椿灯夏

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10/28/2023, 4:41:39 AM

お題《紅茶の香り》







金木犀の雨が蜂蜜色の屋根に降る。聖域のように澄んだ沈黙の空間。



ここは、《アルカナの箱庭》と呼ばれる異世界の果てにある――紅茶と伝承の、《鳥籠》。



「紅茶の本、ティーセット、駄々広い茶畑……でも来客者なんて滅多にこない――どうしてなの?」



黄昏色の髪から覗く星と月の青銀に輝くピアスをした、少し気怠げな少年は答えない。



「ここには、何があるの?」


「俺は何も識らない」

「ここに住んでいながら? もういいわよ、勝手にするから!」


「――識らない方がいい」

10/8/2023, 2:12:04 PM

お題《束の間の休息》



冬の果ての国。


月のない夜のランプ代わりは、ひとりの青年だった。 


月が巡らない夜は、彼が月の代わりを果たす。



「ねえ」

「ん?」


夜闇に浮かぶ青年が、下でぶ厚いマントを羽織った震える少女に視線を落とす。


「寒くないの?」

「ああ、不思議なことにな。この身体はもう空白だな――月の代わりは名誉だ何だもてはやされたけど……でもそれは、俺の中の何かが枯れてゆくんだ」







少女は、その刹那寒さを忘れた。


それほどまでに、青年のその言葉は、深く深く切なさを帯びていた。



9/29/2023, 2:33:34 PM

お題《静寂に包まれた部屋》



柑橘の香りが咲いている。冬の澄んだ空気のようにキリリとした、心に新鮮な風を運んでくれるわたしの好きな香りだ。



植物図鑑を読みながらダージリンの紅茶で優雅な休息。




静寂に包まれた部屋は、森に似ている。




だからこんなにも居心地いいんだろう。



9/15/2023, 1:38:31 PM

お題《君からのLINE》




心に降る雫も陽も。



君の綴った物語のせい。



あと何回続くだろう、君は私との物語で笑顔になってくれるのかな。そんなことを想う度眠れない夜が、私を夜明けへと誘ってゆく。




君と夜明けに咲いて、夜明けとともに眠る。




9/14/2023, 10:57:38 AM

お題《命が燃え尽きるまで》




茜色の空が朱く朱く、瞳を染める。



服も、手も、みんな茜色の空になる。




命の焔を燃やす旅路。


復讐という名の理由を名づけたこの旅路は、きっと誰も救わない。幸せは、もう二度と咲かないだろう。


それでもいい。




「俺の意味は……俺が決める。そこに、誰かの意思などあってなるものか」






誰も何者にもなれない。



だったら――死ぬまで、俺の自由だ。



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