椿灯夏

Open App
2/14/2025, 1:30:03 PM

お題《ありがとう》


茜咲く季節に妖精の翅を見つけた

まれに人の国にも妖精は現れるらしい

人間の暮らしを学びに訪れるらしい

《らしい》というのは風のうわさで耳にし

この瞳でまだ、妖精を見たことはない

誰も彼もが妖精に憧れを抱き

妖精の物語を聞いてみたいと思っている

ある学者が言っていた

「この国には夢物語が必要だ。人は永遠ではいられない。時にはそんな夢見が、人を救うことだってある」のだと。


――その言葉が琴線に触れる


僕の無意味だとなんでも決めつける世界に


静かな水面に波紋を落とすように


《途中書き》

2/13/2025, 1:09:39 PM

お題《そっと伝えたい》道標の塔、墓標の塔



森の海に眠る高く高く聳え立つ塔

草花が寂しくゆれ

錆びついた風景

凍りついた時間

塔の周りを風が巡る

風は真新しい香りを運び

時間をゆっくり解かしてゆく

いつの時代からあるか誰も知らないが

この塔の意味を誰もが知っている

それは今へと語り継がれる伝承のように


秋の終わり森は終焉を迎える準備へと移り変わる

絵描きの少年は家族のお土産の茶葉と焼き菓子を買い

帰路を急ぐ

いつもならいつも通りなのに、

この日は何故か違ったのだ

何かに誘われるように、

森へと誘われる


奥へ奥へと歩いていくと――塔があった



そして、その塔を無言のまま見つめる杖をつきたたずむ老婆と出会う



《途中書き》

2/12/2025, 12:54:49 PM

お題《未来の記憶》


菫色の瞳は静かに水面を揺らす

それは合図



森の海の向こうに閉ざされた国

永遠の死を告げる死神蝶

邂逅の果てに蘇る

死季が始まり

国は永遠となる

その国は世界を揺るがす厄災となるだろう


先見の少年は《紫季》と名乗り

明日

明後日

遠い遠い先の果て

――あなたの命日も視ることができるという



しかしそれは同時に失うことを意味する


大切な者の、大切な記憶を


紫季は思う


望まれ先見をし

望まぬ真実を識った愚者たちは

彼を《紫の悪魔》だと罵る


この瞳は呪いの根源であり

相手にとっては必然


自分にとっては――――《贖い》であると


命の音がしない冬の森で

ひとり聴く悪夢は




永遠に紡がれる罪の象徴であるのだと


2/12/2025, 9:09:55 AM

お題《ココロ》

カラフルなフルーツドロップの缶

お守りがわりにポケットへ突っ込んで

足早に向かう

春を迎えに

桜並木の道にあるポストで君を初めて見た

丁寧な仕草で手紙を出す姿に心引かれ

その瞬間

ココロに映画が流れた

桜吹雪が舞って

君が僕に気がついて

チューリップのように頬が色づいて

手を振って笑いかける

その瞬間、春が始まったんだ

2/10/2025, 1:36:06 PM

お題《星に願って》


星花が夜空から流れてくる

流星の流れる季節を《流花》と呼び

元星の民であった地上の民は落花と歌われる

星にはなれない星

それでも夜の帳が下りれば祈歌を空へ捧ぐ

いつか故郷に還るのを待ちわびながら

季節は巡り

花は咲き

やがて花は枯れる

それは流花も同様

星の民ではいられなかった彼らが

不変でいられるはずもない


《途中書き》

Next