昔はよく一緒に居た。
ニコイチと言われて、よくあるセット売り。
別にそれでよかった。俺にはなんの取り柄もないから、
綺麗で面白い彼にくっついているしかなかったのだ。
彼は何故かそれを良しとしてくれた。何かあったんだろうな、彼なりのメリットって奴が。
いや、彼は優しいから俺のように打算的ではないか。
彼は自分より弱いものに優しいから、すぐに慕われる先輩になった。ただくっついていただけの俺は彼の相方に繰り上げ当選した。実力は見合っていなかった。もう彼はくっついているだけを許してはくれない。繰り上げ当選とはいえ、俺は彼の相方になったから。
彼の少し後ろを歩いてた俺の特等席は彼の正面になった。
対等、というのは烏滸がましいが、対等に見られることが多くなった。ようやく彼に何かしらを返せた気がした。
もっと役に立ちたくて、俺は彼から自立しようとした。
彼は何故かそれをあまり良しとはしないようだった。
あんたの相方で居るために俺はあんたから離れた、
精神的にも、物理的にも。もう今では目も合わない。
でもそれでいい。俺が望んだことだ。
あの頃思い描いたら未来とは少し違う気がするが、
ずっと一緒に居る気がするというのは近からずも遠からずだ。
隣にはいないけど、未だにときどきセット売りされるのはドキッとする。
嗚呼まだ世間様に自分は彼の隣を認められているのだと。
もう俺の特等席は彼の正面ではない、彼と反対の端っこだ。
対等の代償が彼との距離であった。でもそれでいい。
まだ、追いかけていた頃にずっと見ていた俺の1等好きな綺麗なキミの横顔がここならよく見えるから。
近くに居た時は照れて、じっと見させてもらなかったからね。
『それでいい』
作者の自我コーナー
いつもの。
ずっとセットで居てくれる彼らが大好きです。
近いだけがいい関係ではないんだなということを教えてくれた二人。
いつもとは打って変わって自分語りをしようと思います。
タイトル通り独白です。
私はあまり他人の目を気にしません。よく思われていようが、悪く思われていようがどうだっていいです。見た目も性格も。
良くも悪くも自分は自分だと思っています。
でも1つだけ気にしてしまうことがあります。
期待の眼差し、それもたった1人の。
正確には眼差されたことはないのかもしれません。
だけど、確かに私はあの人の期待に応えることが出来なかった。きっともう失望されていると思います。
期待に応えたかった訳でもありません。
失望されたことに対してもなんとも思いません。
元々私に夢を見すぎなのです。あの人を孫バカと認識したことはないですが、おそらくそうだったのでしょう。
少し話が変わりますが、あの人が何も無いのにお小遣いをくれた時に、私はあの人がもうすぐ死ぬのかと思いました。
全然未だにピンピンしていますが。
それくらい有り得ないことだったのです。
ただであの人がお小遣いを渡すことが。
『なにか自慢が出来ることがあれば』お小遣いをくれる人でした。
『成績が学年で1位だった』とか『テストで100点100枚取った』とか『泳げるようになった』とか。
内容の大小は問わず、本人が自慢出来ると思えば何でもよいのですが。これが小学校や中学校の頃はいいのですが、
高校になるとなかなか自慢出来ることってなくなっていって、
そもそもアイデンティティすら分からないのですからなおのことなんですけど。
自慢出来ることが分からなくなって、挫折を覚えました。
それくらいの時期だったと思います。あの人がタダでお小遣いをくれるようになったのは。
あ、もう『こいつに自慢出来ることなんてない』って思われたんだ。って、考えすぎなのは分かってるんですけど、お小遣いを貰うのが怖くなって。
また、逆にお年玉が年々増えていくのも奇妙で。
年賀状のナンプレを解かなかったらくれなかったお年玉を何も無く、いつも頑張ってるからなんて言いやがって。
御祝儀袋に入ってる枚数が1枚じゃなくなったときは返すと泣き叫んだことを覚えています。
気味が悪かった、怖かったのです。
あの人が高校受験を失敗した私をどう思っているかが。
結局返しに行こうとした所を母親に止められて、全額図書カードに換えました。現金として持っていたくなかった。
図書カードにしたところで、数年経った今でも使えていません。貯まっていくばかりです。
自慢出来ることが何一つない私には使う権限がない気がして。多分、後ろめたいのだと思います。頑張れない自分が。
ただの1万円札がプレッシャーになるほどに。
お目汚し失礼いたしました。
ヒーローになりたかった。
弱き者を助ける強くてかっこいいヒーローに。
大切なものを俺もあのヒーローみたいに守りたくて、
早く大人になりたくて入った場所に、そいつは居た。
背がちっちゃくて、目がおっきい奴。
すぐ泣く奴。多分、感情のコントロールが出来ていない、楽しくても面白くても怒ってても、 悲しくても泣く。
それしか分からないみたいに。わぁわぁだったりポロポロだったりひぐひぐだったり、とにかく泣く。弟みたいな同い年。
まぁ打てば響く、ならぬ弄れば泣く奴だったので。
もうほとんど毎日泣かされては俺に泣きついてきて、俺も俺で頼られていることを悪く思っていなくて、寧ろ可愛いなぁなんて思ったりしたりして?
