回顧録

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1年、お試し期間ということで付き合うことになった。
絶対好きにさせたるわ、と不敵に笑う目の前の男に、
『鬼が笑うわ』と笑った。鬼の前に自分が笑ってしまった。

良い奴だとは思う。一緒にいて楽しいし、落ち着くし、気の置けない『友人』だ。そう友人、恋愛にはならない。
そもそも同性なんて対象になる訳がない。いくらあいつが綺麗な顔をしているからといっても。あいつだって女の子が好きなはずなのだ、からかっているかとち狂ったかのどちらかに決まっている。気が済むまで付き合ってやろう、どうせすぐ終わるだろう、と思っていた。

お付き合いが始まって、3日。もう既に後悔している。
吹っ切れたこいつが怖いことは知っていたのに。
いやでも、あのトゥーシャイシャイボーイが目を合わして来るとは思わないじゃないか。ビックリしてこちらが目を逸らしてしまった。
そして極めつけには俺を呼ぶ声の甘いこと甘いこと。
身体が砂糖漬けになるかと思った。そんな様子のおかしさに周りはすっかり気づいてしまって。いらない気遣いをされるようになってしまった。むしろ2人きりにしないでくれ俺をこれと。

「ひな、2人きりやねんから俺の事考えてよ」

既にお前のことで頭ん中いっぱいじゃボケ!!


(1年後が楽しみやなぁ)
(1年持たんやろ)
(そもそもお試しでも付き合っちゃう時点で……やんな)
(鬼ちゃうくても笑うわ、こんなん)
(あーあ、かわいそ)




作者の自我コーナー
いつもの。来年のことを言うと鬼が笑う以前の話。
ものすごく狡い人とものすごい鈍感な人と全部わかってる人達
意外にグイグイいかれると弱いあの人が可愛いです。

5/9/2024, 9:53:43 AM