燃え残った炭と灰は風にさらされる
一つだったその物体は無数の塵となり空を舞う
行く宛も無く彷徨って居たそれは夜の闇に消え
四方八方に散りまた歩き出す
幾度いく手を阻まれても歩き続けたその存在は
光に負けず風を味方に止まる事なく突き進む
気がつけばその存在は空を歩き風となり
赤く燃える光の中で白く消えた
正直俺はメンタルが強い方じゃ無い
強くなろうとも思わなかったし変わる気も無かった
変わらなくても周りが変えてくれるだろう
そう言う甘い考えを持って生きてきた
短い人生の中で3回人に嫌な事をされた
1回目は自分の愚かさから
2回目は自分の相手の愚かさから
3回目は相手の愚かさから
こんな綺麗に推移して行くなんてフィクションだって
そう思いたかったけど現実で
失った物は友達と他の人間への信頼だった
正直3回目の嫌な事で生きる意思を失った
でもその3回目が起こって1ヶ月ぐらいした頃
ふと自分の人生を振り返る気になった
変わる気が無いって思っていた自分はしっかり変わっていた
その3度の別れで確実に俺は成長していた
これまで歩いてきた道は確実に俺をつくり治してくれてる
どれだけ嫌な事があっても前を向いて歩くべき
なんてそんな明るい事は言えないけど
小さな絶望を一つ一つ乗り越えて生きていこうと思う
そこは果たしなく地面が続く場所
自分以外の物は無くひたすら歩き続ける
飢えもせず乾きもせず疲労もしないその身体は
果てしなく真っ直ぐに歩こうとする
歩き出した時周囲は暗く
空には星々が輝いていた
その星々は「君は1人じゃ無い」と言っているようで
上を見上げるたび励まし自分の居場所を教えてくれた
夜が明けた
共に居た星々は消し去られ
その眩さと熱から思わず歩く事を辞めかがみ込む
まっさらなこの地上ではその存在は異物で
その光を一身に浴びたその存在は
最後の光と煌々と輝き地上から姿を消した
本来希望をもたらすその光は
小さな光を掻き消し異物を焦がす絶望となった
ふとした瞬間君はそこに居た
物心ついたというべきだろうか
記憶を辿ると必ず君がそこに居る
苦楽を共にし
私が楽しいと思う事は君も楽しい
君も楽しいと思う事は私も楽しい
まさに以心伝心
これ以上の親友は居ないと思う
君を友達に紹介したい
しかし君は私の友達を前にすると姿を隠してしまう
友達には親友が居ると言っても信じてはくれない
親友の話をするにつれ私は孤独になって行く
だがそれでも構わない
私には君が居るのだから
そう思いいつもの場所で語りかける
隠れてないで出ておいで
今日からは君だけが私の親友だ
帰ってくるのは静寂だけ
私は孤独にさらされる
その孤独を知った時
親友と思っていた君の存在が消える
記憶を辿っても君に辿り着けない
「君」という名前だけ残して私は取り残される
全てはふとした瞬間に
雪の降る交差点で9歳の君は遠くに行ってしまった
もう会えないって心のどこかではわかっているけど
夏と冬の間は会える気がして君の居た場所を訪ねてしまう
幼いながら君への思いは本物だった
本当は春と秋も会いたいけど君はそんなに来なくていいって怒りそうな気がして行かなかった
周期を重ねる度君の全てがぼやけて行く
22歳になった頃、前を向かなきゃって言われた
その時完全に忘れた声がはっきりと聞こえたんだ
13年間忘れることはできなかったけど何かのきっかけかと思い未来へ一歩踏み出すことに決めた
その後25歳になった冬頃結婚が決まった
すぐに報告に行きたかったけど妻への申し訳なさと仕事の多忙さから行けなかった
結局行けたのは1年後で26歳になってからだった
そこから先は子供も産まれ仕事でも大きく成功して充実した日々を送っていた頃手紙が届いた
三十三回忌、そう書かれていた
ここ6年間忘れていたのに何故かその手紙を見た時行かなければと思ってしまった
妻と子を連れ彼女の眠る墓へと向かう
私は彼女を安心させたかったのかもしれない
私は幸せだと安心して眠っていいとそういう思いで2人を連れて行った
五十回忌と書かれた手紙を貰った時、私は1人だった
妻と子は海外に旅行に行き飛行機の墜落事故で亡くなった
ひとまず生きて行くために仕事は続けたがそれ以外のやる気は全く起きず17年弱
手紙を貰った時久しぶりに行きたいと心の底から思えた
その時思い出したひとまず生きたいと会社を続けていたのは彼女に会うためだったのだと
彼女に会うまでは死にたくない
彼女に会えば生きなくていい
どちらが重要なのかなど考えずに墓に向かう
会社は無断欠勤した
泊まる場所など用意していない
距離は離れているが金はある
気がついた時には彼女の墓の前に立っていた
数十年越しに見た墓は寂れてはいるが全く変わっていなかった
容姿も生活環境も変わっている私とは違う
49年前のままだった
もう死んでもいい
ここにもう一度立つために生きていたんだ
そう思い来た道を引き返す
どうせ死ぬなら同じ場所で
季節は違うけれどそこならば一緒になれる
そう思った
交差点
全てが新しくなり同じ場所とは思えないその場所で彼女の元へ行こうと足を踏み出す
しかし、身体が動かない
誰かの声が聞こえる
心地の良い声、妻でも子の声でも無い
あの時の声がはっきりと
まだ来ないで
あなたは自分の幸せを大事にして
虚空に向かってボソボソと話す
そんなものもう無くなってしまった
君と一緒に居た方が幸せだ
少しの沈黙の後一際温かい声が聞こえた
どんなに離れていても私はあなたと一緒に居るわ
その言葉が聞こえた時、私は病院の一室で目を覚ました
私は歩道で気絶していたらしい
彼女の声が聞こえたのが現実だったのか、夢だったのかはわからないが最後の言葉を胸に私は生きていこうと決めた
その後彼女の声が聞こえることは無かった
数十年後のとある山奥
ある墓地が取り壊された
その墓地に納められていた遺骨は集合納骨堂へと納められた
その納骨堂に元気な声が聞こえる
その声は返事がもらえたのかもらえなかったのかは誰も知らない
(一つ前に書いた詩のようなものに少なからず関わりがあるのでそちらも読んでいただけると嬉しく思います)