やさか

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4/29/2023, 2:00:19 PM

 ひんやりと湿った風だった。
 水の匂いのする曇天に、遠雷が聞こえる。
 飛び立つなら、こんな日がいい。
 翼も箒もない。それでも飛べると信じるには、逆巻くような嵐の予感が要る。
 雨粒を蹴り、稲妻を足がかりに、逆風に乗る。
 だから、今日。
 わたしは空をぐっと睨みながら、待っている。
 わたしの乗るべき風を。嵐を。その訪れを。


 #風に乗って

4/28/2023, 11:05:37 AM

 夢の中にだけある、音のない声がある。
 その色と響きを、どうしても覚えておけない声が。
 どこにもない、誰でもない。
 なのに、それはどこか、過去を思い出させる。
 あの日、届かなかった一瞬を。
 わたしの前を刹那に駆け抜けていった、恋の面影を。
 どうしてか。どうしてか。


 #刹那

4/19/2023, 11:57:25 AM

 あなたのお葬式の様子が見たい。
 たくさんの人に囲まれた式でもいい。家族だけを集めた、ささやかなものでもいい。
 ただ、もしも。
 もしもその時、あなたの死を悲しむ人が、誰もいなかったら。
 そうしたら、わたしは意地でもその時まで生きて、あなたの棺の前でわんわん泣こう。たとえ百歳の婆さんになっていてもそうしよう。
 今、そしてこの先に、わたしがあなたの隣にいなくても、ずっと、ずっと、あなたのために泣けるわたしでいると約束しよう。これは、未来が見えなくても。


 #もしも未来を見れるなら

4/18/2023, 2:23:12 PM

 世界から色が失われた後、音はかつてなく鮮やかになった。
 C♯の音につややかな青を、Eの音に華やかな赤を。
 kの子音に涼やかな白を、uの母音に深い緑を。
 そうして、そんな幻を「見せる」ために、人は歌を、演奏を、音楽を磨き上げた。
 いまやその目で色を知らない子供たちは、その感覚だけを頼りに色を語る。
 世界は変わらず美しかった。美しさの質は変われど。
 いつか、今度は音がなくなったとき、次は何が、もっと美しくなるだろう。損なわれていく世界で、美しさはいつまで在り続けるだろう。


 #無色の世界

4/17/2023, 12:39:14 PM

 花筏が流れていく。
 三枚、四枚、寄り集まった薄紅色。
 あんな小さく儚い舟に、わたしは乗れない。
 だからただ、そうっと祈る。
 わたしのこの気持ちを連れていって。
 散った想いと、未練の種を乗せていって。
 それとも、涙のひと粒くらいなら、一緒に旅立てる?


 #桜散る

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