君の隣にいる夢をみていたい。
君の綺麗な髪が風になびいて、心地よい香りが感じられる。そんな情景を思い浮かべては現実を理解する。君の隣になんていられない。
もし、君の隣にいる夢を見れたなら、どれだけよかっただろう。想えば想うほど夢に現れてくれなくなるのはなぜだろう。
もしかしたら、今のこの世界が夢なんじゃないだろうか。君に会えないこの世界は、夢見の悪い日の作り物にすぎないのではないか。そうだったらいいな。そうしたら、この夢が醒めれば君の隣に。
だけど、何もかもが思い通りはいかないこの世界を現実と呼ぶのだ。だから、君の隣にいる夢を見ていたい。
遠い君へ
「そういえば、今日は私の誕生日でしたね。」
君が大人への階段をまた一段登った日。贈った髪飾りをそっと撫でながら、嬉しいと言ってくれたっけ。
これまで君に贈ったプレゼントの数は、君が一歩ずつ大人になっている証。時の流れとともに、次第に大きくなっていく。
少し前まで、あんなに小さかったのに。時の流れは面白い。君の成長をもっとみたいと思う反面、ずっとこのままでいてほしいとも思う。いつか、この手からひとり立ちする時が来ると思うと、嬉しいようで少し寂しい。
今この瞬間の君を焼き付けておこう。君は成長していくけれど、今の君を思い出せるように。
「手がちべたい...」
部屋に入るなり、真っ赤になった手をこすりながら君は言った。その手に触れてみると、まるで温度を失った氷のようだった。
手も耳も頬も、外界と触れる部分の全てが赤い君をみていると、凍てつく寒さの中で凍える君が目に浮かぶ。何もしてあげられなかったことがとてつもなくやるせない。
せめて、君の手から伝わってくる冷たさと引き換えに、君の手へ温かさを伝えたい。熱力学第0法則があるのなら、触れ合うものの温度は均一にならなければいけない。君だけが冷たくていいわけがない。
寒さが身に染みるときには、温もりもまた身に染みる。冷えきった君に少しでも温もりをとどけられたら嬉しい。
遠い君へ
「もうお姉さんですから。」
16歳の頃、君はそう言った。もう大人なのだから、子供扱いしないでほしいと。
あと数年。君が本当の意味で大人になるまでの時間。きっとあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。
ずっと見守ってきたはずなのに、気づけば君は立派な大人になっていた。少しの寂しさはあるけれど、君が無事に成長してくれたことが何より嬉しい。
残りの数年、たまに子供扱いすることを許してほしい。
遠い君へ
「今日は月が綺麗ですね。」
紺色の空に浮かぶ三日月を見上げながら、君はそう言った。
細くて今にも消えてしまいそうなのに、見えない月の縁に確かにしがみついている明るい弧。その儚くも力強い姿に胸を打たれる。そう伝えた。
「見えないから綺麗なんです。」
君はそう答えた。
三日月の夜、月はその縁の一部分しか姿を見せてくれない。未知の領域が多いからこそ、無限の可能性を秘めている。だから、三日月は想像力を掻き立てる。
君の言葉の意味を自分なりに解釈してみたけれど、君のことは何もわからなかった。だから、もっと君のことを知りたいと思った。
今日は、三日月が綺麗だった。
遠い君へ