回顧録

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幸せになってほしいと思っていた。
彼は子ども好きで面倒見がいいから、
きっといい父親になる。
まぁ彼女に対する条件は厳しいけれど、
この歳になってからは大分丸くなった。

『俺のことをずっと好きでいてくれる人』は
さすがに条件ガバガバ過ぎると思うけど。

照れ屋であまり言葉にはしないけど、
頑固一徹で一途だからきっと彼を選んだ人は幸せになれる。
あまり求めすぎたら、キャパオーバーになって拗ねてしまうけど。そういう彼の子どもっぽいところも愛してくれたら。

彼は幸せになるべき人だから。
だから勝手に幸せになってほしいのに。

『好きや。ずっと前から』

『20年諦めようとしてあかんかったらもう無理やろ』

『年齢とか性別とか世間体とかどうだっていい、
お前と居りたいねん、俺は』

どうして、

「俺の幸せとか考えんといて。ヒナがどうしたいか教えてや。俺の幸せがヒナの幸せなんて逃げんといて」

壁に背中が当たる。精神的にも物理的にも逃げ道を塞がれてしまった。
本当に狡い人だ、あんたは。
俺の気持ちなんて分かりきっているかのように振舞って。

『勝手に俺の幸せを決めんといて。俺の幸せはヒナと作るもんや』

ぐいと手を引き寄せられて掌に柔らかな唇が押し付けられた。

「なぁ、俺を選んで。幸せな俺じゃなくて、子ども抱いてる俺じゃなくて、しわしわなってもヒナと居る俺を選んで」

幸せになって欲しいのだ、
大切な人だからーー愛している人だから。
真っ当に祝福を受けてほしい。
顔真っ赤にして嫁のことを弄られて、
そんなあんたが思い浮かぶのに。

なのに、俺はその手を振り払えない。

(狡いのはどっち)

『幸せに』なってほしい、はずなのに



作者の自我コーナー
いつもの
片方を男らしくしたかったので女々しくなってしまいました反省ですね。
お嫁さんの目の鱗を落とす人は旦那さんであってほしい。
お互いのことを無自覚のうちに掬い上げる二人が好きです。

3/31/2024, 4:53:35 PM