浜辺 渚

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4/10/2025, 3:10:52 PM

やっとだ。本当に長かった。ついに僕は大学生になれるんだ。いや、本当に信じられないな。だって、あんな毎日勉強しかしてこなかった日々はもう来なくて、明日からは人生の夏休みとまで言われてる大学生活が始まるんだ。
もう数えられないほどに妄想したよ。サークルに入って、彼女を作る。彼女と県外の旅行に出る。友達と日本一周なんてのも考えていた。寝る前の妄想だけが唯一の楽しみだったぐらいだ。
そして、その夢の世界が到来するんだ。本当にやり切ってよかった。途中で諦めなくて良かった。あぁ、楽しみだ。

4/9/2025, 4:02:00 PM

小学生の頃、よく遊んだ近所の同級生が居た。彼はハンサムで、運動神経が良く、その上優しかった。お世辞にも僕はかっこいい顔でなかったし、運動神経もそこまで良くなかったため、彼と肩を並べて歩いてるのがいつもどこか恥ずかしかった。もしかしたら、彼と比べられてバカにされているかもしれないという気がしてならなかった。しかし、それでも僕は彼と遊ぶのが好きだったし、1週間のうち遊ばない日の方が少いくらいだった。外で遊ぶ時には大体キャッチボールをして、そうでない時は僕か彼の家で任天堂willで遊んでいた。
ある日、いつもと同じようにキャッチボールをしていると、手が滑り、僕のボールが彼の頭上高くを通り抜けてしまった。ボールはそのまま草薮の中に入っていき、見えなくなった。
「ごめん、滑っちまった」と僕は大きめの声で謝った。
「大丈夫」と彼は言うと、草薮の中に臆せず入っていった。灌木や雑草は彼の腰の辺りまで伸びきっていて、彼が歩みを進める度にメシメシという音が鳴り響いた。
僕は彼の傍により「危ないよ、蜂に刺されちまう」と言った。
「4月に飛んでいる蜂は冬眠明けの弱った女王蜂が多いんだ。大丈夫だよ」と彼は静かに言った。
「でも、クモとかヘビとかいるかもしれないよ?」と僕は不安げに言った。
「ここら辺にいるハエトリグモや女郎蜘蛛が活発なのは秋だし、ヘビはそもそもアオダイショウぐらいしかいないよ」と彼は言った。
どんどん深い所まで行く彼を僕は草むらの外から眺めていた。僕はどうしても虫が好きにはなれず、もしも虫が服についたらと思うと、一歩が踏み出せなかった。
「もう大丈夫。ボールは僕の家にまだあるし、取ってくるよ」と彼の背中に声をかけた。
「いや、なんか見つかりそうな気がする。一瞬チラッと白いのが見えたんだ。絶対にそれだよ」
「ここら辺は色々なボールが転がってるから、野球ボールとは限らないよ。とにかく、もういいから一旦家に戻ろ」
「分かった、分かった。戻るよ」と彼は少し不機嫌な様子で草むらを引き返した。
1度踏み潰した後の雑草はけもの道のように彼だけの道を作っていた。
彼が草むらを抜けようとした時、足の先に何かが当たった。探していた野球ボールだった。
「見つけた。これだよ」と彼は興奮してそう言った。
「凄い。まさかそんな手前にあるなんて思わなかった」
と僕は言った。
「あそこで中断しておいて良かったよ。もし、あのまま続けていたら一生見つけられなかったな」
「そうかも」と僕は微笑んでそう言った。

そんな毎日を過ごしていた彼も今では僕と同じ立派な社会人だ。結局、彼とは中学校が離れてしまって、それっきりあっていない。そのため、同級生なのにこう言うのもおかしいことだが、僕の記憶の中では彼はずっと小さい子供のままだ。彼がスーツを着て、電車に揺られるところなんてのは上手く想像出来ない。ただ、既に述べた通り彼は僕とは違い器用で如才のないやつだったから、きっと上手くやっているんだろう。元気にしているといいな。

4/8/2025, 3:47:00 PM

僕が6歳の頃、夏の家族旅行で軽井沢に行った。避暑地として高い人気を誇るだけあって、僕たちが暮らしている盆地とは同じ日本でもまるで違う気候のようだった。
軽井沢ではレストランやカフェを巡って、夕方には小さな河原で水浴びをした。当時は熱心な昆虫好きだったため、必死にヤゴやゲンゴロウを探していた。

「お父さん、何か見つけた?」と僕は聞いた。
「何にも」と父は言った。
僕は虫あみを伸ばして、網で水草の下をかき混ぜた。こうすることで、驚いた生き物が網の中に入ってることがある。
「あんまりやりすぎるなよ。ここは大事な生き物の住処なんだから」と父は言った。
「分かってる」と僕は網でガサゴソ掻き回しながら答えた。
結局、小さな稚魚やサワガニしか引っかからず、あっという間に日は暮れてしまった。
夕日で浮かび上がった山の稜線は僕に捉えどころのない無力感を感じさせた。
「また来ようね」と僕は不貞腐れながら言った。
「もちろん。約束だ」と父は笑顔で言った。


4/7/2025, 3:36:09 PM

春光輝く4月の流れも、桜花の散り際のようにあっという間だ。公園でその濃い赤色の花弁を知らしめていたツバキは見るも無残に花の軸ごと地面に落ちてしまっていているし、梅の木は既に新葉を生やし次世代への蓄えを始めている。モクレンやハクモクレンはその大輪の花弁を落とし、桜に隠れその栄華の終わりへと向かっている。一方で、ヤマブキは5枚の整った花弁をはつらつに咲かせ、ツツジはそのピンク色の花と燃えるような赤色の花で街路を華やかにさせ、ハナミズキは静としての美しさを演出している。毎年この時期になると、目まぐるしく移り変わる草花のそのなんと短く儚いことかに生命の宿命を感じられずにはいられない。

4/6/2025, 2:55:17 PM

ここから先僕たちはかなりタフにやっていかないといけない。今から臨む世界というのはこれまで居た世界とはまるで違った法則やルールで出来ている。そして、そんな目まぐるしい変化が起きる一方で、僕たちの体はろくすっぽも変わってはいない。時間は僕たちをどこかへ連れて行ってはくれても、僕たち自身を変えることは無い。だからこそ、大事なのは変化が迫られているという強い自覚とそれに伴った具体的な行動だ。これを忘れてしまえば、あっという間に時間の波に押し流され、二度と地上に上がることは出来なくなる。チャンスは1度きりでそれは紛れもなく今なんだ。そんなシビアにやってかないといけないのかと不満を持つかもしれないが、残念ながら人生はシビアだし、これからその強度は加速していく。そのためにも、常に見るべきは今であり、考え行動するのも今だけなんだ。もう一度言うがチャンスは一度きりだ。今なんだ。

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