たーくん。

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5/1/2025, 12:01:09 AM

何度も読み直しているボロボロの冒険日誌。
数年前、村にやってきた冒険者から貰った物だ。
冒険者は心臓病に侵されていて、僕の家で看病していたが、亡くなった。
幼い頃から心臓が弱かったらしい。
「どうしてそんな身体で冒険を?」
今思えば、なんて質問をしてしまったのだろうと申し訳ない気持ちになる。
だが、冒険者は嫌な顔をせず答えてくれた。
「こんな身体だからこそ、世界を見て回りたかったんだ。色んな人に会って、見たことがない物を見て、生を実感したかったんだろうね。まぁ、自己満足に過ぎないけど。本当はまだ冒険をしたかったけど、どうやらここまでのようだ」
どこか寂しそうに話す冒険者の姿を、今でも忘れられない。
「よければこの日誌、貰ってくれないか?今まで冒険したことを書いた日誌なんだ。興味があれば読んでみてくれ」
こうして、僕は冒険者から冒険日誌を受け継ぐ。
冒険者は世界各地で体験したことを、冒険日誌として書き記していた。
生きた証……いや、軌跡というべきだろうか。
冒険日誌を読んでいくうちに、僕は世界に興味が沸く。
冒険者が見てきた世界を、僕も見てみたい。
そして、冒険日誌の続きを、冒険者の代わりに書き記したい。
気がつけば、僕は冒険の旅に出ていた。
冒険者の軌跡を辿り、世界各地を巡る。
世界はあまりにも広くて、初めて見る物が多い。
色んな人と出会い、その地の文化や歴史を学ぶ。
冒険って、こんなに楽しくて、わくわくするものだったんだと実感する。
そして、遂に自分の手で冒険日誌の続きを書き記す時が来た。
「よし、行くぞ」
僕はわくわくの気持ちを高めながら、未開の地へ足を踏み入れた。

4/29/2025, 10:57:46 PM

玄関に、お母さんの靴に寄り添うように置かれた見慣れない靴。
誰の靴だろう?って思ったけど、昨日お母さんが言っていたことを思い出す。
『明日、新しいお父さん来るから』
……一気に足が重くなる。
リビングから楽しそうな話し声が聞こえてきて、更に足が重くなった。
「すぅーー……はぁーー……」
大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
よし、少しは足が軽くなった。
靴を脱ぎ、二人がいるリビングへ向かう。
「あっ、おかえり~」
「どうも、はじめまして。お邪魔してます」
ソファーに並んで座っているお母さんと男の人。
男の人はソファーから立ち、軽く頭を下げ、私に挨拶してくれた。
第一印象は、腰が低くて、優しそうな人。
「ほら、歩美も挨拶して」
お母さんに言われて、ハッとする。
「はじめまして。歩美です。どうも」
私も軽く頭を下げ、男の人に挨拶した。
「僕は、君のお母さんとお付き合いしている信二です。よろしくね。歩美ちゃん」
「もぉ~、歩美に敬語なんて使わなくていいのに~」
真面目に自己紹介している信二さんに、茶々を入れるお母さん。
信二さんは良い人そうだけど、私は好きになれない。
だって、お父さんが好きだったから。
お父さんは二年前、病気で亡くなった。
大好きなお父さんが死んで、私は何日も学校へ行かず、部屋にこもってずっと泣いていたと思う。
今でも、お父さんのことを思い出すことはよくある。
だから、信二さんが新しいお父さんになることを認めたくないって思うのだろう。
でも、嫌いになれない。
お母さんが、信二さんのことが好きだから。
私はお母さんの新しい恋を応援していたけど、いざ二人が結婚するってなると、複雑なのである。
「歩美?何突っ立ってるの?こっちへ来なさい。皆で話しましょ」
「う、うん……」
私は二人が座るソファーの……お母さんの横に座り、信二さんと私がお母さんを挟んだ状態になる。
「もぉー、歩美ったら。信二さんの横に座ればいいのに」
「どうやら僕は嫌われているみたいだね。ごめんよ歩美ちゃん。突然お邪魔しちゃって」
「べ、別に……」
とりあえず、信二さんと話して、お母さんに相応しいか、新しいお父さんとして相応しいか、判断しよう。
それでいいよね?お父さん。
「あ、あのぉ……信二さん」
「ん?なんだい?歩美ちゃん」
私はお母さんの背後から顔を出し、信二さんに話しかけた。

