お題《紅茶の香り》
金木犀の雨が蜂蜜色の屋根に降る。聖域のように澄んだ沈黙の空間。
ここは、《アルカナの箱庭》と呼ばれる異世界の果てにある――紅茶と伝承の、《鳥籠》。
「紅茶の本、ティーセット、駄々広い茶畑……でも来客者なんて滅多にこない――どうしてなの?」
黄昏色の髪から覗く星と月の青銀に輝くピアスをした、少し気怠げな少年は答えない。
「ここには、何があるの?」
「俺は何も識らない」
「ここに住んでいながら? もういいわよ、勝手にするから!」
「――識らない方がいい」
お題《束の間の休息》
冬の果ての国。
月のない夜のランプ代わりは、ひとりの青年だった。
月が巡らない夜は、彼が月の代わりを果たす。
「ねえ」
「ん?」
夜闇に浮かぶ青年が、下でぶ厚いマントを羽織った震える少女に視線を落とす。
「寒くないの?」
「ああ、不思議なことにな。この身体はもう空白だな――月の代わりは名誉だ何だもてはやされたけど……でもそれは、俺の中の何かが枯れてゆくんだ」
少女は、その刹那寒さを忘れた。
それほどまでに、青年のその言葉は、深く深く切なさを帯びていた。
お題《静寂に包まれた部屋》
柑橘の香りが咲いている。冬の澄んだ空気のようにキリリとした、心に新鮮な風を運んでくれるわたしの好きな香りだ。
植物図鑑を読みながらダージリンの紅茶で優雅な休息。
静寂に包まれた部屋は、森に似ている。
だからこんなにも居心地いいんだろう。
お題《君からのLINE》
心に降る雫も陽も。
君の綴った物語のせい。
あと何回続くだろう、君は私との物語で笑顔になってくれるのかな。そんなことを想う度眠れない夜が、私を夜明けへと誘ってゆく。
君と夜明けに咲いて、夜明けとともに眠る。
お題《命が燃え尽きるまで》
茜色の空が朱く朱く、瞳を染める。
服も、手も、みんな茜色の空になる。
命の焔を燃やす旅路。
復讐という名の理由を名づけたこの旅路は、きっと誰も救わない。幸せは、もう二度と咲かないだろう。
それでもいい。
「俺の意味は……俺が決める。そこに、誰かの意思などあってなるものか」
誰も何者にもなれない。
だったら――死ぬまで、俺の自由だ。