浜辺 渚

Open App

僕が6歳の頃、夏の家族旅行で軽井沢に行った。避暑地として高い人気を誇るだけあって、僕たちが暮らしている盆地とは同じ日本でもまるで違う気候のようだった。
軽井沢ではレストランやカフェを巡って、夕方には小さな河原で水浴びをした。当時は熱心な昆虫好きだったため、必死にヤゴやゲンゴロウを探していた。

「お父さん、何か見つけた?」と僕は聞いた。
「何にも」と父は言った。
僕は虫あみを伸ばして、網で水草の下をかき混ぜた。こうすることで、驚いた生き物が網の中に入ってることがある。
「あんまりやりすぎるなよ。ここは大事な生き物の住処なんだから」と父は言った。
「分かってる」と僕は網でガサゴソ掻き回しながら答えた。
結局、小さな稚魚やサワガニしか引っかからず、あっという間に日は暮れてしまった。
夕日で浮かび上がった山の稜線は僕に捉えどころのない無力感を感じさせた。
「また来ようね」と僕は不貞腐れながら言った。
「もちろん。約束だ」と父は笑顔で言った。


4/8/2025, 3:47:00 PM