お題《ところにより雨》
神隠しに逢ったあの人を追ってゆく先で必ず降る、蒼白の雨。
でもその雨は。
「私にしか、見えない」
この世界は不自然で、そして奇妙だ。
いまだ真実は遠く、雨は、私に幻想をかける。
お題《特別な存在》
月灯り、木漏れ陽。
彼の人生はそれしか記憶にない。光に祝福された、生。
黄昏も深い深淵の泳ぐ夜の底など識らないのだ。
彼女は水鏡に映る己の姿を見て、嘲笑した。
醜い灰の髪に痩せこけた頬。
粗末な布で織られたワンピース。
彼とは、何もかもが真逆なのだ。
彼女は一瞬でも愛を咲かせた真実を、心底嘆いて深淵と消えていった。
永遠に彷徨い歩くのだとしても。それは、安らぎの揺り籠に過ぎない。
お題《旅路の果てに》
交わす言葉は道標。
小さな旅路のお供は古びた絵本。
誰にも歓迎されなかった旅路に舞う風花。
それでも手にしたものは――抱えきれないほどの、星の海。
星のランプを創って、またその旅路を辿ろう。
今度は、君と一緒に。
お題《太陽の下で》
花の香りに包まれた揺り籠。
天窓から零れ落ちる光。
大きな窓から見渡せる庭には、陽光を受け煌めく薬草の庭。奥の方には果樹園もある。日頃から丁寧に世話をされているのだと見ればわかる、生命力にあふれた豊かな庭だが――ただ、その姿を一度もまだ、見たことがないのだ。
その代わりに。いつもテーブルに、手紙が置いてあった。
《クロックムッシュ、木いちごのパイを今日は焼いたから庭のカフェスペースで食べて》
《今日は星がたくさん流れる。庭に落ちた星の欠片を集めておいて。明日をお楽しみに》
とりとめのない、日常の手紙。
私は今日も筆をとる。
私の知らない誰かへ。
お題《柔らかい雨》
いつも雨は、嫌な記憶をつれてくる。
星空の町から遠ざかる果ての町で生まれた。
星空の町には、星読み姫がいる。星の姫は、夜の底で煌めくひとしずくの光――星神から遣わされた救いだと云われている。
「ねぇ星の姫が泣くと、流れ星になるって云われてるけど本当なのかな」
「さあな」
幼馴染みのロトアがぶあつい本を片手に、星のようにきらきらとした瞳でこちらを見てくる。
「レンは興味ないの?」
《星の姫》――よく星を読んで聞かせてくれた。
今も心に降る流れ星の雨。
彼女の光に満ちたその笑顔。
忘れられない月灯りの雨を浴びて、交わしたひとひらの言の葉。
落ち着かないのは、全部――彼女のせいだ。