たーくん。

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7/8/2025, 11:20:48 PM

星空の下で賑わっているお祭り会場。
夜店が沢山出ていて、大勢の人が歩いている。
あの日の景色を見たのは、これで何度目だろうか。
あとは、あいつをここに呼び出すだけだ。
ノートパソコンを開き、あいつのデータをここへ転送する。
10%……30%……50%……70%……90%……96%……。
96%で、止まってしまった。
エラーが発生し、パソコンの画面が消える。
お祭り会場も、夜店も、人も、次々と消えていく。
最終的に、僕一人だけになってしまった。
やはり、あの日を再現するのは不可能か。
恋人だったあいつは、あの日、僕と一緒に地元のお祭りに来ていた。
当時の僕はお祭りには興味なく、素っ気なかったと思う。
それでもあいつは、楽しそうにニコニコ笑っていた。
僕達はお祭り会場で現地解散し、あいつは帰り道の途中で事故に遭って……死んだ。
もし、僕があいつを家まで送っていたら、事故に遭わずに済んだのだろうか?
……それ以前に、素っ気ない態度でお祭りを回ったことが僕との最後の思い出だなんて、最悪過ぎる。
だから僕は、あの日を再現してやり直そうと思った。そして、謝ろうと思った。
「ふう……」
大きく溜め息をつく。
またデータが壊れてしまったから、1からやり直しだ。
VRゴーグルを外し、現実へ戻る。
僕のやっていることは、ただの自己満足なのか、罪滅ぼしなのか、まだ分からない。
あいつと再びお祭り会場へ行くために、ノートパソコンを開き、作業を始めた。

7/7/2025, 10:20:49 PM

笹に吊るされた色とりどりの短冊。
風に揺られて、ひらひらしている。
今日は、近くの神社で七夕祭りをしていたので来てみた。
家族連れや若者達でいっぱいだ。
まぁ、俺もまだ若者だけども。
皆は短冊に願い事を書いて吊るしているけど、星達は織姫と彦星の再会を祝うのに精一杯で、願い事を叶える暇はないと思う。
と言いつつ、俺も短冊に願い事を書いていた。
“いいことがありますように“
我ながらシンプルな願い事だ。
まっ、これぐらいがちょうどいいと思う。
今年中に叶ってくれたら、それでいいさ。
人が増えてきたので、神社から出て帰路に着く。
「あっ」
空を見上げると、流れ星が夜空を駆けていた。

7/6/2025, 11:16:24 PM

ピンク色に染まった空。
どうやら、空は誰かに恋をしたらしい。
他の皆は気づいていないのか、異常気象だと騒いでいる。
皆から注目を浴びた空は照れてしまい、雲に隠れてしまった。
数日後、空は変わらずピンク色。
気象庁の発表によると、空がピンク色なのは、太陽からの熱い眼差しが原因だという。
なるほど、空って見つめられるのが弱いんだ。
だけど、空と太陽は距離が離れすぎているどころか、接することすら出来ない。
決して恋が実ることはないだろう。
でも、私は応援していきたい。
今日も、空を見上げる。
空と太陽の恋の行方を、毎日見守ることにした。

7/5/2025, 11:12:41 PM

ギラギラの太陽を浴びて、まるで砂漠のような砂浜。
波はそんなことお構いなく、砂浜を来たり引いたりを繰り返している。
海へ来れば涼しい気分になると思ったけど、どうしても暑いが勝ってしまう。
目を瞑り、波音に耳を澄ます。
心地良くて、心が落ち着く。
だいぶ癒されて──。
ブン!ブン!ブウウウン!ブウウウン!
……なんだこのやかましい音は。
目を開けると、水上バイクが水しぶきを上げながら海の上を走っていた。
すごいスピードで、ぴょんぴょん跳ねている。
まるで草原を駆け回るうさぎだ。
折角の波音が台無しになり、水上バイクのエンジン音しか聞こえない。
壮大にひっくり返って恥をかけばいいのに。
願いが届いたのか、水上バイクは転倒し、乗っていた人は必死にバイクを掴んで再び乗ろうとしている。
調子に乗って走ってるからそうなるんだ。ざまぁみろ。
気分がスカッとしたので、回れ右をし、帰路に着いた。

7/4/2025, 10:45:19 PM

学校へ続く見晴らしのいい一本道の通学路。
歩いていると、青い風が横切った。
「里美!忘れ物!」
私の目の前に現れたのは、青いエプロンを着たママ。
ママが私に差し出したのは、ランチトート。
どうやら、家を出る時に忘れてきてしまったらしい。
「ありがとうママ」
ママからランチトートを受け取る。
ママは元陸上選手で、オリンピックに出たことがあるらしい。
青いユニフォームを着ていて、すごく足が速かったから青い風と呼ばれていたそうだ。
ママは走るのが速いのに、娘の私は逆に遅い。
どうして私はママの遺伝子を継がなかったのだろう?
神様は意地悪だ。
「それじゃ里美、気をつけてね」
ママは家へ戻らず、そのまま真っ直ぐ進んでいく。
「ママ!どこ行くのー!」
「このままランニングしてくるー!久しぶりに走ったら燃えてきちゃった!」
前を向いて走りながら、私に手を振るママ。
あっという間に姿が見えなくなる。
青い風は、まだまだ現役だった。

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