お題《輝き》
「なあ! 昨日のニュース見たか!?」
真夏の寄宿舎に響く真夏に負けないくらい
熱を帯びた声
「竜星群だろ。みんなあっちこっちで、その話で持ちきりだからな。ラズで10回目だよ、言ってきた奴」
「くっそー先越されたかあ。俺が絶対一番だと思ったのに」
崩れ落ちるこいつはラズライト
透きとおった天青の双眸の瞳が綺麗な
明るく嘘がつけないクラスメイト
竜星群――真夏に星の海を渡り竜の群が、流れ星のように
この地上へ流れてくることから、そう言われている
人間は幻想が好きだ
お伽話のように語られていたファンタジーの竜
それが真実として存在していたならば
それは夢が叶った証明
「なあカラクサ、一緒に竜星群見に行こうぜ。そんでもって竜と友達になって冒険したいな、お前とさ」
――翡翠ソーダ水の海
こいつといると、ずっと夏の季節を泳いでいるみたいだ
心に広がる夏の風景に思わず笑みがこぼれる
「ラズが心配だから行くよ、一緒に」
願わくばこの先もずっと君のトナリで
季節を泳いでいきたい
お題《時間よ止まれ》
春は零れ落ち
花弁となって空へと逃げていく
魔王様と手にした日常が幻想でもいい
魔王様と交わした約束が自分にはちゃんとある
魔王様と紡いだ泡沫の日常は鮮やかに胸の奥で咲いている
リシュティアの手の中には暁の薔薇の花びらがある
涙の雫を吸ったその花が彼女に届けたのは
彼が生きた物語の証だった
すべては雨の日から始まった
どんな残酷な運命も夜明けに変わる
カタストロフィさえもそれは変えられない
《途中書き》
お題《君の声がする》
朱に染まりゆく空はまるで血
地上を煌々と燃やす炎の花が天をもあかくする
この夜《世》こそが地獄かもしれない
下弦の月が見下ろす夜
すべてが一変した
君の声が
君の声は
もう、きこえない
涙の雫をすすり
不変の覚悟を心奥に抱いて
ひたすら地を蹴る
いつもきこえていた君の声が
いつもはなしかけてくれた君の声が
この世から悪は絶対なくならない
何故ならばそれは――人間がこの世界にいるからだ。
俺はそれを良しとはしない。
でも君が。
君が――――望むから。
俺は。
俺のやり方で、この世を正す。
お題《ありがとう》
茜咲く季節に妖精の翅を見つけた
まれに人の国にも妖精は現れるらしい
人間の暮らしを学びに訪れるらしい
《らしい》というのは風のうわさで耳にし
この瞳でまだ、妖精を見たことはない
誰も彼もが妖精に憧れを抱き
妖精の物語を聞いてみたいと思っている
ある学者が言っていた
「この国には夢物語が必要だ。人は永遠ではいられない。時にはそんな夢見が、人を救うことだってある」のだと。
――その言葉が琴線に触れる
僕の無意味だとなんでも決めつける世界に
静かな水面に波紋を落とすように
《途中書き》
お題《そっと伝えたい》道標の塔、墓標の塔
森の海に眠る高く高く聳え立つ塔
草花が寂しくゆれ
錆びついた風景
凍りついた時間
塔の周りを風が巡る
風は真新しい香りを運び
時間をゆっくり解かしてゆく
いつの時代からあるか誰も知らないが
この塔の意味を誰もが知っている
それは今へと語り継がれる伝承のように
秋の終わり森は終焉を迎える準備へと移り変わる
絵描きの少年は家族のお土産の茶葉と焼き菓子を買い
帰路を急ぐ
いつもならいつも通りなのに、
この日は何故か違ったのだ
何かに誘われるように、
森へと誘われる
奥へ奥へと歩いていくと――塔があった
そして、その塔を無言のまま見つめる杖をつきたたずむ老婆と出会う
《途中書き》