勿忘草。
「残念ながら由紀子さんの膵臓がんはステージ4です。もう手のほどこしようはありません」
医師は残酷な現実を告げた。
「そんな……。由紀子はあとどれくらい生きられるのですか?」
僕は藁にもすがる思いで聞いた。
「あと1ヶ月ぐらいでしょうか……。奥様と素敵な思い出を作って下さい」
覚悟はしていたが想像以上にショックを受けた。
僕は面談室を後にし、車の中で隠れて泣いた。
1時間後、由紀子のいる病室に入室した。
「あら、今日はいつもよりも遅いわね」
由紀子は笑顔で聞いた。
「ああ、交通事故があって渋滞だったんだよ」
僕はとっさに嘘をついた。
「ふ〜ん、そうだ!武士さんに渡したいものがあるの」
由紀子はベッドの下に隠していた花鉢を取り出した。
花鉢には青き花が八輪咲いている。
「初めて見る花だな。なんて言うの?」
「勿忘草って言うのよ。花言葉は『私を忘れないで』」
「ええ、何言ってんの!?意味が分からないよ!」
「とぼけても無駄よ!自分の体の事は自分が一番分かってる。私はもう長くない……。だから、この花を受け取って欲しいの」
「嫌だ!絶対に嫌だ!」
「どうして?勿忘草を私だと思って飾ってほしいのよ!」
「そんな事をしたら由紀子さんがもう死ぬって認める事になる!」
「もう治る見込みはないのよ…」
「諦めるな!奇跡を起こそう!膵臓がんなんか気持ちで治そうよ!」
「分かったわ!貴方はおかしな人ね…」
二人は病気と戦い続ける事を誓った。
2/3/2026, 7:06:07 AM