田中ボルケーノ

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10/1/2024, 2:11:35 PM

学校帰りいつもの公園で

いつものように一郎とキャッチボールをしていたら
いつのまにか今日も陽が沈み始めていた

やっべ、また母ちゃんに叱られる!
顔を見合わすと二人で笑って土手沿いを走って家路を急ぐ

土手を流れる河と向こう岸の間でカラスが夕焼けにたなびいていた


あれ?おい、ちょっと止まって

後から走ってきた一郎を止めると
あれみろよ、と指さしで教えた

河岸を一人眺めてポツンと体育座りしている後ろ姿、どうにも背中が寂しい

あれさ、田中じゃね?一郎と確認する

白いTシャツ、黒のジャージ、体育座りのまま、なんか河に石を投げてうな垂れているその男
遠目にもあれは我が母校の熱血教師、田中に見える

ちょっと近づいてみんべ、

こっそり近いてみる
近づけば近づくほど田中、どうやら間違いない

熱血すぎてボルケーノの異名がついた、あの田中がなぜか、河辺に夕焼けでたそがれている


なんとなく察する
一人になりたいんだろう、と
声をかければ一線を越えてしまうかもしれない、でも僕らは声をかけた

先生、何やってんの?

一瞬、田中の背中が反応した、
ゆっくり振り返り平静を装っているのがわかった

お、おう!小谷と鈴木じゃないか、お前らこそなにやってんだ、こんな時間に

帰り道だけど、
ていうか先生さ、今、たそがれてたよね?
石とか投げてたでしょ、なんでたそがれてんの?

せ、先生はたそがれてないぞ、別に
河の石の分析をしてたんだ、物理学的によく跳ねる石はどれかなあ、つって
ピョンピョン飛ぶやつを探してたんだ、ピョンピョンて

田中は明らかに動揺している

我々はその一瞬の隙を見逃さない、まず一郎が先陣を切る

ははあん、先生さては
やられたな、上から、こっぴどく
恐らく教頭あたりでしょ


な、なに?なんだと?


段々見えてきましたよ

恐らく熱血漢の部分、先生、以前語っていましたよね

令和だろうが教育は熱くありたい、と

その周辺に不具合が見えます

先生が持つポリシーと時代との不調和、不協和音

恐らく、あまりに熱い先生の教育スタイルが環境にそぐわず

現場監督である教頭あたりから指摘があり、自身の理想と教育現場の矛盾で思い悩んでいる

教頭はあまりに熱血なのを好まない、

なぜなら保護者からは普遍的な教育者を求められ、先生の様に尖った教育感をお持ちの教師は現場監督からは目の上のたんこぶ、であることに気づいた

先生は保護者なんかより子供に寄り添いたい、が、

今の時代保護者を無視すればそれは職業教師としては死を意味する、自分の信念と現場とのギャップに思い悩む

そんなところではないでしょうか?


鈴木、な、なぜそれを、


そしてバトンは一郎から僕に渡された


先生、たそがれるのをやめましょう


学校に乗り込むモンペアがいたり、教室を見れば教師をバカにする生徒がいるし、

弱い者イジメは後を絶たず不登校は当たり前、教師をやっていたら誰しも聞いたことがあるような問題があると思う

だが、たそがれてしまっては超えられないので、

僕らは今日超えるために、先生がトップになるために来たので

先生だけはたそがれを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう


こ、小谷、お前、、


河辺から見えた

大地が陽が飲み込む最後の瞬間
今年一番の炎で燃えさかり
僕らの顔を赤く照らした


             『たそがれ』

9/29/2024, 1:28:27 PM

友人の誕生日が迫り、僕らは会議を開く

普通じゃつまんねえだろ、ということになりドッキリサプライズの方向へ舵を切ることにした

こうなると、みんなノリノリで次から次へアイディアが出される

最終的に、
学部の教授からクラス内のイジメを友人が主導していたとの罪で友人へ退学の勧告がなされ友人が最終弁明を行ったタイミングで

裸にマント、頭にパンティを被った私が
正義の味方パンティマンJrとして勢いよく登場し
バースデーコールに移る、という壮大な企画に決定する

教授に協力を仰ぐと最高の笑顔で引き受けてくれた

大学の会議室はあいにく満室で
わざわざ駅前の貸し会議室を借りて友人をそこに呼び出した

パンティとマントを買い揃えいよいよ本番、である


パンティマンJrの状態でドアの前でスタンバってると聞こえてきたのは教授の迫真の演技

教授が友人に迫る、お前がやったんだろ、言いたいことがあるなら言ってみろ!と

泣きそうになりながら友人が弁明を始める

合図のLINEが届いた、いよいよ出番だ


ふぅ、と息を吐き出し、持っている最大限、全力のテンションでドアを開ける、いくぞオラァ!


話は聞いた!!!
弱い者イジメはおよしなさい!!!

パンティマンJrの登場である

一瞬の響めきのあと部屋は静寂に包まれた


勢いよく開けたその会議室には、見知らぬスーツ姿の男女
プロジェクターにグラフが並び、机の上には資料やら
私の方を向いてみんな口が開いていた


間違えたのである、部屋を


察した私は、

では、さらばだ

と言い残し静かにドアを閉めた


隣の部屋で待機する仲間たちに
部屋を間違えた、とも言い出せず

色々考えた結果、着替えてそのまま家に帰ることにした

正義のヒーローだって間違うことあるやろ、と呟きながら


        『静寂に包まれた部屋』

9/27/2024, 2:44:29 PM

くよくよすんな、大丈夫

通り雨みたいなもんでさ
雨雲はついぞ流れてお日様が照らす
雨降って地固まるって言うだろ?

