回顧録

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8/23/2024, 3:57:28 PM

海に入った。病気をしてから一度も怖くて入れなかった海に。
スキューバは出来なくなってしまったけど海は変わらず母のようにボクを受け入れてくれた。水温は冷たいのに温かくて、思わず泣いてしまった。
太陽の光を反射してキラキラと輝く海があの瞳とリンクする。
ボクのために泣いてくれるあの人に会いたいーーそう思った。また信ちゃんと海に行きたい。
一緒に潜ることは叶わなくなってしまったけど、酒を飲みながら海を眺めることは出来るから。
キレイやなーなんて月並みな話をしながら。

「オレこないだ海行ったわ」

彼は大きくて丸い目をもっと丸くさせながらええやんと笑った。

「どこ?」
「ベリーズ」
「そらええなぁ、前良かったって言うてたもんなぁ」
「泳いでん、あとシュノーケリングも」
「……そらぁ綺麗やったやろう」
「うんむっちゃ!キレイやったでー。キラキラ輝いてた」

貴方の目みたいだった。夜の闇でだって僅かな光を反射させてキラキラと輝く、濁ることのない僕らの希望の象徴。

「貴方にも見せたいなぁーって思った。また海行こうな」
「せやな、行こか。案内頼むで?」

くしゃりと笑う彼の瞳はいつにも増して水分量が多く揺らめいていた。まるで水面のよう。
表面張力で支えきれなくなった水分が雫となって落ちた。

「あ、あれなんでやろ、ヤスくんよかったなぁと思ったら……」

彼の瞳がぽたりぽたり止めどなく雫を創り出す。綺麗だと思ってしまった。
ボクのための涙。ボクのために信ちゃんが泣いている。
ーーそう思ったら身体が勝手に動いた。

「……歳とるとあかんわぁ……どんどんよわなる……っ……?」
「い、やぁ…………マルの気持ちが分かったわ…」
「愛おしなったん?」
「愛おし、なった、なあ………」


作者の自我コーナー
以前書いてたもののサルベージです。
いつもの、ではないけどこの二人の間に流れる柔らかな空気も好きですね。

7/31/2024, 9:34:58 AM

ポジティブ強い彼のそのまん丸い瞳が濁ったところを見たことがない。普段はタレ目でおっとりとしているのに、子犬のような目をしているのに、覚悟を決めた時は誰よりも目力が強くて人を惹き付けるのだ。
俺もその目に魅入られたクチで、彼に見つめられるのは苦手だが、その目を盗み見ては友人にバレて呆れられていた。

そんな日々を繰り返してわかったことがある。
彼の覚悟というのは、彼を消耗させるものが多い。
そしてそういう時こそ彼の瞳は空気の澄んでいる日の夜空のようにキラキラと輝くのだ。
遠くで命の火を燃やしているみたいに。

ここ最近彼の目はキラキラどころかギラギラしている。瞳に反射する全ての光が一等星、みたいな。相変わらず人を惹きつけて、タチの悪いことに人懐っこいから変な絡まれ方までして、また星が瞬いた。
もはや魔眼だ、見た人だけじゃなく持ち主まで狂わせる。


「おい」

俺のまさしく不機嫌です、という声に彼が目をぱちくりさせた。そっちの瞬きの方が好きだなと思った。なんせ俺はそのタレ目に惹かれたものでして。
俺を怒らせたと思って溢れそうになるほど揺れるこの瞳が一等好きなものでして。

機嫌を損ねたということだけを呈示して踵を返すと、作った人集りそっちのけで俺を追っかけてくる。

「なあ、待てって!なんでそんな怒ってるん?」
「怒らせるようなことしたん?」
「やからそれが俺が聞きたいねん」
「…別にええよ」
「ええよって何やねん!?絶対俺何かしたやん!」

俺の機嫌を取る方が偉いさんの機嫌取りよりも優先されることなんだということだけで既に機嫌は治りつつあるのだが、というか、全部ポーズなのだが、キュートアグレッションってやつなのか少し困らせたくなる。いやかなりだな。

「目瞑って」
「へ?」
「いいから瞑れ」

ちゅっという可愛らしい音と空気が抜けたような間抜けな声、
ぽやっとした顔、赤い頬、意地の悪い顔を映した瞳。
澄んだ水には魚も棲まないというし、濁ってる俺を映すくらいがちょうどいいやろ?

「おっさん近づかせすぎやねん、腰なんか触らせんな」
「不可抗力や」
「言い訳すんな、俺から離れんなや」
「……っ、わがまま」


作者の自我コーナー。いつもの。理不尽なことを言う旦那さんに文句は言うものの結局従うお嫁さん。
こうやって、人当たりの良い彼を守ってほしいなと思ったり。


7/21/2024, 9:05:55 AM

この目で見た物しか信じない。
この耳で聞いた物しか信じない。
嗅いで、味わって、触れたものしか。

だから形の無い『愛』は信じられないが、
キミの紅潮した頬と俺の手を握った手の震えと、上擦った声は信じてやろうと思う。緊張しすぎて言葉になってないけどな。

「俺も愛してるよ」

『五感を信じる』

……顔が赤いのはアルコールのせいなんかい。



(私の名前)


作者の自我コーナー
いつもの。私の名前ではないです。

7/17/2024, 6:10:13 AM

離れていても空は繋がっている。よく聞くフレーズが俺にはずっとピンと来なかった。



個人の仕事だからといって俺に何も告げずに地球の裏側まで行ってしまったあいつ。言われたとて、「そうか」としか言いようがないのだが、俺以外は知っていたということが拍車をかけて苛立たせる。
『え、伝えられてへんの?』と三者三様に驚く顔。『まぁ、ドンマイ』って、別に落ち込んでへんわ!

