暑いって感じる
セミの鳴き声を感じる
滲む汗に
浴びる日光
視界が揺らいで
陽炎も揺らぐ
あ、夏だなって思って振り返ると
当然君はいないので
もっと夏だって実感します。
夏に生まれて夏に死んだ気分はどうですか
僕なら御免です
蒸し暑い夏なのに、棺桶の中に入ったらより一層蒸し暑くて火葬される前に溶けてしまいそうだから
毎日が誕生日で毎日が命日みたいな感じですか?
誕生日に死なれたら、祝う側も複雑だよ
また今年も夏が近づきます。
夏の気配を感じる度に、
貴方を思い出して溶けてしまいそうです。
初めて聞いた声は、とても高いソプラノでした。
中学生になり、少し落ち着きましたが、貴女のソプラノは明るく、僕の心を満たしてくれました。
高校生になって、付き合い始めると少し元気が無くなったような気がします。大学受験に向けてお互い忙しく、大変な時期でした。
大学を乗越え社会人になり、そして同棲…つまり結婚したら、君の声はとても大人っぽくなっていました。気づいたら成長していました。僕を置いて。
そして、子供が生まれて君の声は優しく聖母のようでしたが、どこか逞しくなりました。君は、お母さんになったんですね。
僕も例外なく、お父さんですけど。
そしてどんどん時が経って
おばあちゃん、おじいちゃん、なんて呼ばれちゃって
ひどくしわがれた声になりました。
でも、不思議と寂しくなんか、虚しくなんかありませんでした。
最後に聞いた君の声は、透き通っていて、消えてしまいそうでした。
ピーという電子音と共に、君はあの世へ連れていかれました。
そんな走馬灯ですが、もう時期僕もそちらへ行きます。
暗転
初めてあの世で会った時に聞いた声は、とても高いソプラノでした。
空はこんなにも晴れているのに
私の心はいつも曇ってるわ
私の英語の教師が言った言葉だ。
反応は沈黙。いい歳した大人が何を言ってるのだろう。純粋な疑問でしか無かった。
いつだって、誰だってそうだ。
全てにおいて子供の空想と一蹴し、叶えるために協力さえしない。
夢を馬鹿にするやつらは、早々に夢を諦めた馬鹿ばかりだ。
時が経つにつれて、子供は現実に気づき始める。
プリキュアやら仮面ライダーやらウルトラマンやら、憧れを捨てたのではない。なれないことに気づいたのだ。
どんどんどんどん、夢は抽象的なものから、具体的なものに変わっていく。果たしてそれは、本当に良いことなのだろうか。
夢をあきらめないでなんて勝手に言ってくれるが、誰のせいだろうな。
大人はいつだって子供を俯瞰した目で見る。
子供はそんな大人を見て生きる。
もしも子供が将来グータラ生活を送って、「あなたを見て育ったから」と言ったら大人は責任が取れるだろうか。
なあ、アンタ。子供の時の夢は言えますか?
その夢を溝に捨てたのは誰ですか?
もう誰だか知ってんだろ?
ああ、私の子供の頃の夢は──────・・・
自由というのかなんていうのか。
放っておくと君はすぐどこかへ行ってしまう。
いや、そもそも僕のものじゃないんですけど。
君は人気者で、危なっかしくて、放っておけないんですわ。
ほんとは視線なんて浴びたくないけれど、君の好奇の視線なら何故かくすぐったいけど心地よくて
君の学年とかでプロポーズごっこが流行ってるのか知らないけど、焦った。しかも結構クオリティ高めの。
柄にもなく黒スーツ着て、前髪上げて
「どこにも行かないで。僕とずっと一緒にいて。」
びっくりしてる君の顔。きっと、今はそれでいい。
「…うわ、激重感情キモッ…プロポーズとか一生せんどこ…」
うん。激重感情は確かにキモイ。慌てて繕う僕を見てくすくす笑う君。
でも、油断しちゃだめだよ。
別に本心じゃないとは言ってないし。