月下の胡蝶

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11/25/2023, 1:48:32 PM

お題《太陽の下で》


 
花の香りに包まれた揺り籠。


天窓から零れ落ちる光。



大きな窓から見渡せる庭には、陽光を受け煌めく薬草の庭。奥の方には果樹園もある。日頃から丁寧に世話をされているのだと見ればわかる、生命力にあふれた豊かな庭だが――ただ、その姿を一度もまだ、見たことがないのだ。



その代わりに。いつもテーブルに、手紙が置いてあった。



《クロックムッシュ、木いちごのパイを今日は焼いたから庭のカフェスペースで食べて》


《今日は星がたくさん流れる。庭に落ちた星の欠片を集めておいて。明日をお楽しみに》






とりとめのない、日常の手紙。





私は今日も筆をとる。



私の知らない誰かへ。







11/6/2023, 11:33:32 AM

お題《柔らかい雨》



いつも雨は、嫌な記憶をつれてくる。



星空の町から遠ざかる果ての町で生まれた。


星空の町には、星読み姫がいる。星の姫は、夜の底で煌めくひとしずくの光――星神から遣わされた救いだと云われている。



「ねぇ星の姫が泣くと、流れ星になるって云われてるけど本当なのかな」

「さあな」


幼馴染みのロトアがぶあつい本を片手に、星のようにきらきらとした瞳でこちらを見てくる。


「レンは興味ないの?」



《星の姫》――よく星を読んで聞かせてくれた。


今も心に降る流れ星の雨。


彼女の光に満ちたその笑顔。



忘れられない月灯りの雨を浴びて、交わしたひとひらの言の葉。





落ち着かないのは、全部――彼女のせいだ。



10/28/2023, 4:41:39 AM

お題《紅茶の香り》







金木犀の雨が蜂蜜色の屋根に降る。聖域のように澄んだ沈黙の空間。



ここは、《アルカナの箱庭》と呼ばれる異世界の果てにある――紅茶と伝承の、《鳥籠》。



「紅茶の本、ティーセット、駄々広い茶畑……でも来客者なんて滅多にこない――どうしてなの?」



黄昏色の髪から覗く星と月の青銀に輝くピアスをした、少し気怠げな少年は答えない。



「ここには、何があるの?」


「俺は何も識らない」

「ここに住んでいながら? もういいわよ、勝手にするから!」


「――識らない方がいい」

10/8/2023, 2:12:04 PM

お題《束の間の休息》



冬の果ての国。


月のない夜のランプ代わりは、ひとりの青年だった。 


月が巡らない夜は、彼が月の代わりを果たす。



「ねえ」

「ん?」


夜闇に浮かぶ青年が、下でぶ厚いマントを羽織った震える少女に視線を落とす。


「寒くないの?」

「ああ、不思議なことにな。この身体はもう空白だな――月の代わりは名誉だ何だもてはやされたけど……でもそれは、俺の中の何かが枯れてゆくんだ」







少女は、その刹那寒さを忘れた。


それほどまでに、青年のその言葉は、深く深く切なさを帯びていた。



9/29/2023, 2:33:34 PM

お題《静寂に包まれた部屋》



柑橘の香りが咲いている。冬の澄んだ空気のようにキリリとした、心に新鮮な風を運んでくれるわたしの好きな香りだ。



植物図鑑を読みながらダージリンの紅茶で優雅な休息。




静寂に包まれた部屋は、森に似ている。




だからこんなにも居心地いいんだろう。



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