すいません、通して下さい、急いでるんです
終業のベルと同時にタイムカードを押して会社を飛び出た私は
駅へ走りエスカレーターの人の網をサイドステップで避けて、搔き分け、駆け上がり、電車に飛び乗った
理論上、最短で乗れる家までの電車への乗車、成功である
乗っている間にスマホを駆使して最適のルートを探る
計算を始める
同時進行で進められるものは同時に行う
計画が決まるとイヤホンをつけ、爆音でお気に入りの音楽を流す
電車のドアが開いた瞬間から全力でダッシュ
家への最短ラインを全速力で駆け抜け、鍵を開け箪笥の中身を放り投げた
押し入れの奥にしまったお気に入りのロングTシャツを引っ張り出して着替えると
残りの衣類を箪笥にぶち込んでもう一度外へ飛び出る
最寄りのTSUTAYAまで約2㎞
猛ダッシュで息も切れ切れに辿り着くと気になっていた本を手当たり次第、全部カゴに入れて会計を済ませる
また走る
前から行ってみたかったステーキハウスへ駆け込み一番値段の高いステーキを注文
ステーキを待つ間にTSUTAYAで買った本を開封し読みながら次の曲を選曲、どの曲にしようかな、などと迷っている暇はない
運ばれたステーキはアツアツだったが、口がヤケドするかも、なんてそんなことを気にしている暇もない
お構いなしでかき込みながら、先ほど計画した一番近い山までのルートを頭の中で反芻する
口をモゴモゴしながら会計をし、描いたルートを辿りながら山を目指す
どうやら今年は秋が短いらしい
今日の昼に流れたラジオで気象予報士が自慢気に言っていた
それなら堪能しなくては
坂道を駆け上がり紅葉を探す
山を通う車の気配はもうない
影になった木々から月が零れる
正反対にあるだろう太陽の光を
全身で反射させて
真紅に色づく葉の隙間から
輝き
私に届けてくれた
今年は秋が短いらしい
堪能しなくては
『秋』
9/26/2024, 12:20:41 PM