やさか

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2/5/2024, 2:28:34 PM

 溢れたら、溢れたぶんだけ失くしてしまうと思った。
 わたしの外側に零れ落ちて、消えてしまうと思った。
 どれだけ大事にしていても、そうなると信じていた。
 ひと雫だって忘れたくなかった。
 これはわたしのものだ。わたしだけのものだ。
 そうして抱えて生きてきた。
 ぴんと張り詰めた水面、美しく濁ったわたしの心。
 そして、今。
 そこに触れようとするあなたの指を、予感している。
 初めて何かが壊れるだろうときを、待っている。
 どうしてか。どうしてか。


 #溢れる気持ち

2/2/2024, 4:51:16 PM

 あのひとのまなざしは、お祈りを捧げるようだった。
 青い綺麗な花びらに、じっと何かを託すようだった。
 わたしは何も聞かなかった。
 乾いた白い頬と、軽く伏せられた睫毛を見ていた。
 凛と引き結んだくちびるが震えていた。
 言葉はなかった。
 世界で一番美しくて悲しい、一枚の絵のようだった。


 #勿忘草

5/19/2023, 12:13:49 PM

 わたしだけが知らなかった。
 お別れがどれほど辛く悲しいものか、切ないものか。
 わたしだけが知らなかった。
 あなたの命に、ここまで、と線が引かれていたこと。
 わたしだけが知らなかった。
 あなたがその線を、ずっと見つめて生きていたこと。
 わたしだけが知らなかった。
 わたしだけが知らなかった。
 わたしだけが知らなかった。
 あなたがどれだけ、わたしを愛してくれていたのか。


 #突然の別れ

5/18/2023, 11:16:06 AM

 彼は、愛しているとは言わなかった。
 真正面から好きだなんて言ったことも、ない。
 それでも、わたしは知っていた。
 憎まれ口を叩いても、どこか柔らかに緩む瞳の奥。
 髪を掻き回すとき、けっして雑にはしない指先。
 どこか赦しを乞うようにして頬に触れるくちびる。
 わたしが眠りに落ちる直前に掛けられる静かな声。
 愛しい人。
 わたしは同じようにできていましたか?
 あなたを上手に愛せていましたか?


 #恋物語

5/17/2023, 12:34:29 PM

 それは、午前一時に花ひらく。
 月もなく風もない、雲ひとつない星空を仰いで。
 誰の目も届かぬ摩天楼の上、彼女の手のひらに。
 淡い淡い青を、十重二十重に装う花芯の淡黄。
 一夜限りに甘く香る。
 花以外の何も持たず、ただ溢れるような絢爛。
 誰のため? なんのため?
 それは、真夜中に天の河をお渡りになる神様のため。
 千年を生きる彼女の罪を赦していただくため。


 #真夜中

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