あなたが居れば、それでいい。
もはや依存にも近い感情が、私の中でとぐろを巻いていました。
あなたが笑うと出来る、えくぼ一つで。
あなたが廊下を歩く、足音一つで。
あなたがペンを握る、その所作一つで。
何の変哲も無い日常の一つ一つ。
しかし、その日常の一つ一つで私の心は満たされて、そして同時に、私の愚かな情緒は嵐のように搔き乱されるのです。
あなたと言葉を交わす者。
あなたの視線の先に立つ者。
あなたと和やかに触れ合う者。
その、一つ一つ。
小さなことでした。とてもとても、些細なことなのです。
そんな一つのことで、相手を噛み殺したくなるような嫉妬心が沸き上がるのです。
そんな、そんな蛇のような私なのでした。
『些細なことでも』
一寸先は闇でした。
己の手元もまともに見えない闇の中を、手探りで進んでいくような日々でした。
真っ暗な道を歩む中、私の指針となったのは、あなたの言葉。
「いつかね」
その“いつか”はきっと訪れないであろうことは分かっていました。
しかし私は、その言葉のおかげでここまで歩んで来られたのです。
あなたの残酷で優しい言葉が、暗中を進む私の灯台となったのです。
『心の灯火』
さようならの五文字が、心を酷く揺さぶるのです。
たったの五文字。随分と前に送られてきたそのメールを、私は未だに開けていませんでした。
開けてしまえば、全部終わってしまう気がして。
いやいや、もう既に終わっているけれど。
それでも私は、一歩踏み出すことを躊躇っていました。
もしかしたら、すぐに踏み出せていれば、向き合っていれば、何か変わっていたのでしょうか。
未読の証は、臆病で怠惰な私の、現実逃避の証でもあるのです。
『開けないLINE』
完璧という言葉は、僕のことを指すのです。
完全無欠とは、僕のことなのです。
僕は完璧な人間ですから、何も失敗しません、何も間違えることはありません。何せ完璧ですから、完全で無欠なのですから。
人の意思も、行動も、言の葉も、運命さえも、僕がそうしようと思えば、全てが僕の手の平の上で、僕の思うままに踊るのです。完璧な僕のために、全てが上手く行くのです。
ですが、最近とあることに気付いたのです。
僕は完璧です。それは変わりありません。
ですがですが、僕には友達が居ないのです。
話し相手は居るけれど、それは完璧な僕のために生きる働き蟻ですから、友と呼ぶのはおかしいでしょう?完璧な僕は、当然寛大ですから、蟻を友と呼ぶことも勿論出来るのですが。
完璧な僕に友達一人居ないのは、不思議なことでした。
どれだけ蟻達に情を抱こうとしても、僕には出来ないのです。
そこで、完璧な僕はまた気付くのです。
僕は完璧でも完全無欠でもないのです。
どこかが欠けてしまっていて、それがこの孤独を生み出しているのです。
完璧な僕は、それを理解することが出来るのです。
『不完全な僕』