お題《特別な存在》月灯り、木漏れ陽。彼の人生はそれしか記憶にない。光に祝福された、生。黄昏も深い深淵の泳ぐ夜の底など識らないのだ。彼女は水鏡に映る己の姿を見て、嘲笑した。醜い灰の髪に痩せこけた頬。粗末な布で織られたワンピース。彼とは、何もかもが真逆なのだ。彼女は一瞬でも愛を咲かせた真実を、心底嘆いて深淵と消えていった。永遠に彷徨い歩くのだとしても。それは、安らぎの揺り籠に過ぎない。
3/23/2024, 12:42:13 PM