Ray.O@創作

Open App
6/21/2024, 12:07:14 AM

【あなたがいたから】

もともとひとりが好きだった。

あなたは束縛もしなかったし、話も聞いてくれたし、なによりそばにいて心地いい存在だった。ただ、それでも、次第に窮屈に感じてきてしまった。飽きたわけではない。嫌いにもなっていない。

ごめん、と謝ったら、あなたは、わかった、と告げた。それがかれこれ2ヶ月前のことだ。

ふとした瞬間に、あなたならこう言うだろうな、こんな顔するだろうな、なんて考えがどんどん膨らんでいく。

なんで手を離したんだろう。全部自分のせいなのに、胸がやけに痛い。あなたのことを考えていると、夜はどんどん更けていく。

深夜3時に目が覚めて、水を飲もうと起き上がった。廊下をふらふらと歩いて、コップに水を入れる。手に飛んだしぶきを見て、無性に泣きたくなった。

もう、ひとりが怖い。あなたのせいで、ひとりでいることが恐ろしくなってしまった。同時に、あなた以外の誰かに隣に居てもらうことも、考えられなくなってしまった。自分勝手だ。エゴだ。本当に自分でも自分が嫌いになる。

過去の恋とは美化されるものらしい。人間の思考特性ゆえだとわかっていても、それでも、多分、俺はもう二度と誰かを愛せない。

あなたがいたから。

6/19/2024, 10:33:40 AM

【相合傘】


「今日雨みたいだけど、どうする?」

というあなたからのライン。私は「会いたい」と返す。久しぶりにあなたに会える、今日は雨だった。

お気に入りの淡いブルーの長傘に、黒い網上のレインブーツ。低気圧で頭が重くても、お気に入りの傘で、自分のための青空を広げる。

駅前でふと見回すと、人がみんなカラフルな点のように見えてくる。淡いピンク、シックなブラック、キラキラしたユニコーンカラー、透明なビニール。

レインブーツをパタパタさせながら、傘の柄を時たま持ち替えて、あなたの姿を待つ。

「お待たせ」

水色の傘だから、すぐわかった、と笑うあなたの差す傘はネイビーブルーで、まるで新月の空みたいに見えた。その隣を、空色の傘の私が歩いていく。

どちらか片方の傘に入るのは、私たちらしくない。それぞれの傘で、隣に立って歩きたい。それも愛だから。

6/18/2024, 1:48:59 PM

【落下】

 ぷつん、と何かが切れてしまうことがある。帰りの電車、布団の中、ふと空を見上げた時、どんな瞬間でも、やりたいこと全てが無意味なように感じて、全身を保っていた意識という意識が落ちてしまうことが、ある。

もう何もしたくないと、泣きたくなる時だってある。自分が嫌になって仕方がなくなる時だってある。泣き叫んでも何をしても夜が明けなくて、ただただ画面だけ追いかけている日もある。

落ちていくのが怖い。気持ちも、自分自身も、周りからの信頼も、全てがあっけないもののように思えて、無性に生きていることが恐ろしくなってしまう夜がある。

でも、言えることがある。高さ10メートルから落ちた先のコンクリートより、一人で潜った食塩水より、手首に当てた冷たい金属なんかより、心の奈落の方がまだ暖かい。心が寒いから、しばらくはまだ自分の奈落に埋まっていよう。自分に向き合ってあげよう。しんどいよね、何もしたくないよね、頑張ってるよって、言えるようにしてあげよう。

いいお天気の日に布団を干すように、元気な時に、自分の心をなるべく、羽毛布団みたいに柔らかく優しくしておこう。落ちても怖くないって言えるように。

あなたにとってあなたが、私にとって私が、安心できる着地点であり、出発点であったらいいな。

6/17/2024, 10:55:29 PM

【未来】

将来のことなんて、誰にもわからないだろう。俺は目の前の原稿用紙に心の中で毒づいた。今週末までの課題、テーマは「将来の夢」。そんなものないと思いつつも、でも課題は目の前にあるので、ペンを指の間で遊ばせる。

姉はこの春から医学部に行った。別に親が医者になれと言ったわけではない。ただ、なりたいものになりなさい、とだけ言われてきた。

姉に、どうして医者になりたかったの、全然興味なさそうだったじゃん、と尋ねてみたことがある。ただ、なりたかったから。そう笑う姉を見て、できる人は何にでもなれるんだな、と気がついてしまった。才能がある人間は、こうも簡単に、無意識に周りに圧力をかける。

たまに、苦しくなることがある。学歴や頭脳が全てじゃないことは知っている。少なくとも姉は、そう言う人間ではない。それでも、息が苦しくなるような、そんな痛みが胸の奥からじわじわと広がってくる。

俺は何になりたいんだろう。いや、何にならなれるんだろう。夜は更けていく。

6/17/2024, 3:29:16 AM

【1年前】

きっかけは些細なことだった。ちょっとした喧嘩から、不信感が募って、募って、お互い限界だったのだろう、私たちは別れた。

もうあれから1年経とうとしている。あなたは今どこで歩いているのだろう。誰と笑っているのだろう。そう思っていた矢先に、見慣れたアイコンからの通知が来た。ブロックしそびれていたのだ。躊躇しながら、トークを開く。

「もう一度会えませんか?」

都合が良すぎる。私はやっと立ち直ったんだよ。今、やっと他の誰かに真剣に向き合おうとしてたんだよ。忘れられてないのは私だけだって信じて、次の道を歩もうとしてたんだよ。

「遅いよバカ」

投げたスマホがクッションに当たって、ぽすん、という間抜けな音を立てる。いつもどこか抜けていて、真っ直ぐだけど、肝心な言葉がすぐ出て来ないあなただった。こんな俺でごめんね、が口癖だった。

「もう、遅すぎだって」

そんなところが好きだったのだ、と今更気づいた。

Next