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2/7/2025, 7:46:32 AM


 夜も更けた頃、ふと目が覚めてしまった。暗闇の中近くの時計を見ると、短針が「2」を指していた。なんだ、まだ寝てからそんなに経っていないじゃないか。明日も学校なのだから、さっさと寝直そう。そう思いながら寝返りを打つと、カーテンの隙間から覗く2つの点と目が合った。まるで目のような配置、じっとこちらを見ている、と気付いた瞬間、俺は反射的に声をあげようとした。

「っぎゃ」
「ストップ! 僕が悪かったから大声を出さないで!」

 俺が上げようとした声よりも大きな声で悲鳴を遮ったソレは、あっけにとられている俺を余所に、窓の隙間からにゅるんと室内へ入ってきた。まるで子供がシーツを被ったような、エジプト神話に出てきそうなシルエットの謎の生物だ。しかしシーツとは似ても似つかないほど真っ黒で、なんかモヤみたいなものが漂っている。そんな真っ黒の中、まんまるい目だけが光を放っていた。なんだこれ。俺は寝ぼけているのだろうか思い、目を擦ってみた。全然消えないソレは、俺の前までトコトコと歩いてくると、ニコッと笑った。(ように見えたが、何も変わらず丸い目だけが光っていた)

「初めまして、僕はテク。君は人間さんだよね?」
「あ、ああ、そうだけど」
「わあ、僕、初めて人間さんと話したよ!」
「え、あ、そうなんだ」
 
 ご機嫌に話すテクと名乗った黒いやつは、俺を無視して話しだした。動揺しすぎて普通に返事をしてしまった。表情は分からないが、俺から返事をもらって嬉しそうだということは何故か分かった。ウキウキと話す黒いやつに返答するたび、俺も気持ちが落ち着いて打ち解けていった。そんな中、黒いやつは名案を思いついたというように俺に提案をしてきた。

「そうだ、人間さんも一緒にナイトマーケットに行こうよ!」
「ナイトマーケット?」
「そう、今日は1ヶ月に1回、お化けたちが集まるナイトマーケットの日なんだよ。僕はそこに行く途中だったんだ」
「へえ、何も分からん」

 要領を得ないこいつの話をまとめると、こういうことだ。人間が寝静まると、昼間は姿を消しているお化けたちが活動をし始める。人間社会と入れ替わるようにお化けの時間が始まるらしい。そして今日は、お化けたちが集まって祭りを開催する日なのだそうだ。地元のお祭りのような感じだろうか。そんなものを1ヶ月に1回も開催するなんて、お化けの社会はなんとも気楽なものらしい。人間社会も見習ってほしいものだ。
 俺は考えた。今日初めて知ったお化けという存在を見てみたいし、そんなやつらの生活も見てみたい。このテクとかいうお化けも悪いやつには見えないし、危険はなさそうだ。しかし明日は学校――いや、好奇心には勝てない。

「それ、俺も行ってみたいな。人間も参加していいなら」
「大歓迎だよ! じゃあ、早速出発しよう。テレポートでね!」
「テレポートとかあんの!?」

 カッと目の前が光ったかと思うと、目の前には賑やかな景色が広がっていた。色とりどりの飾りに様々な屋台。地元の祭りよいうより、海外の祭りといわれて想像しそうな光景だ。違うところがあるとしたら、それを楽しんでいるのが全員人外というところだけだ。本当にこんなところがあったのか。まだ目の前に広がる風景を信じ切れなかった。

「す、すげえ……この世界には知らないことがこんなにあるんだな」
「お祭り初めてなの? 初めての人間さんもすっごく楽しめると思うよ! 早くいこうよ!」
「別に祭り自体は初めてじゃないんだけど……っておい! 置いてくなよ!」

 ぴょんぴょんと跳ねていくテクを追いかける。周りのお化けたちは、人間の俺が珍しいのか、少し驚いたような表情やリアクションをしていた。しかし俺も驚いている。お化けと言ってもたくさんの種類がいるのだ。人間の一部が変化しているだけのお化け、人形のようなお化けに、ほぼ木のお化け、俺が知っている生物のどれにも似ていないお化け。一番驚いたのは、人間の足に足が生えたお化けが数体、楽しそうに走って行ったことだ。どういうことだよ。夢に出そう。いやそもそもこれが夢かもしれない。
 そんな中を、テクと俺は一緒に歩いて回った。人間と違うというだけあって、屋台の内容も独特だ。そのどれもが興味深く、つい周りを観察してしまう。まるで新聞を切って貼ったような看板に「修理屋」と掲げられている屋台には、二本足で立つ犬が大事そうに割れた皿を屋台の主人に渡していた。