4/28/2025, 11:44:01 PM

太陽が消え、永遠に暗い夜が続く空。
夜の魔王が太陽を封印し、空を支配したのだ。
ずっと夜が続き、外で遊べなくなった子供達は太陽を取り戻すべく、親が寝ている隙に、夜の魔王がいる魔王城へ向かった。
夜の魔王城は、まるでお化け屋敷のような不気味さで、子供達は怖くてなかなか城の中へ入る勇気が出ない。
「ぼくが先に入るから、みんなついて来て!」
一人の男の子が、先頭に立ち、扉を開けて城の中へ進んでいく。
子供達は男の子のあとに続いて、城の中へ入った。
城の中は薄暗く、明かりは壁に灯されている松明の火のみ。
男の子は松明の火が続く廊下を、先頭でどんどん進む。
あとに続いて歩く子供達は、勇気ある男の子を勇者と呼ぶようになった。
子供達はひたすら歩き、ようやく夜の魔王がいる王座の間に辿り着く。
奥には、夜の魔王が足を組みながら大きな椅子に座っている。
「よく来たな……って、大人ではなく子供が来たのか。まぁいい。子供であろうと容赦は──」
「みんな!とつげきだぁー!」
「わあああ!!!」
夜の魔王が語り終わる前に、子供勇者の合図と共に子供達は走り出す。
廊下の途中で拾った松明の木の棒を武器に、子供達は夜の魔王を叩いたり、殴ったり、突いて攻撃した。
「たいようをかえせ!夜のまおー!」
「お前のせいで、外であそべなくなったんだぞ!」
「こうさんしろー!」
子供達は何度も何度も、手加減なしで夜の魔王に攻撃する。
「分かった……!分かった!太陽は返す!だからもうやめてくれ!いてぇ!」
夜の魔王はあっさり降参し、太陽を封印したクリスタルを子供達に渡す。
子供勇者が封印を解くと、窓の外から光が射し込んできた。
空には太陽が現れ、光が地上を照らしている。
長い長い夜が、明けた。
「夜のまおー、はんせいしてもらうために、このクリスタルの中に入ってもらうぞ」
子供勇者はクリスタルを夜の魔王に向けて言った。
「そんなことをすれば、今度は永遠に夜が来なくなるぞ。それでもいいのか?」
「えいえんに夜が来ない……?」
夜の魔王の言葉を聞いて、子供勇者と子供達はニヤっと笑う。
「ま、まさかお前達……待て、早まるな」
夜の魔王は後退りし、逃げようとしている。
子供勇者は迷うことなく、クリスタルで夜の魔王を封印した。
「これでずっと外であそべるぞ!」
「やったーーー!」
永遠に夜が来なくなり、子供達はずーーーっと外で遊びに遊びまくった。
親という真のラスボスがいることを忘れて……。

4/28/2025, 3:22:15 AM

壁に貼られた複数枚の彼女の写真。
僕は写真が趣味で、彼女の写真をよく撮っていた。
特に気に入っているのが、ふとした瞬間に出る何気ない表情の写真だ。
色気が出ていて、今見てもドキドキする。
だけど、二年前に彼女にフラれた。
僕は必死に引き止めたけど、彼女の気持ちは変わることはなく、僕達の恋人関係は終了。
彼女は元カノになり、彼女の写真は思い出の写真になってしまった。
写真を捨てようと思ったが、捨てられない。
新しい恋をしようという気持ちも沸かない。
だって、彼女が全てだったから。
……確か、彼女は今、男と同棲しているらしい。
この前、手を繋いでマンションの中へ入っていくのを見た。
彼女は今、どんな表情をしているのだろう?
彼女の、新しい写真が欲しいな……。
僕はカメラを持ち、彼女と男が同棲しているマンションへ向かった。

4/27/2025, 2:36:29 AM

真っ黒のボディで、いかつい蒸気機関車。
今日は、恋人のミアの見送りで駅に来ていた。
ミアは家庭の事情で、遠く離れた地へ行ってしまう。
俺は駅のホームから窓際の席に座っているミアと、窓を開けた状態で、発車する時間まで話す。
ミアはずっと微笑んでいて、この前号泣していたのが嘘のようだ。
多分、俺を心配させないように、悲しい気持ちを抑えて、微笑んでいるんだと思う。
俺は、ミアに向かって想いをぶつける。
「どんなに離れていても、俺は君への想いは変わらない。ずっと愛しているから!」
「ああ……ルイス……。あなたの言葉、すごく嬉しいわ!お願い、私の手をギュッと握って!」
「ミア!」
窓から出てきたミアの手を、俺はギュッと握る。
離したくない……この手を。
駅の時計を見ると、もうすぐ発車の時間だ。
「ミア、名残惜しけど、発車の時間だ。手を離してくれないか?」
だが、ミアは手を離そうとしない。
蒸気機関車は黒い煙と白い煙を出しながら、プオォォォ!と汽笛を鳴らす。
「どんなに離れていても想いは変わらないから、だから……手を離してくれないか?」
「いやよ!」
こうなったら無理にでも手を離して……あれ?離れないぞ。
まるで手と手が磁石でくっついているかのようだ。
「私の手には超強力な接着剤を塗ってあるの。ルイス、私と一緒に行きましょ!」
蒸気機関車が動き始めた。
手を離すことが出来ず、俺はそのまま蒸気機関車と共に走る。
「うおおお!!!ミアあああ!!!」
「ルイスううう!!!」
周りからは蒸気機関車に乗った恋人を必死に追いかけているように見えるが、俺は蒸気機関車とミアに引っ張られているのだ。
このままでは俺だけでなく、ミアの身も危ない。
「ていっ!!!」
俺は蒸気機関車へ飛び移り、身体を機関車にくっつける。
「ルイス!これで私達、ずっと一緒ね!」
「あ、ああ……強制的にだけど……ゲホッ!ゲホッ!」
前から飛んでくる蒸気機関車の煙に当たり、咳き込む。
駅まで体力と身体は持つだろうか……。
命綱は、ミアの手だけだ。
俺は蒸気機関車にしがみつきながら、ミアと共に遠い地へ向かった。

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