椿灯夏

Open App
2/12/2025, 12:54:49 PM

お題《未来の記憶》


菫色の瞳は静かに水面を揺らす

それは合図



森の海の向こうに閉ざされた国

永遠の死を告げる死神蝶

邂逅の果てに蘇る

死季が始まり

国は永遠となる

その国は世界を揺るがす厄災となるだろう


先見の少年は《紫季》と名乗り

明日

明後日

遠い遠い先の果て

――あなたの命日も視ることができるという



しかしそれは同時に失うことを意味する


大切な者の、大切な記憶を


紫季は思う


望まれ先見をし

望まぬ真実を識った愚者たちは

彼を《紫の悪魔》だと罵る


この瞳は呪いの根源であり

相手にとっては必然


自分にとっては――――《贖い》であると


命の音がしない冬の森で

ひとり聴く悪夢は




永遠に紡がれる罪の象徴であるのだと


2/12/2025, 9:09:55 AM

お題《ココロ》

カラフルなフルーツドロップの缶

お守りがわりにポケットへ突っ込んで

足早に向かう

春を迎えに

桜並木の道にあるポストで君を初めて見た

丁寧な仕草で手紙を出す姿に心引かれ

その瞬間

ココロに映画が流れた

桜吹雪が舞って

君が僕に気がついて

チューリップのように頬が色づいて

手を振って笑いかける

その瞬間、春が始まったんだ

2/10/2025, 1:36:06 PM

お題《星に願って》


星花が夜空から流れてくる

流星の流れる季節を《流花》と呼び

元星の民であった地上の民は落花と歌われる

星にはなれない星

それでも夜の帳が下りれば祈歌を空へ捧ぐ

いつか故郷に還るのを待ちわびながら

季節は巡り

花は咲き

やがて花は枯れる

それは流花も同様

星の民ではいられなかった彼らが

不変でいられるはずもない


《途中書き》

2/9/2025, 8:51:24 AM

お題《遠く……》


天も地も蒼白に埋もれていく

街も花も色を失って

静寂は聖域のように

(……)

記憶の中でも

僕は動かない

虚ろな瞳で天から降る花を仰いでいる

天にはきらびやかなお城があって

そこには見たこともない美しいお姫様や

魔法使い、吟遊詩人、エデンの騎士

物語に登場する英雄たちが存在している場所があるのだという


病弱な母が聞かせてくれた絵本には夢があふれていた

お金がなくとも

僕は……母とこの絵本があればいい

それだけで生きてゆけるから



それだけで……………………




音がしない



僕の世界から花が消えた


2/7/2025, 1:58:34 PM

お題《誰も知らない秘密》


風花は誘う

彼の者しか聞き取れない囁きで

神隠しの国へ招く詩を


現し世の目では視ることのできない

真実は鳥居の奥のその向こう側

香りは儚く淡い花香

夢から覚めたら忘れてしまうような


遠い懐かしい

何処かへ置き忘れてしまったような

旅人が語ってくれた冒険譚のような



いつ境界線を越えてしまうのか

いつ惹かれ引かれていってしまうのか



わたしですらもう――憶えてない



すぐに忘れてしまう



あの花も


あの詩も



それは幻霧に霞んでゆく

Next