「これ、ご主人の大切な皿なんです。でも、私が走ったときに棚にぶつかって割ってしまって」
「これくらいならすぐに直せるさ」

 すぐに直せるといった屋台の主人が、割れた皿の破片を元の形と同じように並べると、その上に手を翳した。すると、みるみる皿の破片がくっついていき、1枚の皿になった。2本足で立つ犬は、喜んで手?前足?を叩いた。

「わあ、ありがとうございます! これでご主人も元気になってくれます!」
「いいってことよ。じゃあお代は諸々のサービス込みで……」
 
 また別の屋台には、読めない文字が掲げられていた。アレはなんと読むのだろうか。絡まった糸のようなあの文字は、人間の世界にはない文字のような気がする。

「夢、夢はいかがですかー! 採れたてほやほやの悪夢、喉越し抜群ですよー!」

 悪夢なのか、しかも夢に喉越しとかあるのか。しかもそれ、売り文句なのか。お化けとのカルチャーショックに打ちひしがれながら屋台を眺めていると、吸い寄せられるように1匹の獏が屋台へ寄って行った。

「その悪夢をひとつください」
「お買い上げありがとうございます!」
「ふう、助かった。最近の人間は睡眠時間が短いから、食べられる悪夢も少なくなっちゃって」
「うちも仕入れ自体が――……」

 雑談を始めた獏と屋台の主人から視線を逸らし、テクの方へと目を向けた。テクも屋台の一箇所に釘付けになっている。そんなに熱心に何を見ているのかと覗き込んでみると、人間の雑貨が並んでいた。その中にふたつ、人間が使えそうなブレスレットが飾られ、テクはそのブレスレットに興味があるようだった。

「あ、人間さん! これキラキラしていて、とっても綺麗だね! 何に使うの?」
「これはブレスレットだよ。人間の腕に付けるんだ」
「へえ〜! つけてどうするの?」
「どうするって、周りに自分を綺麗に見せる、とかかな? 俺はよくわかんないんだけどさ」
「自分を飾りつけるってこと? 人間って面白いことをするんだね!」

 お化けにはアクセサリーをつける感覚がないのか、それともお洒落への考え方が違うのか。お化けには色々な種類がいるようだし、人間のアクセサリーなんか見たことがない者もいるだろうな。
 それにしても、テクはこのブレスレットを気に入ったらしく、商品の前から動かなかった。俺は屋台の主人に尋ねる。

「なあ、これっていくらなんだ?」
「このブレスレットかい? 50ウルだよ」
「……ウル?」

 そんな通貨は持っていない。というか、そういえば円すらも持っていない。寝起きのパジャマのまま、何も持たずにテレポートしてきたのだから当たり前か。ベッドから起き上がった時に室内用スリッパを履いていなければ裸足だった。

「ねえねえ、僕がこれを人間さんにあげたら、つけてくれる?」
「ん? テクが欲しいんじゃないのか?」
「うん、今日の記念に、何かプレゼントしたいなって!」
「記念なら、2つ買って一緒につけるのはどうだい? 人間は仲のいい友達と同じ物をつけて、『おそろい』ってやつにするのが好きなんだろう?」
「おそろい……!?」

 相変わらずテクの表情はわからないが、衝撃を受けたようだということは分かった。期待に満ちた(ように見える)瞳で、テクはこちらをみる。この主人、なんて商売上手なんだ。

「確かにおそろいにするやつらはいるし、おそろいにしようか」
「ほんと!? やったあ!」
「でも俺、金持ってきてないぞ」
「僕が2つ買うよ!!!!!」

 毎度あり〜! と上機嫌な店主が机にブレスレットを置くと、テクはにゅるんと横から触手のような腕を伸ばして、ブレスレットを受け取った。

「お前腕あったの!?」
「いつもは仕舞ってるんだよ。これ、人間さんの分!」

 にょろ……とブレスレットを差し出してきた触手……いや腕からブレスレットを受け取った。
 と同時に、カーン、カーンと何処からか鐘の音が聞こえた。

「おっと、もう夜明けか! 店仕舞いだな」
「本当だ! 人間さんはもう帰らなきゃ!」
「は? どういうことだよ?」

 賑やかだった祭りから、お化けたちが1体、また1体と姿を消していく。あれだけあった屋台も、最初から何もなかったかのように次から次へと消えていく。まるで夢から醒めようとする光景に、俺は周りを見渡した。

