浜辺 渚

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1/26/2025, 2:27:44 PM

僕には双子の娘がいる。ちょうど先月に6歳になり、みるみるうちに成長していっている。最近はお家でかくれんぼをするのにハマっているらしく、僕は鬼役をいつもやらされる。

「1ぷん数えたら、さがしていいよ」と長女の方が言った。
「目瞑っててね」と次女が言った。
「わかった、この通り何も見えないから、隠れてていいよ」と僕は両の手のひらを目に被せながらそう言った。
キャーキャーと騒ぎ立てながら、2人は家中を駆け回っていった。どうやら、この年代の子達はかくれんぼが好きらしく、学校で流行っているものを聞いても「かくれんぼ」としか答えない。改めて、かくれんぼという遊びが如何に優れているかを考えさせられる。遡れば、古来中国の宮廷で行われた遊びで、日本には平安時代以前に伝播されたと言われている。そうなると、おおよそ1000年は子供の遊びの中核をなしていたと言える。ルールの単純さ、必要人数の柔軟性、行える環境、危険性などどの観点から見ても優れている。僕が子供の頃は、かくれんぼから派生した缶けりや、ポコペンなどが人気であった。鬼は子を見つけるために陣地から出ないといけないが、離れれば離れるほど陣地への侵入を許し、敗北するリスクが大きくなる。よく出来たゲームだ。あのスリルをもう1度味わいたいものだ。
1人で思考に耽っていると、後ろに何かしらの気配を感じた。振り返ろうとした途端、おしりの穴に強い衝撃が走った。
「わぁ」と僕は驚いて声に出した。振り返ると、娘たちが嬉しそうに笑っていた。そして、笑うことに満足すると、お面を取り替えるかのように、頬を膨らませた顔に素早く切り替わった。
「もう1ぷん経ってるよ。おそい」と長女が言った。
「1ぷんは60びょうのことなんだよ」と次女が言った。
「確かに1分は60秒だったね。1分を200秒かそこいらと勘違いしてたみたいだ。ごめんね」と僕は申し訳なさそうに言った。
「今度はタイマーを使うから、安心していい」
「タイマーちゃんと使える?」と長女が言った。
「1ぷんなら、ふんってところを1回押すんだよ」と次女が言った。
「使えるさ。今教えてもらったからね」と僕は得意げに言った
どうやら、6歳児というのは僕が思っている以上にしっかりしているらしい。

1/25/2025, 3:58:17 PM

イスラム教について学ぶため、市が運営している近くの図書館に足を運んだ。特にこれといった理由もなかったが、何となく調べたくなったんだ。
イスラム教についての僕の知識は、イスラム教とは唯一神アッラーに帰依する教えであり、預言者ムハンマドに啓示された言葉を編纂した啓典コーランに基づいているということくらいだ。
館内に入り、館内地図から宗教のコーナーを探した。それはちょうど、右奥の政治コーナーの横にあり、自分の背より遥か高い本棚の中でそれを探した。
世界三大宗教と言われるだけあって、探すのに時間はかからなかった。イスラム関連の本だけでも1つの棚が埋め尽くされるほど置いてあり、「イスラム教 完全攻略」と題名がついた受験対策の参考書と思われる本から、「イスラム教ってここが変」と丸いフォントで書かれた、奇を衒う本も置いてあった。
僕は一番下の列の一番端にあった「スンニ派 シーア派の変遷」と書いてあった本を手に取り、近くの椅子に座わって読んでみた。
その本によると、スンニ派とシーア派の軋轢はムハンマドの死没にまで遡り、発端はムハンマド死後の第4代のカリフ(最高指導者)であるアリーの死後に、カリフを誰にするかで意見が2つに別れたことからだった。
シーア派はシーア・アリーとも呼ばれ、血統に重きを置き、預言者であるムハンマドの従兄弟であったアリーとその子孫だけがムハンマドの後継者であると考えた。
一方で、スンニ派のスンニとはムハンマドの言行を意味し、ムハンマドが神の啓示をどのように解釈し、実践したかを正しく理解する人々がカリフを継いでいくべきだと考えた。
多くの宗教がそうであるように、異なる宗派というのは争う運命にあり、それが今日にも続いているということであった。元は純粋な言説での対立であったが、昨今では経済的な利権争いにも発展しているらしい。
対立の歴史を一から読もうとしたが、その厚さから今日1日では読み切れないと判断し、本を閉じた。きっとそこには、想像出来ないほど長い歴史があるのだろう。

