指先から離れる熱が酷く惜しくて。
もう少し。欲張りたくなる気持ちを抑えて「じゃあね」とあなたに笑いかけるのです。
まだあなたと話がしたい。まだ、あなたと触れ合っていたい。
そんな私の想いが通じたのか、別れ際にあなたは私に愛の証を示してくれました。
そうしてまた、あなたに惚れ直してしまって。
あなたとの別れが、一層辛くなるのです。
『別れ際に』
バス停で、とても美しい人を見かけまして。
別にバスに乗ろうとした訳ではなく、雨止みを待っていただけなのですが、とにかく、私は突如として目を奪われたのです。
声をかけようか、とは思ったのですが、どうにもそんな勇気は出なくて。
ただただ、美しいあなたを目に映すことしか出来ない、臆病な私に、もどかしさを感じました。
せめて、この雨が少しでも長く続くようにと、願うのみです。
『通り雨』
食欲の秋、読書の秋、芸術の秋。
秋は様々な形に姿を変えますが、私は断然、睡眠の秋という言葉が大好きでした。
夏のように蒸し暑い部屋で汗だくになる訳でもなく、冬のように極寒の部屋の中で震える訳でもなく、暑過ぎず寒過ぎず、過ごしやすい気候の秋は、どんなに睡眠が捗る季節か、考えたことはあるでしょうか。
『秋🍁』
自由を渇望する人生でした。
ずっとずっと、自由とは程遠い生活だったのです。
自分の足で歩ける者に、憧れていた。
その手で、芝生を撫でることが出来る者が羨ましかった。
好きな時に、好きなだけ日光を浴びれる者が、妬ましかった。
私は、そんな不自由な人間だったのです。
私に許された自由は、ただ一つ。
病室の中から、あなた達のような自由な人間が、赴くままに生きる様を、指を咥えて眺めること。
ただ、それだけでした。
『窓から見える景色』
どうしたら、形の無いものに縋ることが出来るのでしょうか。
例えば、吊り橋の足場が透明だったとして、目には見えないが確かに存在している、と言われれば、人は安心出来るのでしょうか。
落ちたとしても、お前は空を飛ぶことが出来るから大丈夫だ、とただの人間が言われたとして、信頼することが出来るのでしょうか。
私にはそれが到底理解出来ませんでした。
しかし、私が人生という物に徹底的になぶられ、弄ばれ、絶望を感じた時、不意に人間の“温かみ”に触れる機会があったのです。
その時に、ああ、こういうことか、と少しだけですが、合点がいったものです。
『形の無いもの』