椿灯夏

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2/9/2025, 8:51:24 AM

お題《遠く……》


天も地も蒼白に埋もれていく

街も花も色を失って

静寂は聖域のように

(……)

記憶の中でも

僕は動かない

虚ろな瞳で天から降る花を仰いでいる

天にはきらびやかなお城があって

そこには見たこともない美しいお姫様や

魔法使い、吟遊詩人、エデンの騎士

物語に登場する英雄たちが存在している場所があるのだという


病弱な母が聞かせてくれた絵本には夢があふれていた

お金がなくとも

僕は……母とこの絵本があればいい

それだけで生きてゆけるから



それだけで……………………




音がしない



僕の世界から花が消えた


2/7/2025, 1:58:34 PM

お題《誰も知らない秘密》


風花は誘う

彼の者しか聞き取れない囁きで

神隠しの国へ招く詩を


現し世の目では視ることのできない

真実は鳥居の奥のその向こう側

香りは儚く淡い花香

夢から覚めたら忘れてしまうような


遠い懐かしい

何処かへ置き忘れてしまったような

旅人が語ってくれた冒険譚のような



いつ境界線を越えてしまうのか

いつ惹かれ引かれていってしまうのか



わたしですらもう――憶えてない



すぐに忘れてしまう



あの花も


あの詩も



それは幻霧に霞んでゆく

2/6/2025, 1:47:46 PM

お題《静かな夜明け》


室内を満たすのは鬱蒼とした空白の感情

恋人と些細なことで言い争って

手つかずの料理

恋人が好きだと作ってくれたスープも

今は沈黙の海でしかない


もっと話したかった

もっとあなたの日常の色を知りたかった


でもあなたにはここではない楽園があった


わたしじゃなかった


わたしだけが夢見て


散った

2/4/2025, 11:10:57 PM

お題《永遠の花束》


紡いできた想い出を編んでみる

記憶に刻まれた物語を

それは四季織のように

どうしようもない絶望も

踊るような幸福も

ふりかえれば財産だ
 

宝石にならなくとも

価値にならなくとも


それは誰かの世界観で決めることじゃない

自分の意思で、瞳で、掴んだもので、決めることだ


それはいつかきっと永遠の花束となる



その美しさは色褪せない

あなただけの輝きだから


誰にも分からずとも

それは誰のせいでもなければ

あなたが悪いわけじゃない



わたしは、それを美しいと想う


あなたの生きた証なのだから 





1/19/2025, 2:33:13 PM

お題《ただひとりの君へ》


春風に誘われて美術館へ足を運んだ

理由なんてない

興味もない


それでも一目惚れしたんだ

足を止めた

まるで足が運命を知るように


真っ白なアンティークのドレスを纏い

桜色の唇に花笑み

椅子に腰かける美しい人

僕はこの絵画を知らない


それでも足は先を見る


遠い過去の異国の人が描いた絵画

僕はその時代に想いを飛ばす



もしこの時代で出会えたなら

美しい言の葉で綴った手紙を渡すだろう



まだ見知らぬ君へ

名もなき絵画の君へ


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