浜辺 渚

Open App

瞳を閉じてみると、目前の世界は唐突に遮断された。
営業終了と同時に勢いよく下げられる魚屋のシャッターのように、有無を言わせないものだった。
瞳が閉じてるという状態は、視界が真っ黒になるというよりは、視野というものが根こそぎ抜き取られているというのが正しい表現だ。
僕はそれを再度確かめるために、瞳を閉じながら、瞳の先にあるものをどうにか感じようとしてみた。しかし、やはりそこには色はなく、もっと言えば、無すらなかった。それは視野というものとは前提から成り立ちが違う状態なのである。
瞳が閉じられた状態への一通りの考察を終えたら、僕はその状態でじっとしてみた。そうすると、実に色々なことが頭の中に浮かんでは消えを繰り返した。通学で隣の席に座っていた外国人の男性、驚くほど綺麗に円を書いた数学の先生、帰宅途中に見かけたハクビシン。まるで、海底のゴミが各々の浮力で上昇し、海面から顔を少し出すと、満足して再び潜っていくような感じだった。
そんな空の時間を数分楽しむと、再び瞳を開いてみた。
そこには予測通りの世界が広がっていた。遮断され、無いものとみなされていた世界だ。もしかしたら、僕が瞳を閉じている間は隠れていて、瞳を開けたのと同時に存在し始めたのかもしれない。
今視野に捉えている世界が今という時間の流れを受け入れてると思うと、少し親近感があったし、信頼も持てた。しかし、この今さえもいつかの過去になると思うと、漠然とした果てしなさを感じた。

1/23/2025, 3:56:35 PM