「夜が明けたら、人間さんの世界になるから。また会おうね!」
「ちょっと待、」

 ここへ来た時と同じように、突然カッと目の前が光に飲み込まれて行った。




 ふと、目が覚めた。先ほどまでの喧騒とは真逆の静けさに寂しさを覚える。……喧騒? 何を考えたのだろう、俺はさっきまで寝ていたというのに。俺の目覚めより一歩遅れて鳴り出した目覚ましを止め、部屋のカーテンをあけた。
 半分顔を出した太陽の光が、いつの間にか付けていた見覚えのないブレスレットに反射していた。

『静かな夜明け』


 

1/30/2025, 4:00:10 AM

 目の前に境界線がある。境界線からこちら側には日が当たらない。境界線から向こう側は、煌々と太陽の恵みが降り注いでいる。手持ち無沙汰につっ立っている私は、その境界線をじっと見ている。視線を上げ、向こう側を楽しそうに歩く人々をぼーっと眺め、また境界線へと視線を戻した。
 向こう側に憧れる者は多い。誰しも暗い場所より明るい場所の方がいいだろう。それは私もそうだ。しかし向こう側も、ただ良い場所だというわけではない。何せ暑い。陽の光を浴び続けるのがつらい。陽の光に耐えるためのケアがしんどい。向こう側の人もよくやるなあと常々感心する。
 引き続き境界線を見ている。この境界線を越えれば、私も向こう側に行けるのかもしれないが、越えた後は向こうで耐えられるのだろうか。人には向き不向きがあるのではないか? この境界線を越えることは簡単だ。でも行かない、行けないのは、やっぱり向こうでやっていく自信がないからなんだ。

『日陰』
場所の相性もあると思うんだよね。







 自分の人生や立ち位置は日向ではないが、マイナスな意味での「日陰」だとも思ってはいない。日陰だって涼しくて落ち着く良い場所だからね。結局は自分の考え方次第で世界の見え方が変わるんだよなあと思う日々です。

10/23/2024, 1:29:26 PM


 ふと、会社オフィスの窓から空を見上げる。透き通った空と白い雲が、目の前の一面に広がっていた。空の広さは、世界の広さだ。世界はこんなにも広いというのに、どうして自分はこんなに狭いオフィスに閉じ込められ、労働なんぞをしているのだろうか。分かっている、生活のためである。今ではなくとも、土日になればこの会社は休みになり、オフィスに閉じ込められることはなくなる。
 私は視線をPCに戻し、液晶越しにネットワークの世界を覗き込んだ。ネットワークの中には情報が溢れかえっている。まるでもうひとつの世界がこの中にあるように、色々な人々が集い、意見を交わし合っている。ガラス越しに世界を覗き込むという行動は同じだというのに、どうしてネットワークにはこんなにも開放感が皆無なのだろうか。いや、ネットワークにそんなものを期待しても無駄だ。
 どこまでも続いているように見えるのは、空だろうとネットだろうと一緒なのに、真逆の印象を抱くのが不思議だ。

「どこまでも続く青い空」
つまり何が言いたいかというと、
仕事に疲れたから旅行に行きたいです。

6/28/2024, 8:37:47 AM

 そのゲームは、エンディングを迎えた。
 
 最近よくある、異世界転生ファンタジー且つ学園モノ、さらに悪役令嬢モノの乙女ゲーム、そのヒロインである悪役令嬢に私は生まれ変わった。そう気付いたのは定番のタイミング、幼少期だ。あまりの絶望感に、これ、ヒロインなのか悪役令嬢なのか分からんな……と現実逃避をした記憶が残っている。
 絶望した理由、それはこのゲームはバッドエンドが多く、かなり高難易度ということで有名だったからだ。この悪役令嬢のヒロインはすぐ牢獄行きになる。さらに、選択をちょっとミスっただけでしぬ。マンボウの方がまだ生命力があるのではないだろうか。一応、公爵令嬢なのに。何でそんなにポンポンと牢獄に入れられてしまうのか。
 そんな死にゲーを推しのためにやり込みまくった私は、現実となってしまったゲームの知識をフル回転させ、なんとかゲーム内でエンディングだった時間まで辿り着いたのだ。いわゆる逆ハーレムエンド。別になりたくて逆ハーエンドを目指したわけではなく、このエンドが1番平和なものだったからだ。
 エンディングを迎えた学校で、今日も攻略対象者たちが私に近づこうと必死になっていた。
 私は生き残ることが1番の目的であり、申し訳ないけれど攻略対象者たちに興味はない。勝つことの無い駆け引きをしている攻略対象者たちを見守るという、ゲームの殺伐さはどこいった?という気持ちになる平和な時間だ。もう行っていいだろうか。
 不毛な争いをしている輪からそっと外れ、図書館へと向かう。本を読みに行きたかったのに呼び止められ、さらに放置されていたのだ。あの人たち、実は私に興味ないでしょう……。

