風が気持ちよくて、お散歩日和の快晴な空。
今日は、なんとなく君の背中を追いたくなって追いかけた。
普段どこへ行ってるのか気になってたし、ただの好奇心だ。
君は、私をどこへ連れていってくれるかな?
私が追いかけてることに気づいたのか、君は歩きながらチラチラと後ろを確認する。
それでも君は走ろうとはせず、同じペースでひたすら歩く。
私は見失わないようについていくのに必死だ。
急に曲がったと思ったら、またすぐに曲がって、狭い路地を通っていく。
こ、こんな道があったなんて知らなかったよ。
私は身体を横にしながら狭い路地を通る。
太陽の光が建物に遮られて暗いから、ちょっと怖い。
だけど君は、ぐんぐん進んでいく。
君って結構勇敢なんだね、と心の中で呟いた。
前へ進むごとに少しずつ明るくなってきて、建物に遮られていた太陽が顔を出す。
路地を抜けた先は……スタート時点だった。
「ニャー」
先に路地を抜けて待っていた君は、私に向かって鳴いた。
多分、「楽しかった?」と聞いているのだろう。
「うん、知らない道を知れて、君と一緒に歩けて楽しかったよ」
私は思ったことを伝えると、君は「ニャー」と嬉しそうに鳴いた。
今日も、バタバタと足音を立てながら人が交差する忙しい職場。
私はその様子を、デスクワークしながら見ていた。
好き、嫌い、好き、嫌い。
職場の人を好きと嫌いでランク付けしていく。
私に優しくしてくれて、愛想がいい人には好き。
人の悪口を言ったり、嫌味を言ってくる人には嫌い。
ランク付けした結果、嫌いな人のほうが多いことが分かった。
こんな環境の中で、職場の人と仲良くしながら仕事するのは大変だ。
「田中さん、ちょっといいかい?」
「はい、いいですよ」
嫌いな上司から呼び出しをくらう。
私は作り笑顔をしながら、上司の元へ向かった。
学校の帰り道に、突然空に現れた灰色の雲。
大粒の雨粒が落ちてきて、ザー!っと一瞬で本降りになった。
私は急いで持っていた傘をさす。
最近いつ雨が降るか分からないから、毎日持ち歩いているのだ。
濡れたアスファルトから、雨の香りがする。
この香りを嗅ぐと、あの日を思い出してしまう。
お母さんが……死んだ日のことを。
十年前、お母さんは歩いて私を迎えに幼稚園へ向かう途中、車に轢かれた。
お母さんは即死で、車を運転していた人は居眠り運転をしていたらしい。
幼稚園児だった私は、お母さんが死んだことを理解するのに時間が掛かった。
だって、病院のベッドで寝ていたお母さんの顔は綺麗で、すぐに目を覚ますと思ったから。
お母さんはもう目を覚まさないと言われた私は病院を飛び出して、雨に打たれながら泣いた。
それからしばらく幼稚園に行けず、家でずっと泣いてたっけ……。
思い出している間に、私は泣いていたのか、頬に涙が通った跡がある。
雨、早く止んでほしいな……。
雨は私のことなんかお構い無く、ずっと降り続けた。
悪臭漂う薄暗くて窓のない密室。
床には、かつて恋人だった男達の干からびた遺体が転がっている。
今日も、新しい男の遺体を引きずってきた。
男って、なんで浮気するのだろう?
好き、愛してると言っておきながら、私以外の女に手を出しているなんて信じられない。
男の小指に巻かれている赤い糸を、ハサミでチョキンと切る。
これは恋人の証として結んだ糸で、私にしか見えない。
結んだ時は真っ白だったが、浮気をするたびに血を吸い取ったから、赤く染まったのだ。
男を掴み、密室へ放り込む。
はあ……次こそは、まともな男と付き合いたいな。
密室のドアを閉め、合コン会場へ向かった。
段ボールだらけの会社の倉庫。
棚の上にある段ボールを取ってほしいと、部下の女性達に頼まれ、俺は段ボールに向かって両手を伸ばしていた。
届かないのに、俺は何をしているんだろう?
いや、ここで段ボールを取ってあげて、俺の評価を上げたい。
なぜなら、部下達が俺の影口を言っていたのを何度か聞いたからだ。
「課長いつも偉そうだよね」
「態度だけじゃなく横幅も大きいくせにね」
「私と話す時なんか鼻息荒いよ?」
「え~きも~い。距離とって話そ~っと」
思い出すだけでも、心が痛くなる。
だから俺は、なんとしても段ボールを取って部下達にいい所を見せる!
「課長!頑張って!」
「もう少しです!課長!」
「ファイト~かちょ~」
部下達の声援が力になり、段ボールを両手で掴んだ。
「よし!取れた……うっ!」
段ボールが取れたと同時に、腰に痛みが走る。
部下達にバレぬよう、何食わぬ顔で段ボールを渡す。
「課長ありがとうございます!」
「やるじゃ~ん、かちょ~。ちょっと見直したよ」
「課長、すごい汗ですけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈夫だ。悪いが先に戻っててくれないか?俺はもう少しここで探し物があるから」
「分かりました。では、お先に」
部下達は倉庫から出ていき、俺一人だけになる。
「評価を上げるのは……大変だな……」
俺は歯を食いしばりながら、痛めた腰をさすった。