その固まった大地から
芽が息吹き花を咲かせるんだよ

だから大丈夫、
この雨は花を咲かせる為の通り雨なんだから

今回も我ながら良いことを言った、
コイツが女にフラれる度に居酒屋に呼び出される
これでコイツも元気になるやろ、と思ったら


二回目、


向かいで死体の様にうっ伏せてたヤツが急に呟いたので

えっ?何?

何のことか理解出来ずに聞き返すと

テーブルに俯いていた顔をようやく上げ、
真っ赤に腫らした目を真っ直ぐこちらに向け怨めしそうに、もう一度呟く


それ、二回目、
前も言ってた


言われて思い出す
確かに前にも同じく通り雨の話をしたかもしれない、
ゆかりちゃんの時だった気がする


花、咲かないじゃん


そういうとまたテーブルに顔を伏せた


まいったな、今回は深刻だ

忘れてたのは悪かったけどさ
毎回お前が恋して雨にフラれる度に
慰めの名言を考える俺の身にもなって欲しい

いい加減、とっとと花を咲かせてくれよ

   
              『通り雨』

9/26/2024, 12:20:41 PM

すいません、通して下さい、急いでるんです

終業のベルと同時にタイムカードを押して会社を飛び出た私は
駅へ走りエスカレーターの人の網をサイドステップで避けて、搔き分け、駆け上がり、電車に飛び乗った

理論上、最短で乗れる家までの電車への乗車、成功である

乗っている間にスマホを駆使して最適のルートを探る

計算を始める
同時進行で進められるものは同時に行う

計画が決まるとイヤホンをつけ、爆音でお気に入りの音楽を流す
電車のドアが開いた瞬間から全力でダッシュ

家への最短ラインを全速力で駆け抜け、鍵を開け箪笥の中身を放り投げた

押し入れの奥にしまったお気に入りのロングTシャツを引っ張り出して着替えると
残りの衣類を箪笥にぶち込んでもう一度外へ飛び出る

最寄りのTSUTAYAまで約2㎞

猛ダッシュで息も切れ切れに辿り着くと気になっていた本を手当たり次第、全部カゴに入れて会計を済ませる

また走る

前から行ってみたかったステーキハウスへ駆け込み一番値段の高いステーキを注文
ステーキを待つ間にTSUTAYAで買った本を開封し読みながら次の曲を選曲、どの曲にしようかな、などと迷っている暇はない

運ばれたステーキはアツアツだったが、口がヤケドするかも、なんてそんなことを気にしている暇もない
お構いなしでかき込みながら、先ほど計画した一番近い山までのルートを頭の中で反芻する

口をモゴモゴしながら会計をし、描いたルートを辿りながら山を目指す


どうやら今年は秋が短いらしい

今日の昼に流れたラジオで気象予報士が自慢気に言っていた

それなら堪能しなくては


坂道を駆け上がり紅葉を探す

山を通う車の気配はもうない

影になった木々から月が零れる

正反対にあるだろう太陽の光を

全身で反射させて

真紅に色づく葉の隙間から

輝き

私に届けてくれた


今年は秋が短いらしい

堪能しなくては


                『秋』

9/25/2024, 2:16:55 PM

あれ?なんか違うな

もう一度
拘った最高級の漆黒のカーテンを閉めて
もう一度勢いよく開ける

あれ?なんだこれ


世の中、なんだかんだ言っても金

金さえあれば全て上手くいく
どんなマズイ飯でも一振りすれば美味くなる万能調味料、それが金

そして、城

かつてのどんな将軍も城に住む
貧乏神を寄せ付けず圧倒的力を誇示する我が塒、それが城

それに気づいた時、絶対に手にいれるべきものが見つかった

最終目標、最高到達点

私はついに手に入れたのだ

都内の最上位
あらゆる光がこの場所より下で粒の様に藻掻くこの場所

それを見下ろす我が塒


金を稼ぐのにコツを見つけた
法のギリギリを渡り、たまにはそれが踏み越えていたとしても致し方がない

人はどんなに仲間だと思って信頼していても最終最後は寝返るものだし、
寝返るのを見越して先手を打つのは世の趨勢というものである

危ない橋を幾度と渡り、使えるヤツは使い捨てた

そうやってようやく辿り着いたこのマンションで今夜、セレモニーを開催する

誰もが嫌がる危険を犯したし、それを乗り越える強運も備えていた

そうでもしないと手に入らない景色

日本の中枢の最高地点から、全てを見下ろすのだ

さあ、いよいよ

カーテンに手をかけ、勢いよく開ける



あれ?

なんか違うな

目に映るのは

単なる光の粒で

赤だの黄色だの

まるでお花畑

もう一度

危険を犯したし

拘った最高級の

仲間も裏切った

漆黒のカーテンを

たった一人で

閉めて

辿り着いたこの景色を

もう一度勢いよく開ける

あれ?なんだこれ


窓が歪む

ビルが崩れる


         『窓から見える景色』

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