを感じてきてしまった。こいつの顔は涙と鼻水とビールでぐちゃぐちゃだ。何で私はこいつのことを好きになってしまったんだろうか、とぐちゃぐちゃの顔を見ながら溜息をついた。

「届かぬ想い」
こいつの目には先輩しか映っていなかったから。

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