なんせ俺はヒーローになりたかった男なので、可愛くて泣き虫なそいつは当然守りたい対象になった。
下心もあったのかもしれない。女っ気のない空間だったから、それくらい麻痺してた可能性はある。
それから月日が経って、俺は大人になった。
仲間が増えた、守りたい大切なものが増えた。守らなきゃダメなものも出来た。責任と義務って奴も増えた。
あの頃憧れたヒーローになれたのかは分からないが、ちゃんと守りたいものは守れている気がする。
あいつは強くなった。俺と一緒で守りたいものが増えたあいつはどんどん強くなっていった。どんなに酷く弄られても、詰られてもあいつの笑顔は崩れない。どんなに汚れようとも心までを汚すことはなく、闇に沈みそうになる仲間を引っ張りあげていく様は、俺がその昔憧れたヒーローそのものだった。
すっかり感情のコントロールか出来るようになって、泣かなくなった。……俺の前では。
酒が入ると涙脆くなるらしい。らしい、なのは俺はその場を見ていないからだ。
俺とあいつの距離はもうそんな近いものじゃなくなってしまった。いつからだろう、あいつが俺を頼らなくなったのは
あいつは、いつの間にか俺の『大切なもの』からいなくなってしまった。俺が落としてしまったのか、あいつが抜け出したのかは分からないがもうあいつは守られる存在じゃなくなったのは確かだった。
まるで少年漫画だ、泣き虫だった少年が、仲間に出会って強くなっていく王道ストーリー。
面白くないと感じる自分がいるのは何故だろう。
それから、守りたいものが俺の手から幾つか離れていって、
『守りたいもの』=『大切なもの』ではなくて、『大切なもの』だったから守りたかったのだと、それが本当に守れなくても、守れない距離にいても弱くなくても大切なのだということ、それともうひとつに気づいた時。強いあいつが倒れた。
信じられなかった。ヒーローが地に伏している。
顔は青ざめていて何も固形物の混ざっていない吐瀉物が床に広がっていく。何も食べていないのか。
仲間がざわつき出す。みんな驚いて声も出ないようだ、俺も情けないことに喉が引き攣っている。
バタバタと周りの大人達が蜘蛛の子を散らすように居なくなっていく。救急車とか担架って言葉が聞こえた。
その足音に弾かれたように身体が動き出した。
俺が真っ先にあいつの元に行かなければ、そう思った。
近づくと同じように涙をいっぱい溜めた瞳が俺を見つめた。
「きたないから、きた、あかん」
この期に及んで俺の靴の心配をするのかお前は。
まだ頼ってくれないのか。ため息を吐いて、裸足になる。
お前が汚い訳が無いだろう。でもそれが理由で頼れないのなら、不安要素は潰してやる。
「これでいい?服が気になるんなら全裸になったるけど?」
「あかんわ、あほ……」
憎まれ口が叩けるなら大したことはないな、安心。
まぁ周りは俺のこの発言に引いているが……いや何人かニヤついてる奴おるな、人が前で倒れとんの分かっとるんか此奴ら。
でも、そこまでしても俺はこいつに頼られたいのだ。
『大切なもの』だから?
いや、それ以前に好きな子に頼られたい男心ってやつやな。
(好きな人はそりゃ大切やろ)
『大切なもの』
作者の自我コーナー
いつもの
大体同じような話になるのは設定を変えたとしても結局は幹が同じだからですね。
これくらいあのスーパーマンにはグイグイいってほしいものです。
好きだと抱きしめると彼は困ったように笑って、
「何言ってんの」と言った。
こんなことでしか素直になれないんだから自分のことながらどうしようもない。ねえ知ってる?エイプリルフールは午前までなんだって。今は何時だったっけ?
好きだと抱きしめられた。いちいちこんなので高鳴る鼓動が煩わしい。今日がこんな日じゃなかったらよかったのに。
そうしたら・・なんて考えてしまう。本当に馬鹿みたい。
『四月馬鹿(エイプリルフール)』
作者の自我コーナー
以前別サイトで書いた話のサルベージです。
超SS。超絶拗らせ両片想いが好きなのは今も昔も変わらないってことですね。
幸せになってほしいと思っていた。
彼は子ども好きで面倒見がいいから、
きっといい父親になる。
まぁ彼女に対する条件は厳しいけれど、
この歳になってからは大分丸くなった。
『俺のことをずっと好きでいてくれる人』は
さすがに条件ガバガバ過ぎると思うけど。
照れ屋であまり言葉にはしないけど、
頑固一徹で一途だからきっと彼を選んだ人は幸せになれる。
あまり求めすぎたら、キャパオーバーになって拗ねてしまうけど。そういう彼の子どもっぽいところも愛してくれたら。
彼は幸せになるべき人だから。
だから勝手に幸せになってほしいのに。
『好きや。ずっと前から』
『20年諦めようとしてあかんかったらもう無理やろ』
『年齢とか性別とか世間体とかどうだっていい、
お前と居りたいねん、俺は』
どうして、
「俺の幸せとか考えんといて。ヒナがどうしたいか教えてや。俺の幸せがヒナの幸せなんて逃げんといて」
壁に背中が当たる。精神的にも物理的にも逃げ道を塞がれてしまった。
本当に狡い人だ、あんたは。
俺の気持ちなんて分かりきっているかのように振舞って。
『勝手に俺の幸せを決めんといて。俺の幸せはヒナと作るもんや』
ぐいと手を引き寄せられて掌に柔らかな唇が押し付けられた。
「なぁ、俺を選んで。幸せな俺じゃなくて、子ども抱いてる俺じゃなくて、しわしわなってもヒナと居る俺を選んで」
幸せになって欲しいのだ、
大切な人だからーー愛している人だから。
真っ当に祝福を受けてほしい。
顔真っ赤にして嫁のことを弄られて、
そんなあんたが思い浮かぶのに。
なのに、俺はその手を振り払えない。
(狡いのはどっち)
『幸せに』なってほしい、はずなのに
作者の自我コーナー
いつもの
片方を男らしくしたかったので女々しくなってしまいました反省ですね。
お嫁さんの目の鱗を落とす人は旦那さんであってほしい。
お互いのことを無自覚のうちに掬い上げる二人が好きです。