テーマ“街へ”
あまり、人混みは好きではない。
人に酔う、音が溢れている、眩しすぎる。
苦手な事しかない。
けれども、どうしても必要な物が
街にしかなくて…
仕方無く、街へとやって来た。
買う物ならば、今の時代
簡単にインターネットで購入出来るから
わざわざ、こんな街になんか来なくても良いけれど
私が必要としている物は
売ってはいない。
「12月1日から1月いっぱいまで、イルミネーションが…」
と、画面の向こうの人が言っていた。
知り合いでは無い。
キラキラしていてキレイだと思った。
画面越しでは見えない場所も見てみたくなって
辺鄙な場所から、わざわざ
遠く離れた街までやってきた。
周りの人は、この景色を見慣れているようで
誰一人として、イルミネーションを見ては居ない。
休日ならば、もう少し注目する人は増えるだろう。
けれど、平日の夜、仕事や学校帰りの人が
過ぎ去っていくだけ。
写真を撮ろうと、カメラを構えるけれど
そんな私を嘲笑うかのように、目の前を通り過ぎていく人たち…。
ああ、来なければ良かった。
心の底からそう思う。
イルミネーションの美しさと
人間の醜さが相まって、混沌を生み出す。
わざと邪魔をしている訳ではないのだろう。
他人を気にする余裕がないだけなのだろう。
私はカメラを仕舞い、脳裏に焼き付けるように
見つめる。
傍から見れば、怪しい人だろう。
女一人で、イルミネーションを見つめている。
(ついでに、コート、マフラー、耳あて、手袋、ムートンブーツ)
オシャレよりも防寒を優先させた、服装。
淋しげに見えぬだろうか、憐れに見えるだろうか。
それでも、私は、この輝きをただ、見に来た。
だから、きっと、私はこの街に居る人の中で一番幸せなのだと思う事にした。
テーマ“優しさ”
誰かの為に、優しくしても
その誰かは、すぐにその事を忘れてしまう。
優しくされたことを覚えていたとしても
「あの人は、優しいから、あの人に任せちゃお」
となる。
だけど、それは、本当に優しさからなのか…
「ミオンちゃんって、断らないよね?」
「え?」
「ほら、皆に、あれもこれもって頼まれるけど」
「あー、そうだね…」
「優し過ぎない?」
「優しい……?のかな」
「優しいよ」
「ううん、違うよ。私は優しくないよ。」
アカリは、首を傾げた
「だって、皆、私に任せるから、本来なら自分でやった方が能力付くのに、その分、損してるんだよ。」
「………」
アカリは何も言えなかった。
「面倒臭いから、今忙しいからってテキトーな理由を作る方が、何百倍も面倒なのに」
「それ、分かってるのに、なんで引き受けるの?」
「説明しても、あの人達は理解しないから、それを教えない“優しさ”?」
「……えっと、そんな事言われて、頼みづらいんだけど…」
「うん」
「これ、全部やって貰って良いかな?」
「勿論。」
ミオンは、笑顔で言った。
その翌日から、ミオンは来ることは無かった。
ミオンに色んな事を任せた人は、困り果てた。
自業自得。
ついでに、ミオンは、その頃
旅行へと旅立っていた。(有給消化+離職)
テーマ“この世界は”
この世界は、誰かの創作した世界かもしれない。
私達は、その誰かの描いている
登場人物に過ぎなくて
過去の記憶も、実際に経験した事ではなく
その誰かが考えただけの、設定でしかないかもしれない。
その誰かが、創作することに疲れたら
私達は、永遠に同じ場所で止まり続ける。
創作していたものを全部消したら、私達は消えてしまう。
それだけのモノなのかもしれない。
テーマ“微熱”
吐息が熱い。
身体がだるい。
目があけられない…
外気が冷たい。
頭が痛い気がする。
手を伸ばし、体温計を取って
熱を計る。
微熱。
微熱。
テーマ“はなればなれ”
戦場で男は言った
『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』
『そうか、それならなんとしてでも帰らないとな』
別の男がそう言う。
だが、結婚するといった男は、浮かない顔をしている。
『…結婚するんだ…』
『ん?望まない結婚なのか?』
『まあ、そういう事だな…他に好きな奴が居るわけでも、この戦いで、死にたい訳でもないけれど…』
『親が勝手に決めた婚約とか?』
『まあ……そんな様なものだ。』
『この戦いで自由を奪われているのに、戦いから戻っても自由が無い事に対して、落ち込んでいるのか?』
『…そもそも、俺は生まれた頃から自由なんか無かったから、それはどうでもいいんだ。』
『どうしても好きになれない相手との結婚だったりするのか?』
『……どうなんだろうな。好きになろうと思えば好きになれるのかもしれない。』
今更、結婚を嫌だと言っても、許されない事を男は知っている。
『逃げたらいいんじゃないか?もし、この戦いが終わって無事に帰れたとしても、知らない土地に行けばいいじゃないか。』
『逃げる……?』
『自由を知らないのなら、自由を知ればいい。無事に帰れたからって、実家に戻らなければならないなんて決まりは無いんだ。』
『だが…もし、同郷の者にバレたら』
『その時はその時で、知人に会いに行くとでも言えばいい。何、難しく考える事は無いんだから』
『………』
結婚を嫌がっている男は、顔を上げた。
そうして、この戦いが終わり、自分が生きていたとしたら、家族と決別しようと、決めた。
※戦い=戦争ではない。
※戦場は、戦をしている場所ではない。
とりあえず、簡単に死ぬことはない。