 図書館へ入ると、目の前にはたくさんの本が広がる。本は良い、この世界の色々なことを知ることができる。ゲームには学園しか出てこないが、学園の外にはまだまだ世界が繋がっていると実感ができる。公爵令嬢という身分ではあまり遠出が出来ず、自分の家の領地くらいしか行ったことはないが、せっかく異世界に生まれ変わったのだから、もっとこの世界を見てまわりたいのだ。
 ……もうゲームは終わったのだから、良いのではないか? 家出して、冒険者になって、色々な場所を旅するという密かな夢を目指しても。こんな死にゲーを頑張ったのだから、もう好きなことをしてもいいじゃないか。

「思い立ったが吉日! わたくし、冒険者になりますわー!」
 早速明日にでも家出をしよう! ファンタジー世界だけあって、魔法が存在しているし、私もそれなりに魔法を使えるのだから大丈夫だ。
 そしてまずは、今生で身についてしまったお嬢様言葉を直さないとね。


 
「ここではないどこか」
 



※相変わらず時間がなくて最後が雑で…。後で加筆
 

6/18/2024, 5:19:38 AM

「なあ、俺たちって将来、どうなってると思う?」

 教室の席で進路希望を記入するプリントを前に唸っている私に、隣の席の彼は声を掛けてきた。入学してから3年間同じクラスで、そこそこ仲のいいやつではある。しかし進路に悩みすぎてプリントを提出し損ねた私に、なんて質問をするんだ、と恨めしげに視線を向けた。
「ねえ、今、私が何やってるか分かる?」
「進路希望を書いてるな。真っ白だけど」
「そう! 真っ白だよ、真っ白! それなのに将来どうなってるかなんて分かんないじゃん!」
「そんな怒んなって、焦ってるのは分かったから。なんかやりたい事とかないの?」
「やりたいこと〜、って言われてもさぁ」
 やりたいこと、で考えると将来なりたいものはたくさん思い浮かぶ。漫画家、小説家、ピアニスト、作曲家、学校の先生もいいかな、後はその他諸々。しかしどれを取っても、その職業で生活ができるのか? という壁が乗り越えられない。仕事には安定した収入が付き物。悲しいかな、私のような安定志向の持ち主は、将来の選択肢がぐっと狭まるのだ。そうして、候補として生き残った選択肢の中に、私の「やりたいこと」はない。
「ないよ、やりたい事なんて。てか働きたくない」
「あ〜、お前らしいな。……あ、働きたくないなら進路希望は『お嫁さん』でどうよ?」
「いやいやいやいや……」
 悪戯が成功したとばかりにニヤついている彼に、若干呆れる。子供じゃないんだから、さすがにそれはないわ。それに今時、お嫁さんになったところで結局は働かないと収入厳しいでしょうが。いや、それより何より。
「ていうか、お嫁さんになるにしても、相手誰よ? 今まで彼氏とかいた事ないのに」
 今後パートナーができるなんて、我ながら自信がないんだけど。と非難の目をやつに向けると、途端に真剣な表情になる。
「う〜ん、俺?」
「いやいやいやいや……冗談やめてよ」
 そんなそぶりなかったじゃん。と若干本気で否定してしまった。焦った私を見た彼は、「あ〜、速攻でバレちった」と苦笑いしていた。変な話題になんとなく気恥ずかしくなって、無理矢理に話題を変えた。
「そういえば、あんたは進路希望に何書いたの?」
「俺、ミュージシャン! バンドやってみたら意外にハマっちゃってさぁ」
「はー?? 何でそんなの軽々しく書いてんの! 意味分かんないっ!」
 私はぐだぐだと悩んでいるってのに!



「ってことをさあ、高校生の時に今の旦那と話してたわけ。まさか本当に超人気バンドのギターボーカルになるなんてね」
「ちょっと先生、締め切り近いのにネーム真っ白だからって、現実逃避しないでくださいよ! ほらペン持って、手動かして、手!」
「はいはーい」


『未来』
 なんて、誰にも分からないんだよ

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