溢れる気持ち。
少年は病室のベッドの上で、音もなく佇んでいる。
僕は急性骨髄性白血病で入院している。
骨髄移植こそが、完治への唯一の道だ。
つまり、自力治癒は見込めない。
ドナ−候補は依然として見つかっていない。
見つかったとしても移植手術までは漕ぎつけない。
それが現実だ。
そういえば、樹木の最後の葉が落ちない様子を見て生きる希望を得た話があったな。
僕は窓から樹木を見た。
すると、いつもあるはずの樹木が伐採されていた。
おそらく邪魔になったので木を切ったのだ。
僕はガッカリした。
現実は小説みたいには行かない。
僕はすべてを諦めて絶望した。
己の運命を呪った。
その時、看護師が慌てて入室した。
「武士君、ドナ−が見つかったわ!」
看護師は興奮して伝えた。
「どうせ、なんだかんだで断わられるんでしょう?」
僕は冷たく言い放った。
「いいえ、ドナ−の方は手術に合意してるわ、だから来週手術よ!」
「ええ!ぼ、僕の病気は治るんだね!まだ生きてもいいんだね…。良かった……」
僕は溢れる気持ちを抑えきれず号泣した。
Kiss
公園内を歩く高校生の男女が会話をしている。
「武士、助けてよ」
と唯美は懇願した。
「ちゃんと断ればいいだろう!それだけだ」
武士は冷たく言い放った。
「勉に何回も付き合えない!って言ってるのに毎日のように私に交際を申し込んでくるのよ!しつこいのよ!」
「俺には関係ない。自分でなんとかするんだな」
「分かったわ、勉を説得できたら貴方にKissしてあげる」
「なに、本当だな、よし、分かった!俺が助けてやるよ!約束は必ず守れよ!」
武士の目が輝やいた。
「女に二言はないわ」
数分後、勉が二人の前に現れた。
唯美は大木に隠れた。
勉の前に武士が立ちはだかる。
「唯美に用があるんだよ!邪魔だ!どけ!」
勉は怒鳴った。
「唯美はお前と付き合えないと断ってるだろ!諦めろ!」
武士は正論を言った。
「うるせぇ!お前には関係ないだろう!!」
シュッ、勉の右ストレートが、風を切って飛んできた。
ドゴッ、バコッ、バシッ、武士は攻撃をかわすと、勉の腹に左右のボディブロ−を連打した。
勉はくの字でひっくり返り、そのまま仰向けに倒れた。
「しつこい奴はモテねぞ!潔く諦めるんだ!」
「ウグッ、ウ−ン…」
勉は苦渋に満ちた声を漏らした。
「よし!説得したぞ!唯美、善は急げ、今すぐkissしよう!」
武士はニヤニヤしながら後ろを伺った。
だが、唯美の姿は何処にもなかった…。
「何が女に二言はないだ!騙しやがって!純心な男心をもて遊ぶな!!」
夕暮れの公園に虚しく声が響いた。
1000年も。
人類は目覚ましい発展を遂げた。
世界人口は約82億人に達した。
宇宙旅行が日常になるのもそう遠くない。
高度な文明を築いた。
たが、代償があまりにも大きく環境問題が深刻だ。
毎年、九州と四国を合わせた面積の森林が伐採されて、気温上昇が止まらない。
止まらぬ南極の氷解、海面上昇の異常事態だ。
環境問題を、莫大なビジネスに変える天才が現れない限り真の解決はない。
人類を滅亡に追い込む核兵器が、今も世界中に存在している。
こうなると人は賢者なのか?愚者か?分からなくなる。
人類の平和と地球環境に最適な時期は縄文時代。
縄文時代は意外と争いは少なかった。
おそらく狩りで忙しかったのだろう。
ルソーの「人間よ自然に帰れ!」は正解だが、僕はスマホに帰ってしまう。
スマホが便利で楽し過ぎて手放せないのだ。
弥生時代から貧富の差ができた。
日本史において、第二次世界大戦が地獄であった。
もう少し早く生まれてたら危なかった…。
1000年も先の事は分からない。
今を大切に、環境にも、人にも、動物にも、自分にも優しく生きればいいのだ。
勿忘草。
「残念ながら由紀子さんの膵臓がんはステージ4です。もう手のほどこしようはありません」
医師は残酷な現実を告げた。
「そんな……。由紀子はあとどれくらい生きられるのですか?」
僕は藁にもすがる思いで聞いた。
「あと1ヶ月ぐらいでしょうか……。奥様と素敵な思い出を作って下さい」
覚悟はしていたが想像以上にショックを受けた。
僕は面談室を後にし、車の中で隠れて泣いた。
1時間後、由紀子のいる病室に入室した。
「あら、今日はいつもよりも遅いわね」
由紀子は笑顔で聞いた。
「ああ、交通事故があって渋滞だったんだよ」
僕はとっさに嘘をついた。
「ふ〜ん、そうだ!武士さんに渡したいものがあるの」
由紀子はベッドの下に隠していた花鉢を取り出した。
花鉢には青き花が八輪咲いている。
「初めて見る花だな。なんて言うの?」
「勿忘草って言うのよ。花言葉は『私を忘れないで』」
「ええ、何言ってんの!?意味が分からないよ!」
「とぼけても無駄よ!自分の体の事は自分が一番分かってる。私はもう長くない……。だから、この花を受け取って欲しいの」
「嫌だ!絶対に嫌だ!」
「どうして?勿忘草を私だと思って飾ってほしいのよ!」
「そんな事をしたら由紀子さんがもう死ぬって認める事になる!」
「もう治る見込みはないのよ…」
「諦めるな!奇跡を起こそう!膵臓がんなんか気持ちで治そうよ!」
「分かったわ!貴方はおかしな人ね…」
二人は病気と戦い続ける事を誓った。
ブランコ。
今日は休日なので、僕は息子の海人を連れて近くの公園に足を延ばした。
海人は3歳の誕生日を迎えたばかり。
「お父さん、あれがいい!」
「ブランコ!」海人は指差して言った。
我が子には「パパ」ではなくお父さんと呼ばせるようにしつけしている。
ブランコに座り、膝に海人を乗せたまま、ゆっくりと地面を蹴った。
「キャッキャッキャッ!」
海人は目を輝かせて喜んだ。
いつの間にか、僕もつられて笑顔になった。
この子を幸せにしなければ…。
その為には仕事を頑張って稼がないと…。
決意を新たにした。
ところで、海人は頭がいいのだろうか?
僕に似てたらまずいな…。
そうだ!数学の勉強になるゲ−ムアプリをやらせるか。
それなら数学を楽しく学べる。
それと英語のYouTubeを毎日聞かせるか!
これで英語の下地ができるな。
帰ったら早速実践だ!
あとは、小学生になったら学校でイジメられないようにボクシングを習わせるか。
井上尚弥選手のような、偉大な世界チャンピオンにはなれないけど強い男には成れる!
それで十分だ。
繋いだ手の温もりを感じながら家へと帰った。
社会に出て仕事が出来るようになっても失礼な奴は沢山いる。
読者の皆さんは強い人になって下さい。
ちなみに、僕の父は兼業農家なのでこういう思い出は一切ない。