やさか

Open App
4/16/2023, 10:44:55 AM

 そんなものはどこにもない。
 いつだって、わたしのいる、ここ。ここだけ。
 確かなものは、自分の手の届くところにしかない。
 そうでない場所があるとしたら、それは。
 それは、もはやわたしのもとを去った、きっともう会うこともない、あのひとのいるところ。
 二度と手が届かないからこそ、その幻は確かになる。
 誰も、何も、それを嘘だと証明できない。
 だから、ここではない、どこかで。
 あなたのもとで。
 わたしの抱いた愛の幻は、生き残る。きっと。
 


 #ここではない、どこかで

4/15/2023, 1:20:22 PM

 それで、ボトルレターにしちゃったの?
 教えてほしいって言われたのに?
 まあ、恥ずかしかったのはわかるけどね、そりゃあ、そうでしょうけれどもね。
 でも、それにしたって、どうしてよりによって、海に投げちゃったのかなあ!
 これ、太平洋だよ? 多分もう見つからないよ?
 ほんとにもう、仕方のない子!
 あのねえ、ご存知ないようだから教えて差し上げますけれどね。
 気持ちを聞かれて、そんな顔で「あなたには恥ずかしくて教えられません」なんて言うのは、それがもう答えなの。ごまかせてないの。むしろ言葉にするより恥ずかしい解答のしかた、な、の!
 だから、言えない想いを海に流す、みたいなロマンスをやりたがるより先に、さっさと行って、ごめんって謝ってきなさい!
 届かないって泣くのは、あんたじゃなくてあの子なんだからね!


 #届かぬ想い

4/14/2023, 11:28:51 AM

 お祈りをする、というのは、たぶん普通のことだ。
 けれどもわたくしは、神様にお仕えをする。
 もう既に、叶えていただいたことがあるからだ。
 あの一瞬。すべてが光り輝いていた。
 わたくしの人性の、きっと一番喜ばしい瞬間だった。
 だから、毎朝一輪の白い花を、神様へ。
 あの日あの時、あの瞬間があってよかった。
 お仕えするに値する神様がいて、よかった。


 #神様へ

4/13/2023, 5:50:14 PM

 冬のよく晴れた青が好きだった。
 夏ではだめだ。春も、秋も、違う。
 肌を切り裂くように冷たい風の中、けっして届かない、高い薄い青がよかった。
 遠いというのがどういうことか、わたしはあの青に知ったのだ。
 君が最後に、わたしに笑ったあの快晴に。


 #快晴

4/12/2023, 4:31:18 PM

 星が落ちた、と君が言う。
 遠い遠い場所で、白い星が落ちたのだと。
 それは、わたしには見えない。
 白という色のこと、夜空という暗さのこと、星という光のこと。
 わたしの知らないものたちを、君が言葉にする。
 白。昼間の白はあたたかく、星の白は、少し冷たい。
 夜空。風のようにすうっとして、どこか寂しい。
 星。乾いた砂の粒に似て小さく、針先のように鋭い。
 君は、いつかわたしを連れて行ってくれると言う。
 わたしのこの眼では感じられないものを、手に取れる場所へ。
 いつか。いつかの未来に。


 #遠くの空へ

Next