住宅街に鳴り響く救急車のサイレンの音。
十字路の真ん中に、血の水溜まりが出来ていた。
水溜まりには、動かなくなった彼女が横たわっている。
「あなたのことなんてもう知らない!」
最後に聞いた彼女の言葉が脳内で再生される。
確か、些細なことで喧嘩になったと思う。
俺が余計なことを言ったせいで、彼女は怒って……。
繋いでいた手を振り払い、走っていって、車に轢かれ……。
手放した時間は、数秒。
たった数秒で彼女は……。
俺が余計なことを言わなければ。
手をしっかり掴んでいれば。
彼女は事故に遭わずに済んだだろう。
救急車が到着し、彼女は担架に乗せられ、運ばれていく。
「すいません。事故に遭った女性の関係者ですか?」
救急隊が俺に話しかけていた。
「俺は……」
「あなたのことなんてもう知らない!」
再び、彼女の言葉が脳内で再生される。
「俺は……関係者じゃないです」
「そうですか。分かりました」
救急隊は救急車に乗り、彼女を乗せた救急車は走っていってしまった。
なぜ関係者じゃないと答えてしまったのだろう。
自分でも、分からない。
俺は遠ざかっていく救急車を、ぼーっと見ていることしか出来なかった。
11/23/2025, 11:37:52 PM