通勤途中の道のあちこちに落ちている落ち葉。
ようやく木の葉の色が変わったと思ったのに、もう地面に落ちている。
……早すぎじゃない?
まるで秋をさっさと終わらせようとしているみたいだ。
ぴゅ〜っと、冷たい風が吹く。
秋の終わりを感じながら自転車のペダルを漕いで、会社へ向かった。
君の心に掛かった南京錠。
いつの間にか俺達は距離が出来て、君は心に鍵を掛けた。
強引に鍵を開けようとしても、君は俺から離れていく。
「君はどこに鍵を隠したんだ?」
質問したら君は立ち止まってくれたが、俺の顔を見るだけで答えてくれない。
君の心の鍵を見つけて開けないと、このままでは終わってしまう。
そんなの……嫌だ。
だから俺は、何度も君に声を掛け続けた。
「頼む……鍵を俺にくれ……」
プライドを捨て頭を下げ、頼み込む。
君はそんな俺を見て、仕方ないわねって呆れた顔をしながら「私は持ってない。鍵はあなたが持ってる」と言われた。
俺が持ってる……?
ズボンのポケットに入っていない。
胸ポケットに……あった。
ハートの形をした鍵が。
俺は君の心に掛かった南京錠に鍵を入れて、開けた。
「あなたがそこまで私のこと想ってるなんて思わなかった……ごめんね」
「俺こそ……ごめんな」
鍵を開けた先にあった君の心の中は、すごく温かかった。
住宅街に鳴り響く救急車のサイレンの音。
十字路の真ん中に、血の水溜まりが出来ていた。
水溜まりには、動かなくなった彼女が横たわっている。
「あなたのことなんてもう知らない!」
最後に聞いた彼女の言葉が脳内で再生される。
確か、些細なことで喧嘩になったと思う。
俺が余計なことを言ったせいで、彼女は怒って……。
繋いでいた手を振り払い、走っていって、車に轢かれ……。
手放した時間は、数秒。
たった数秒で彼女は……。
俺が余計なことを言わなければ。
手をしっかり掴んでいれば。
彼女は事故に遭わずに済んだだろう。
救急車が到着し、彼女は担架に乗せられ、運ばれていく。
「すいません。事故に遭った女性の関係者ですか?」
救急隊が俺に話しかけていた。
「俺は……」
「あなたのことなんてもう知らない!」
再び、彼女の言葉が脳内で再生される。
「俺は……関係者じゃないです」
「そうですか。分かりました」
救急隊は救急車に乗り、彼女を乗せた救急車は走っていってしまった。
なぜ関係者じゃないと答えてしまったのだろう。
自分でも、分からない。
俺は遠ざかっていく救急車を、ぼーっと見ていることしか出来なかった。
水風船が割れたように噴き出す紅い血。
人の血って、こんなにも美しいものだったのだと、記憶として脳に焼き付いている。
しかも身内の血だから、なおさら。
服に付いた返り血が、キャンバスに絵の具をぶちまけたみたいで、まるでアートだ。
どうやら僕には芸術の才能があるらしい。
「――てるのか?――聞いてるのか?おい!」
遠くで誰かが怒鳴っている。
うるさいな……あの時の感動を噛み締めているのに。
今、狭い部屋で椅子に座らされ、問い詰められている。
「もう一度聞く、なぜ両親を殺したんだ?」
恐い顔をしながら聞いてくる刑事。
「芸術家として、すごい作品を描きたかったんだ」
何度も同じ質問をしてくるのがうざいから答えてやった。
「つまり、憎くて殺したんだな?」
「あの紅い血、すごかったなぁ」
「はぁ……会話が噛み合わん。疲れてきた。また明日聞くから、ちゃんと質問に答えろよ」
刑事は疲れた様子で部屋から出ていった。
僕は警察官達に狭い部屋から、ベッドとトイレだけが置かれている部屋へ連れて行かれる。
ふう……ようやく静かになって、一人になれた。
もう一度、両親から噴き出す紅い血を思い出す。
ずっと僕に虐待ばかりしてきた両親。
最後は芸術作品になれたのだから、僕に感謝してほしい。
まぁ、もうこの世にはいないけど。
あの紅い血、美しかったな……。
両親がいなくなって、気持ちが清々したはずなのに、なぜか涙が止まらなかった。
床に散らばっている夢の断片。
元々は一つの夢だった。
だけど、夢が遠のいていくたびに欠けていってしまったのだ。
拾ってくっつけようとするが、鋭利過ぎて、触れるだけで指を切ってしまう。
もう元通りにすることは出来ないのだろうか?
いや、今からでもまだ……!
諦めずに、どんなに辛くても、夢に向かって走り続けた。
その結果、散らばっていた夢の断片が集まり、元通りの一つの夢に。
絶望しかけたけど、諦めなければ、夢は必ず叶うことを知った。