たーくん。

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5/30/2025, 11:24:00 PM

ペンと紙で散らかった机の上。
その中に紛れて、笑っている彼女の写真。
もうあれから五年経つのか。
彼女が交通事故で亡くなった日から……。
これからもっと彼女の物語が続くはずだったのに。
俺との……物語も。
それなのに、前触れもなく物語が終わってしまった。
こんなの、あまりにも悲しすぎる。
これで物語を終わらせたくない。
だから、漫画家である俺は描く。
彼女の物語の続きを。
君の物語は、俺が描く限り、まだまだ続くんだ。
俺はペンを持ち、彼女と過ごした日々を思い出しながら、ペンを走らせた。

5/29/2025, 11:23:50 PM

今日は特売日でいつもより人が多いスーパー。
娘の由香がトイレに行っている間、入口前で待っていると、客達は入口に入る前に上を向いて何かを見ている。
上を向くと、入口の真上にツバメの巣があった。
巣の中では、ヒナ達が大きな口を開け、親鳥からエサを貰っている。
「パパー、なにみてるの?」
ツバメの巣を観察していると、由香がトイレから戻ってきた。
「由香、あそこにツバメの巣があるぞ」
「ほんとだ!ちいさいとりさんがいっぱいだねっ」
由香は興味津々でツバメの巣を見ている。
少し、お勉強タイムといきますか。
「ツバメは渡り鳥の一種で、4月から5月ぐらいに巣を作って、卵を産んで、子育てをするんだ」
「へー、そうなんだー」
由香はツバメの巣に夢中で、俺の説明を聞いていない。
まぁ、いずれ学校で学ぶだろう……。
「小さい鳥さん達、大きな口開けてるなぁ。由香がご飯食べてる時と同じぐらい開いてるぞ」
「ゆか、あんなにおおきなくちあけてないもんっ!」
さっきの仕返しで、少し意地悪な事を言ったが逆に怒らせてしまったみたいだ。
「ごめんごめん」
「ふんだっ!」
由香の頭を撫でながら謝ったが、ぷいっと横を向かれてしまう。
「お詫びにお菓子買ってあげるから、ね?」
「しょーがないなー、こんかいはとくべつだよ?」
大人びた言い方をされて驚いたが、許してくれたみたいでホッとする。
「パパなんてだいっきらい!」なんて言われたら、一生立ち直れない。
でも、将来そんな日が来るだろうな……。
再び、ツバメの巣を見る。
あのヒナ達は成長して、いつか巣立ちする日が来るだろう。
由香も大人になって、恋人が出来て、結婚して、家から出ていって……。
「パパ、どうしたの?」
「えっ、ああ、いや、なんでもない。さっ、中に入って買い物しようか」
「うんっ!」
将来のことを心配しつつ、由香の小さい手を繋ぎ、スーパーの中へ入った。

5/28/2025, 11:14:57 PM

教室内に響くシャーペンで紙に書く音。
皆は授業に集中しているが、俺は授業より見たい人がいる。
隣の席に座っている、美月さん。
さらさらと流れるような長い髪をしていて、見入ってしまうほど美しい。
美月さんは唇にシャーペンを当てながら、授業を聞いている。
時折、耳に掛かった髪をかきあげる仕草が……エロい。
刺激が強くて、鼻血が出てしまいそうだ。
美月さんは俺の視線に気づいたのか、チラッとこっちを向いた。
俺は慌てて前を向く。
じーっと見てたのがバレたかな……。
「大島君っ」
美月さんが、俺の肩をトントンと叩いてきた。
思わず身体がビクッと跳ねてしまう。
やっぱり……バレたか。
覚悟を決め、恐る恐る美月さんの方を向く。
「大島君、ここっ」
美月さんは俺を見つめながら、鼻の下に指をさしている。
俺の鼻の下?
自分の鼻の下を触ってみると、指に水のようなものが付く感触。
指を見ると、赤い。
俺の鼻からさらさらな鼻血が出ていて、制服のズボンにまで流れていた。

5/27/2025, 11:21:32 PM

ベッドだけで六割支配しているラブホテルの狭い部屋。
隣には、元カノが裸で寝ている。
これで何度目だろうか……肌を重ねたのは。
俺達には新しい恋人がいるのに、こんなことをしている。
悪いことをしていると自覚していても、やめられない。
以前、「今の恋人と別れてまた付き合わないか?」と言ってみたが、元カノは「今の関係がいい」と言う。
「これで最後だから」
「ああ、これで最後な」
何度交わした分からない、同じ会話。
俺達は唇を重ね、再び愛し合った。

5/26/2025, 11:24:16 PM

やっと、俺にも彼女が出来た日。
ここまで、本当に長かった。
嬉しすぎて踊りそうになったけど、高ぶる気持ちをぐっと抑える。
「今日から恋人だから、私のこと名前で呼んでほしいな」
「分かった。友子、改めてよろしく。君のこと大事にするよ」
そして、初めて君の名前を呼んだ日でもあった。
「……私、友美なんだけど」
「えっ、ああ!そうだった!友美だ!友美!」
「やっぱり噂は本当だったのね。あんた、色んな女の子に手出してるでしょ?」
「いや……そんなことは……」
冷や汗が頬を伝う。 
毎日、複数人の女の子達と話しているから、つい名前を間違えてしまった。
しかも噂になっているとは知らなかった……ど、どうしよう。
「動揺がモロに顔に出てるわよ。はぁ……噂は嘘だと思ってたのに……信じた私が馬鹿だったわ」
「と、友子が本命なんだ!信じてくれ!」
「だから私は友美だってば!この馬鹿!」
ボクサーのパンチより素早いビンタを飛んできた。
頬にクリティカルヒットし、俺は見事にノックアウト。
友子……いや、友美は早足で教室から出ていった。
俺は、今日という日を忘れないだろう。
彼女が出来たと思えば、名前を呼び間違え、ビンタをされて振られた日のことを。
ヒリヒリと痛む頬をさすりながら、そう思った。

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