お題《束の間の休息》
冬の果ての国。
月のない夜のランプ代わりは、ひとりの青年だった。
月が巡らない夜は、彼が月の代わりを果たす。
「ねえ」
「ん?」
夜闇に浮かぶ青年が、下でぶ厚いマントを羽織った震える少女に視線を落とす。
「寒くないの?」
「ああ、不思議なことにな。この身体はもう空白だな――月の代わりは名誉だ何だもてはやされたけど……でもそれは、俺の中の何かが枯れてゆくんだ」
少女は、その刹那寒さを忘れた。
それほどまでに、青年のその言葉は、深く深く切なさを帯びていた。
10/8/2023, 2:12:04 PM