1/24/2025, 2:27:40 PM

「俺こう見えて彼女いたことないんだぜ」
「えー以外。スゴくかっこいいのに」
「だろ?顔はかっこいいし、内面だってそこらの男とくらべたらだいぶ良い方だぜ。男連中と話す度に思うよ、俺ならもっと優しくしてやれるのにってな」
「あなたみたいな人に彼女がいないのは女性にとっての大きな損失だわ。だって、素敵なパートナーを持つ女性が1人減ってしまっているということだもの」
「そうか?だが、俺だって彼女を意図的に作ってない訳じゃないんだぜ。マッチングアプリだとか、結婚相談所とかそういうのはあらかた試してみたさ。ただ、どうもしょうに合わなかったんだ」
「それはどうして?」
「だって俺だぜ?俺みたいなのは、普通女性から寄ってくるものだろ。どうして、俺から相手を探さないといけないのかって徐々に耐えられなくなるんだ」
「確かにそれもそうね」
「だろ?だから、俺に彼女がいない理由はどちらかというと女側の責任だぜ」
「そうかもしれないわ。1度女性をあらかた集めて反省会を開かないとね」
「そうするといい」
男は満足気に笑った。

1/23/2025, 3:56:35 PM

瞳を閉じてみると、目前の世界は唐突に遮断された。
営業終了と同時に勢いよく下げられる魚屋のシャッターのように、有無を言わせないものだった。
瞳が閉じてるという状態は、視界が真っ黒になるというよりは、視野というものが根こそぎ抜き取られているというのが正しい表現だ。
僕はそれを再度確かめるために、瞳を閉じながら、瞳の先にあるものをどうにか感じようとしてみた。しかし、やはりそこには色はなく、もっと言えば、無すらなかった。それは視野というものとは前提から成り立ちが違う状態なのである。
瞳が閉じられた状態への一通りの考察を終えたら、僕はその状態でじっとしてみた。そうすると、実に色々なことが頭の中に浮かんでは消えを繰り返した。通学で隣の席に座っていた外国人の男性、驚くほど綺麗に円を書いた数学の先生、帰宅途中に見かけたハクビシン。まるで、海底のゴミが各々の浮力で上昇し、海面から顔を少し出すと、満足して再び潜っていくような感じだった。
そんな空の時間を数分楽しむと、再び瞳を開いてみた。
そこには予測通りの世界が広がっていた。遮断され、無いものとみなされていた世界だ。もしかしたら、僕が瞳を閉じている間は隠れていて、瞳を開けたのと同時に存在し始めたのかもしれない。
今視野に捉えている世界が今という時間の流れを受け入れてると思うと、少し親近感があったし、信頼も持てた。しかし、この今さえもいつかの過去になると思うと、漠然とした果てしなさを感じた。

1/22/2025, 3:46:54 PM

「今まで生きてきて、女性にプレゼントをあげたことがないんだ。だから、何を選べばいいか分からなかったんだ」
「あのね。こういのって気持ちなのよ。私はあなたが悩んで選んでくれたものなら何だって嬉しいの」
「ダイヤモンドヤスリでも?」と僕は聞いてみた。
「どう悩めば、ダイヤモンドヤスリという結論にたどりつくのかしら」と彼女はため息をついて言った。
「もしかして、あなたは私へのプレゼントにダイヤモンドヤスリを選んだの?」と彼女は怪訝な顔で聞いてきた。
「いいや、違う」と僕は慌てて否定した。
肩に提げたトートバッグから、急いで包装された袋を取り出した。手のひらより少し大きく、赤いリボンで入口が包装された袋だ。
「これだよ」と僕はそれを彼女へと差し出した。
彼女は驚いた顔で、それを受け取った。
「開けていい?」
「いいよ」
彼女は器用に入口のリボンを取り、袋の中身を取り出した。
「布巾?」と片手でつまみながら、不思議そうに顔を歪めた。
「悩んだ結果、1番布巾が良いと思ったんだ。この前、布巾が足りないって言ってただろ?もちろん、香水とかそういう定番も考えてみたさ。でも、それらを考えてたら、必ずしも君が定番を支持しているとは限らないと思ったんだ。だから、風情には欠けるけど、堅実に実用的な布巾にしたんだ」僕は恥ずかしそうにそう言った。
彼女は僕の目をじっと見つめながら話を聞き、聞き終わると、僕の頭の上の何も無い空間を10秒ほど見つめて、そしてまた僕に目線を合わせた。
「確かに布巾は必要だったわ。布巾って凄くいいの、世界大戦での鋼鉄みたいに、家事では色々な使い方があるの」彼女は優しくそう言った。
「喜んでもらえて良かったよ」と僕は言った。
「とても嬉しいわ」と彼女は言った。

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