回顧録

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5/13/2024, 2:59:34 AM

すぐ拗ねる、人のことをよく揶揄う、くだらない嘘をつく。
ゲームで負けたらコンセントを抜くくらい負けず嫌い。
1回気に入ったことはずっとやるし、同じものずっと食べてる。ルーティンと言えば聞こえはいいが、ただの偏食だ。
勉強が嫌いで興味のないことは秒で飽きる。じっと出来ない。

永遠のピーターパン。お前はあの頃から見た目も中身も何一つ変わってない。子供のままだ。
頼りがいがあるのは昔からだ。頼もしさが増しはしたが、
兄貴肌なのは変わらない。アニメ版のジャイアンと映画版くらいの違い。
つまりブラッシュアップはされているが根本は一緒。

俺はこんなに変わってしまったのに。
お前は目まで変わらないのか。
お前の目には俺が子供の頃のままに見えているのか。

「いちばんかわいいよ」
「顔が好き」
「村上さんの方がかわいいな」

そんな訳ないのに。あの頃と変わらない言葉をくれるのだ。
いや寧ろ、お前の『かわいい』を戯れ言と飲み込めない俺が、『子供のままで』いるのかもしれない。

(真に受けたいなんて馬鹿げてる)


作者の自我コーナー
いつもの。自分では捨てた思っているものを見出されて居心地が悪い人の話。地続きに同じ人なんですけどね。

5/12/2024, 8:30:19 AM

手放したのは俺になるんやと思う。
全然手放したつもりなんかないって言うたら、
ヒナはどんな顔するんやろうか。
俺より夢を選んだくせに、って糾弾するんかな。
いっぱい泣かせたもんな。もう泣き虫じゃなくなったはずやのに、この10年引っ込んでた泣き虫が顔見せて、子供みたいに鼻グズグズさせて。「行かんとってやぁ」って俺のシャツ掴みながら泣きじゃくっとったお前を見て心揺らがへんどころか俺はお前の俺への愛を再確認して嬉しがっとった。
間違いなく鬼畜生やと思うわ。俺やったら「そんな男やめとけ!」って言う。

最終的にお前は俺を笑顔で送り出してくれた。
「何も今生の別れっちゅう訳ちゃうもんな、どこでも行ってき」と。そうなるまでどれだけ泣いたんやろうかと思うほどその笑顔を浮かべる目は腫れていた。昨日の今日までお前は俺を思って泣いてくれたんやなぁと。
事実上はお前を置いていく薄情な男を。

ほんまは連れていきたかったよ、なんて言い訳やな。
でもヒナが居らんと生きていかれへん人間が居りすぎるねん。
俺もその一人やった。過去形や。
もう俺は一人で立てる、お前のお陰で。

さっきの話、ヒナは俺を責めるかってそんなの分かりきっている。ヒナは責めへん、人に怒るのが苦手な奴やから。
こんな俺を好きでいてくれるどうしようもない阿呆な奴やから。勝手に沈みこんで歌えなくなった俺を引っ張りあげて立たせて、すばるの歌う歌が好きやねんと再びマイクを握らせたのはお前だから。

どこにいたって俺はヒナの好きな俺の歌で、お前ヒナを好きな俺の歌を歌うよ。俺の歌声はよお通るからきっといつだってお前に届く、絶対届かせる。

どこかで「しゃあないなぁ、おっちゃんは」って笑ってくれてたらそれでいい。

だから今日も『愛を叫ぶ。』



作者の自我コーナー
いつもの、ではないけれどこの二人も大切に胸の中にしまっておきたい二人です。あの約束は今も生きていてほしいなと思う亡霊。

5/10/2024, 10:08:50 AM

今も今で良い関係を築けていると思う。

でも、ギラギラした目がふっと緩むのとか、甘ったるい声で告げられるかわいいとか、唇をなぞる指先とか、切羽詰りながら俺の名を呼ぶ声とか、慈しむように顔中に降ってくるキスとか、
そういう、俺があんたのもんやったときのことがふとした時にぶわぁっと甦ってくる。
やから優しくせんとってよ。セピア色の思い出にさせてよ。

『忘れられない、いつまでも』

(まだあんたに色付いたまま)


作者の自我コーナー
いつもの。少しおセンチな話ですね。
思い出が思い出にならないくらいいつも一緒にいるふたりの話。恋人になろうがならまいがこの二人の関係は変わらないんですよね、矛盾。

5/9/2024, 9:53:43 AM


1年、お試し期間ということで付き合うことになった。
絶対好きにさせたるわ、と不敵に笑う目の前の男に、
『鬼が笑うわ』と笑った。鬼の前に自分が笑ってしまった。

良い奴だとは思う。一緒にいて楽しいし、落ち着くし、気の置けない『友人』だ。そう友人、恋愛にはならない。
そもそも同性なんて対象になる訳がない。いくらあいつが綺麗な顔をしているからといっても。あいつだって女の子が好きなはずなのだ、からかっているかとち狂ったかのどちらかに決まっている。気が済むまで付き合ってやろう、どうせすぐ終わるだろう、と思っていた。

お付き合いが始まって、3日。もう既に後悔している。
吹っ切れたこいつが怖いことは知っていたのに。
いやでも、あのトゥーシャイシャイボーイが目を合わして来るとは思わないじゃないか。ビックリしてこちらが目を逸らしてしまった。
そして極めつけには俺を呼ぶ声の甘いこと甘いこと。
身体が砂糖漬けになるかと思った。そんな様子のおかしさに周りはすっかり気づいてしまって。いらない気遣いをされるようになってしまった。むしろ2人きりにしないでくれ俺をこれと。

「ひな、2人きりやねんから俺の事考えてよ」

既にお前のことで頭ん中いっぱいじゃボケ!!


