テーマ“哀愁をそそる”
秋風にススキが揺れている。
僕はそれを窓越しに見つめている。
隣には、愛猫のコダマがお行儀良く
…お行儀…良く…
…………。
寝そべっていた。
「にぁー…」
僕が一日中家にいる為
いつもみたいに、外に出られず
不貞腐れているようにも見える。
いつもみたいに、勝手に外出しても
別に構わないのだけれど(色々予防接種は済ませてある)
定位置の如く、僕の行く場所行く場所に付いてくる。
トイレ、キッチン、寝室…
さっき迄、浴槽の掃除をしていた時には
風呂場前に居て、中には入ってこようとしなかったけれど。
窓を開け
「ほら、」
そう言うと、ノロノロと外に出る。
一歩歩くごとに、振り返り
「にぁー」
と鳴く。
「追い出したいわけじゃない」
洗濯物を干したいだけだ。
コダマを家の外に出さないで
洗濯物を干したら、コダマの毛まみれになった事がある為
なるべく、コダマが居ないときに
干したかった。
洗濯物を取って来て、干していると
さっき迄、振り返って居たのが
嘘のように、ススキにじゃれついている。
「にぁー!」
本人(猫)は戦っているのかもしれないが
まあ、楽しそうだから、何でもいいかと思う。
季節的に、外は哀愁をそそる情景が広がっているはずなのに
我が家の愛猫のおかげで、哀愁とは
全く無関係な風景が見える。
幸せだとそう思う。
(哀愁、そそらない。)
テーマ“眠りにつく前に”
最近悪夢をよく見るせいで
眠るのが怖くなっている。
人によっては、悪夢では無いような
だけれど、わたしには、悪夢な夢。
その、悪夢を見ないようにするために
いくつか、おまじないを試してみるのが
眠りにつく前の日課になりつつある。
ハーブティーやホットミルクも
快眠にはオススメらしいけれど
私は、その影響で、夜間頻尿に悩まされるから
それはしない。
眠りにつく前に
睡眠導入剤を水で流し込み
布団に入る。
以前は、眠りに落ちるまで
2〜3時間要していたのが
今では、睡眠導入剤のおかげなのか
おまじないのおかげなのか分からないけれど
最大でも1時間で眠りに付ける。
早い時はものの数分で。
一応、睡眠導入剤は
病院から出されているもので
かなり強力な物らしい。
まあ、未だに悪夢はなくならないけれど
一応色々試してみてはいる。
それが私の眠りにつくまでの
ルーティーン。
テーマ“永遠に”
それは、偶然だった。
本屋で同じ本を手に取ったり
パン屋さんで最後の1つを譲り合ったり
勤めていた職場に転勤して来たり…。
偶然って三回続くと
運命なんだと、随分昔に誰からか聞いたことがある。
そうして、お互いに同じ頃から気になっていた事が判明し
出会って数ヶ月で、私は彼と
交際を始めた。
好きな本、好きな食べ物、好きな色…
色々接点があり、本当に運命なのだと信じていた。
…そう。
婚姻届を出し、彼の家に引っ越すまでは。
「ようこそ!」
彼は、私を笑顔で迎え入れた。
まず、玄関に既視感を感じた。
玄関に飾ってある花、スリッパ、芳香剤
トイレの敷きマット、便座カバー
キッチンのお玉、包丁、菜箸、フライ返し
冷蔵庫、電子レンジ、鍋各種…
寝室のベッド、布団、シーツ、毛布、ハンガー…
全て、私が使用しているものと同じだった。
「ね、ねぇ、私…」
「うん?」
彼は私に微笑む。
「どうかした?」
どうかしないほうがおかしい…。
「一緒に住むってなって、俺のこと嫌いになった?」
「そんな事は…無い…」
けれど、ここまで一致するってある?
「じゃあ、ずっと一緒に居ようね」
「う、うん…」
私もしかして、一番危ない人と結婚してしまったのでは…?
「あ。永遠に、共に過ごそうね?」
…偶然が三回続くとストーカーの可能性…。
テーマ“懐かしく思うこと”
商品名…その名も【ねるねるねるね】
小学生の時、謎に惹かれた
あのお菓子…
親に気持ち悪いと言われながら
混ぜに混ぜて食べた
あのお菓子…
別美味しいと思わなかったけれど(不味いわけではない)
気が付けば、買わなくなった。
いつの間にか、ポテトチップスやチョコレート菓子の方を買うようになった。
未だに普通に売っているし
なんなら最近【大人のねるねるねるね】
とか言う商品も販売されたという噂をきいた
けれども、特に買ってみようとも思えず…
あの頃、番号通りに粉末を混ぜ合わせ
色が変わったー!とはしゃいでいた事を
懐かしいと思う。
(…無理矢理だなぁ…)
テーマ“もう一つの物語”
愛する人と出会い
結婚し、もう50年が経過した。
子宝にも恵まれ
その子どもたちも親になり
みんな幸せそうにしている。
まあ、見せない苦労は
当然あると思うけれど
それでも、私たちに見せる姿は
幸せそうなので
幸せなのだと思う事にしている。
妻は、私の横で微笑み
私はその横で花を眺めている。
日差しが暖かく
うつらうつらと眠りについた。
ー妻サイドー
50年連れ添った主人が
隣で横になっている。
本人は知らないけれど
彼の寿命はそろそろ尽きる。
先日、医師に
もって後、数日だと告げられた。
もう、手の施しようが無いのだと。
最近、眠る時間が増えている。
離れた場所に住む
子どもたちに、頻繁に顔を出すように頼み
幸せそうな姿を見せて欲しいと頼んでいる。
「見てください。貴方が好きな花が今年も咲きましたよ」
そう声をかけているけれど
聴こえていないだろう。
辛くも、苦しくもあったが
私は、なるべく笑顔で話し掛けた。
主人が、花に目を向ける。
そうして、春の暖かな日
主人は、主人が好きな花を最期に見て
天へ昇っていった。
ありがとう、愛しき人へ。
【もう一つの物語って、こういう意味でも良いのだろうか…】