こいつらのようにお土産を渡し合う訳でもない。土産話をする程仲良しでもない。仲が悪いってこともない、空気のようなものだ。そこに居るのが当たり前、だから居ないと調子が狂う。

寂しい、とは違った感情のように思う。

「まぁ、空は繋がってますし」

なんの慰めかムードメーカーがそんなこと言って、なんだかんだ寂しがりのあいつに青空が入った俺たちの自撮り写真を送ると、すぐに写真が返ってきた。
ドアップの顔と窓が写っている。人のこと言われへんけど自撮り下手くそやねんお前。目が更に強調されてるから、写真ですら目逸らしてもうたやんけ。
ドアップだから肌質まで分かる。
向こうの食が合っていないのか肌が荒れていた。
最近やっと綺麗になってきてたのに。

「真っ暗やな」
ポチポチと何かを調べていた子があっ、と声を上げた。
「向こうとこっち時差が半日ある!」
起こしてもうたかなぁ、と心配する優しい子。
現在時刻はお昼過ぎ、ということはあっちはド深夜か。
心配する彼には悪いが、返信が早かったということは起きていたということだ。あいつ寝れてへんねん。最悪、寝なくても大丈夫だとか考えているのだろう。というか、
「なんか光ってへん?」
寝れないんだろう、あのナリで怖がりだから。


部屋が同室の時、何度布団に包まって怖がるあいつを見たか。
目を涙と一緒に溢してしまいそうなくらいうるうるさせるから、俺はため息をついてしゃあないなぁ感を装って、自分の布団に招き入れたのだった。泣いてる子の慰め方なんて、抱きしめるか頭ポンポンしか思いつかなかった。あとキスとか。
阿呆な餓鬼がしたことやから、大目にみたってくれ。時効や。

強くなった、と思っていたがそういう所は変わっていないらしい。勝手な意見だが辞めてほしいなと思う。俺の中のお前の輪郭がブレていくから、俺がいないとダメなあの頃のお前が今もいるんじゃないかと期待してしまうから。
また腕の中に閉じ込めて、キスをしたら、へにゃりと安心した顔をして眠ってくれるんじゃないかって。
でもそれを試すことすら出来ない。

「……ちゃうやんけ」

離れていても同じ空の下?繋がっている?――全然違う。
季節も天候も違う、見ている空の色が違う。
それでも同じなのか?そんなの納得がいかない。
同じ世界に生きている、それだけで満足なんて殊勝な考えは持ち合わせていない。少なくとも、あいつに関しては。
俺は、手放す気など毛頭ないのだ。

「あいつ、いつ帰ってくるん?」
「ほんまになんも聞いてへんの?」
「あと1週間後くらい?」
「……絶対メシ誘うなよ」
「おっ、ついに?」
「どういう心境の変化?」
「フリ?」
「ちゃうわ!なんやねんよってたかって!」
「おかんと仲良うしてなぁー」
「誰がおとんやねん!!」
「「言うてへん笑」」

空を見上げて心に浮かんだこと
(隣に君がいなきゃ意味が無い)


作者の自我コーナー
いつもの。強欲な彼の話。
最近はサボり気味だったのですが、夫婦の記念日だけは書きたかった。油断するとセリフばかりになりますね。

7/7/2024, 6:50:47 AM

作者の自我コーナー番外編


小学生の頃、私の全ては友だちでした。まだ趣味も何も持っていない頃、私には友だちしかありませんでした。
ひょうきんな子でした。勉強が苦手で、かと言って運動が出来るわけでもなく、可愛いわけでもない。
カーストで言うと下の中くらいの位置の子。

でも愚かな私にはあの子がすべてでした。
あの子に新しい『お気に入り』が出来たら、酷く焦りましたし、その『お気に入り』がどれだけ私に懐いてきても疎ましくて仕方がありませんでした。
今でもその子は私を慕ってくれるのですが、幼い私には見る目がありませんでした。大嫌いでしょうがなかった。
あの子を私から奪うそれが。

私の学校生活はあの子の機嫌を損ねないようにするというミッションだけで成り立っていました。拗ねると面倒くさいから。
よく回る口で詰ってくれたらいいのに、あの子は口を閉ざすのです。そうして周りの子と示し合わせたように私の存在を教室から消去するのです。
人を居ないものにするのが上手な子でした。ちょっかいを出してみても、目の前に手をチラつかせてみてもなーんにも反応しませんでした。
そうしてしばらく透明人間になった私をいきなり見つけてくれるのもあの子でした。私の存在の有無はあの子の気まぐれ。

2度大きな喧嘩をしたことがあります。と言ってもやっぱり一方的に存在を消されただけなのですが。
2週間ほど私は授業中以外は透明人間でした。でも運動会の練習中コケて、血だらけになった私にあの子は真っ先に近づいてくれました。
喧嘩は有耶無耶になって、またいつも通りに戻りました。それが良くなかったのかもしれません。
私とあの子は一度も向き合うことが出来なかったから。
2度目の喧嘩のときも同じように私は怪我をしました。
別に、故意にした訳ではありません。でも、駆けつけてくれたのはあの子じゃなくて、疎ましくて仕方なかったあの『お気に入り』でした。
それから私はあの子の視界から消えたまま。同じように『お気に入り』もあの子の視界から消え、私の元に来てくれました。

でも、私が欲しかったのは。



未だに同じ名字や名前の子に出逢うと身体が強ばります。
人を信用するのが怖くなりました。心の内を見せられなくなりました。あの頃馬鹿みたいにさらけ出していた心の内を今度は馬鹿みたいに頑丈な檻に仕舞い込むようになりました。

なのにあの子、人の気持ちが分かるようになった。って
じゃあ私は人じゃなかったのかもしれない。



これが私の最初で最後の『友だちの思い出』です。

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