(1年後が楽しみやなぁ)
(1年持たんやろ)
(そもそもお試しでも付き合っちゃう時点で……やんな)
(鬼ちゃうくても笑うわ、こんなん)
(あーあ、かわいそ)




作者の自我コーナー
いつもの。来年のことを言うと鬼が笑う以前の話。
ものすごく狡い人とものすごい鈍感な人と全部わかってる人達
意外にグイグイいかれると弱いあの人が可愛いです。

5/8/2024, 8:37:00 AM

初めて出会ったのは中3の頃だった。
あいつは発育が遅くて、俺よりも一回りほど小さく、
まだ声変わりもしていなかった。すぐピーピー泣くし、運動神経いい癖に鈍臭いし、ほっとけない奴。それが最初の印象。


ある日いつも通り仕事帰りに練習場に寄ると、いつもと違う声が俺の名を呼んだ。俺の驚いた様子を見てバツが悪そうに声変わりが始まったことを告げた。
『ぼくじゃないみたいで気持ち悪いやんな』
『ぼくも、自分の声じゃないみたいで気持ち悪いねん』
そう掠れた声が弱々しく告白すると、あいつのまん丸い瞳からぽろぽろと涙が溢れていく。そんな風に泣かれるのは初めてだったから、どうしていいか分からなくなって思わず抱き寄せた。
「気持ち悪ないよ、みんな通る道や。これからカッコいい大人の声になるんやで」
「……よぉちゃ、の声かっこよない……」
「おっまえな、人が慰めたってんのに……」
「うそやって、よこちゃんはカッコいいよ。ありがとうなぁ」
今鳴いたカラスがなんとやらだ、すっかり赤くなってしまった目元がニコッと弧を描いた。この腫れ様からすると今泣いたのだけではなさそうだ。
でもこいつ、俺の言葉でピタッと泣き止むんやな。
その小さな気づきが、とある想いが心を巣食っていく切欠。


結局えぐえぐ泣いてたのが喉を傷めさせてしまったのか、あいつの可愛らしい高音はガラガラした声になってしまった。
実際これが声変わり失敗なのかは判りかねるが。
声変わりし始めたときはあれほど自分の声が変わることを気にしていたのに、いざ変わってしまったらあっけらかんとしている。俺が気持ち悪くないと言ったから、というのは自惚れすぎか。でもどんな声だろうとあいつであることには変わりはしない。声が変わったとて性格が変わる訳でもない。泣き虫で寂しがり屋で天然で、表情がコロコロ変わるほっとけない奴だ。
練習の帰り、お腹すいたとあいつが言ったので肉まんを奢ってやった。100円そこらのコンビニの肉まんに目を輝かせて、『よこちゃんは救世主や……!』と喜んでいる。大袈裟な奴。
「ホカホカやから気ぃつけて食えよ」
「わかってるって!……っあちゅ!」
「言わんこっちゃない……」
あちゅって言うたこいつ。めっちゃかわいいやん……って、何考えてんねん。こいつは男やぞ。確かに女の子に見間違われるくらい可愛い顔してるとは思うけど、ってそれもちゃう。
考えを振り払って、ペットボトルを渡してやる。
あ、俺の飲みかけや……別に回し飲みくらい普通にするやんけ。あかん、思考回路がおかしなってる。
そんなぐちゃぐちゃした気持ちの中ダメ押しが来た。
少し筋張った指が口元に伸びる。
「よこちゃん、あーん」
何も考えずに言われたまま口を開けると肉まんが入ってくる。
目を白黒させながら口をもぐもぐと動かすしか出来ない俺に『お礼や!』と八重歯を覗かせた悪戯っ子のような顔で笑う。
「美味しいやろ?」
背が伸びたとはいえまだ俺より小さいあいつが俺の顔を覗き込む。そうすると可愛いお目目が自然と上目遣いになって……。
思わず目を逸らした。
「てか、俺が買ったったんやんけ」
「そこはありがとうでええやんか!」
不満げにぷぅと口を膨らませてむくれる。
おいおいお前は一体幾つなんだ。でもそんな歳にそぐわない幼い仕草も可愛いと思ってしまったらもう認めるしかなかった。

俺は目の前のこの男が好きだ。

『初恋の日』



作者の自我コーナー
いつもの。『初恋』の詩からインスパイアを受けたはずなのですが、ふたり仕様に変えていたら全然分からなくなってしまいました。だから本当はあと二段落あります。『初恋の日』にどこかしらに投稿しようかしら。

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