お題《紅茶の香り》
不変な幸福などありはしないのに、哀れな鳥籠の鳥は夢をみる。
きっと信じたくないのだろう。終わりのある幸福、そしてそれが泡沫で、幻想なのだという真実を。
青いエデンを築き、国を失った彷徨う民たちを救い、そして一国の王として祭り上げられた。――砂漠の真ん中に夢の城を、そして美しい水面の夜明けのような鮮やかな紅茶を国の名産品にし、そこからさらに茶畑を拡大していった。
珍しい茶葉のある、砂漠の楽園《オアシス》。
ここへ立ち寄り、そのまま住まう者。――誰も彼もが望みを持ち、だからこそ、ここは美しい楽園なのだ。
俺にはひとつ望みがある。
それを叶えるために俺は。
――華やかで美しい香りとは似合わず、毒々しい味のお茶を飲みながら今日も、果てのない夢をみる。
お題《行かないで》
ありふれた言葉では何も叶わない、届かない。
常識なんてものは滑稽だ。
言葉にしなきゃ何も伝わらない、だって人は、そんなに優れた生き物じゃない。
愚かさでいい。
その、愚かさがいい。
お題《どこまでも続く青い空》
ネモフィラの花の海が風に誘われ泳ぐ。花の海の向こうに広がるのは、果てしない蒼海だった。
花の海の真ん中にお墓が建てられているが、立ち寄る者は誰一人いない。花の香りに導かれ訪れるのは、遠い旅路の果てにたどり着いた蝶だけ。
空はラピスラズリのように知的で、美しい。もし人だったらクールで、本が似合いそうなイケメンかもしれないなと思う。
わたしは祈った。
かつてのわたしはずっと引き籠もったまま空を、部屋から見るだけだった。でも今は、鳥籠から出て行けられたから――幸せだと思う。
わたしは正しい。
でも世間では、きっと正しくない結末だろう。
わくわくしながら読み進めた物語が、結末はつまらない、みたいな。
わたしは祈った。
たったひとりでいい。
――わたしを理解してくれる、寄り添い、微笑んでくれる誰かとの邂逅を。
お題《声が枯れるまで》
世界は残酷だった。――奪われた宝物はすべて、自分が愚かで、無知で、力がないからだと歌う。世界は誰も救いはしない。価値なき者には、滑稽な物語には。
でもあなたはもっと、残酷だった。――笑顔で毒を吐き、誰かの大切な宝物を平気で葬ることができる、蝶葬の悪魔。
私の楽園を埋めた。
誰かの物語を踏みにじるのは、許されざる大罪だ。
私の怒りは、紅蓮の鳥を幻想させる。
これは終わりなき奪い合い、守るための物語。
お題《始まりはいつも》
どこの世界にいっても黄昏の空に、淡い雨が降る。
でも。おまえは隣にいない。
孤独の空白を埋めてくれたあの日、おまえは夜明けの空のように道を照らしてくれた。――わかっていたんだ、おまえとの出会いは終焉への、始まりだと。
それでも俺は何度でも神に願うよ。
――この世界に神とやらがいるのならば。
『わたしがいるよ。どこにいても、あなたを守るよ』
ルリシアと出逢い花が降り始め、そして、花が散り始めた。