「結婚おめでとうございます。」
にこやかに笑みを浮かべる女。…基、ただの滑稽な女。
消化不良の恋を何十年も引き摺り回した馬鹿な女。
「ありがとう。」
でも、気づいてくれないアナタもそうよ。ほんとうに馬鹿。
結婚、人生のうちで最も晴れやかである行事。
そして、幸せである日。
幸せを掴んだアナタの隣は、アタシじゃない。
「明日が結婚式ですっけ?楽しみです。」
ウソ。今からどうにかして風邪でも引いて休みたい。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。」
明日、彼は旦那となる。他の女の旦那。
そして、いずれは父親となる。
でも、私の想い人ということは変わらない。
けど、変えなくちゃいけない。
変えなくちゃ、アナタに迷惑かかる。
ううん、ウソばっかり。
変えなくちゃ、アタシが辛いもの。
全部全部自分のためよ。
そう。アナタを好きになったのも自分の選択。
アナタを諦めるのも自分の選択。
誰かから促されたわけじゃない。
でも
今日だけは…
「…久しぶりに、飲まない?」
アナタの隣にいることを
「僕もそう思ってたよ。」
アナタを好きでいることを
許してください。
心に空いた穴がある。
どこか満たされなくて、この正体はわかっていない。
みんな、好きなものに熱中している。
我を忘れて、取り組んでいる。
私には、そんなものがない。
道徳の授業で、執着心がないと言われた。
最初は疑ったけど、なんとなくそんな気がしてきた。
物事に執着することなく、どこかですぐ放置してしまう。
【心の空白】
これを埋めてくれる人が、きっと私が執着する人なんだな。
誰もいない教室とは都合がいい。
何をしたってバレないものだから。
ここは自由だ。
勉強をしても
絵を描いても
告白しても
なにしたって自由。
誰にもバレないから。
おっと、1人来たようだ。
誰もいない教室じゃなくなったみたい。
「…好きです」
告白かあ、相手がいないってなると辛いものだね。
「ねえ、好きなの。」
そりゃ、熱烈だ。
「お願い…でてきて」
誰がそちらから歩いてくる音。
ああ、あの子はこの子と仲いい子か
「おい…誰もいない教室でなにしてんだ?」
「そう、だよね…」
あなたたちが普段使ってる教室
誰もいないからって大声出したりする人もいるかな
でも、気をつけてね。
本当に誰もいないとは限らないから。
例えばーーーー
ただ、視えていないだけとか。
ねえ、私はここにいるよ。
友愛と恋情を勘違いするな
父の言葉でした。
あなたの隣、心がとても安らぐの。
あなたの手、握ると握り返してくれるの。
まるであなたはオアシス。
ごめんね、わたしはちょっと情緒が不安定だからさ。
みんなの前では笑わなきゃって、いっぱいいっぱいになって…
でも、あなたはその溢れた涙を何も言わずに拭ってくれる存在なの。
心にぽっかり空いた穴を、あなたはいとも容易く埋めてくれた。
どれだけ暑い砂漠の中でも、あなたというオアシスにたどり着くためなら、なんだってする。
そう、なんだって…
わたしもう、あなたなしじゃ生きられない!
これって恋だよね?父さん…!
「ううん、違うよ。」
そう否定したのは
父でもなく
あなたでもなく
誰でもない
わたしでした。
「…先輩」
反応はない。
ぴくりともしないですやすや眠る様子はまるで猫だ。
普段は肉食動物の如く獰猛なくせ、昼寝をする時だけ少しだけ可愛らしくて笑みが浮かぶ。
「…先輩!」
やっぱり反応はない。こいつ狸寝入りしてんじゃないの?思い切ってゲジゲジ蹴って見たら耳がぴくりと動く。
「起きてください。昼休み終わりますよ。」
眉を寄せる。まるで「まだ寝かせろ…」とでも言ってるように。
「…もう間に合わないので隣失礼しますね。」
昼休み終了まであと10分。正直間に合うけど少しでも
「…勝手にしろ」
ぶっきらぼうな貴方の隣にいたかった。
揺れる木陰の下、二人で眠りについた。
貴方の隣は、心底居心地がよいのです。